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第1章 Come in the Rain
26. 刹那
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何が起こったのかはわからないけど、少しだけ落ち着いた。
「あっ、大丈夫? ずいぶん取り乱してたけど」
俺の顔を覗き込むようにしていた、ディープブルーの瞳と目が合う。
「すごくしんどそうでこっちも気持ち良……じゃなかった、当てられそうになるくらいだったし……色々大丈夫?」
「おいやめろ。ほとんど初対面の相手にその……なんだ、自身の特殊な性癖についての露骨なカミングアウトをするな」
「いや、ほら……我慢したしセーフじゃない……?」
クソほどどうでもいい話になっている気がする。
頭はまだぼんやりしているけど、特に変わったところがあるとは思えない。
世界はぐにゃぐにゃしているし、何が起こってるのかよくわからないのは、まあ、別に大丈夫だろう。よくあることだし。
「まあ元から×んでるなら、×ぬことはないから安心かな」
「安心なのか、それは」
「便利だよ。肩凝ったら首とか取り外しできるし」
「……こんな時ほどポジティブシンキングが重要だということか。なるほど」
「レヴィくんって、ホント真面目だよね」
相変わらず、特定の言葉にノイズが走る。
抑えつけたはずの「何か」が胸の奥底で暴れる。
「ところで、先ほどの彼女はどこへ消えた?」
「イオリちゃん? あの子実体がないから、すぐどこかに行ったり現れたりするよ。そのうちまた会えるかも。……あ、レヴィくんは気を付けてね。下手に刺激するとあの子、呪いまき散らすから」
「……ああ、そういう系統の……」
「僕的にはかなり気持ちいいんだけど、たぶん、一般的にはすごくキツいことになるはず」
「そうか、つまり命の危機を感じるレベルということだな」
「うん!」
「いい笑顔で言うな」
変態がまた何か言ってる。
……あれ。何だ。何か……「湧いて」来そうな感覚がある。
「まあ、でもローザさんが言う通り『呼んだら来る』ってのは事実だったね。弟くんとか、特定の相手じゃないと無理だろうけど……協力してもらえたら心強そう」
「……大丈夫なのか? どう見ても正気を失っているが」
「大丈夫でしょ。頭おかしい人ってね、案外目的が一致したらどうにかなるんだよ」
「特定の偏った状況下での経験を一般化するな! だいたい『頭がおかしい人』という括りが大雑把すぎるだろう!」
そこにいるのが二人か三人か四人かよくわからないけど、やいのやいのうるさい。
胸の奥から熱い塊がせり上がる。痛みが思考を塗りつぶしていく。……その瞬間、ほんの少しだけ頭が「冴えた」。
目の前にいるのは赤い髪の男と、亜麻色の髪の男。……男? 片方は女かもしれない。
何人いるのかよくわからなかったけど、視界がいきなりハッキリしたから、二人だとわかった。
湧きあがった「何か」が形になる。「言葉」として、具象化される……。
「お前らいっぺん静かにしろ。何を求められてんのかすらわかんないのに、俺にどうしろって……?」
きょとん、と、ディープブルーの瞳とエバーグリーンの瞳が見開かれる。
亜麻色の髪のほうが、なぜか感極まった様子で叫んだ。
「レヴィくん!!! 話通じた!! たぶん初めて意思疎通できた!!」
……。俺、いったい何だと思われてたんだ……?
視界が歪む、ずきん、ずきん、と痛みが思考を蝕んでいく。地面に真っ赤な液体が散る。
「……なるほど」
その様子を見つめ、至って冷静に、赤髪の方が告げた。
「死の刹那……『まだ生きていた』瞬間を繰り返しているようにも見えるな。……死にも至れず、生にも還れない。その状態では、狂っても仕方がない」
死にも至れず、生にも還れない?
違う。俺は、俺はまだ……
死んでいない?
こんな状態で、本当に?
「しかし……なぜ、こんな状態を無視できる? 弟がいるのだろう。そいつらは何をしている」
冷たく、それでいて怒気を孕んだ声。
……ああ、ほんとにな。
なんで、助けてもくれないのに、解放してもくれないんだろうな。
だけど……俺も、それで良かった。
忘れていたかった。続けていたかった。失われた時間から、「先」に進みたくなかった。
だって、そうしたら……
生きてるあいつらは、死んでる俺を置いて行くから。
いや、本当はそのほうがいい。俺のことなんか忘れて、あいつらは「先」に進まなきゃいけない。
それなのに、俺は縋りつかれた手を振り払えなかった。
死んでる俺は、生きてるあいつらを、置いて逝けなかった。
「まあ……兄弟の事情はそれぞれだしね。そこは、僕らが首を突っ込むことじゃないでしょ」
青白い手が差し出される。
地面に散った鮮血が目に痛い。かつて絶望を突き付けた色から逃げられない。
「君、頭はおかしいけどそんなに害がある感じしないからさ、協力してくれない? 何をしたらいいのか、自分では判断できないでしょ?」
視界が霞む。また、ぐにゃりぐにゃりと歪んでいく。
「……もう、限界そう?」
痛みが消えていく。食いつぶされた思考が漂白される。
「俺」が「誰」かわからなくなる間際、ぽろりと、涙が頬を伝ったのが分かった。
「……ッ、ぁ……」
押し殺してきた「願い」が、零れ落ちる。
「死にたくない……ッ」
そうしてまた、「俺」の意識は奥深くに沈んだ。
「あっ、大丈夫? ずいぶん取り乱してたけど」
俺の顔を覗き込むようにしていた、ディープブルーの瞳と目が合う。
「すごくしんどそうでこっちも気持ち良……じゃなかった、当てられそうになるくらいだったし……色々大丈夫?」
「おいやめろ。ほとんど初対面の相手にその……なんだ、自身の特殊な性癖についての露骨なカミングアウトをするな」
「いや、ほら……我慢したしセーフじゃない……?」
クソほどどうでもいい話になっている気がする。
頭はまだぼんやりしているけど、特に変わったところがあるとは思えない。
世界はぐにゃぐにゃしているし、何が起こってるのかよくわからないのは、まあ、別に大丈夫だろう。よくあることだし。
「まあ元から×んでるなら、×ぬことはないから安心かな」
「安心なのか、それは」
「便利だよ。肩凝ったら首とか取り外しできるし」
「……こんな時ほどポジティブシンキングが重要だということか。なるほど」
「レヴィくんって、ホント真面目だよね」
相変わらず、特定の言葉にノイズが走る。
抑えつけたはずの「何か」が胸の奥底で暴れる。
「ところで、先ほどの彼女はどこへ消えた?」
「イオリちゃん? あの子実体がないから、すぐどこかに行ったり現れたりするよ。そのうちまた会えるかも。……あ、レヴィくんは気を付けてね。下手に刺激するとあの子、呪いまき散らすから」
「……ああ、そういう系統の……」
「僕的にはかなり気持ちいいんだけど、たぶん、一般的にはすごくキツいことになるはず」
「そうか、つまり命の危機を感じるレベルということだな」
「うん!」
「いい笑顔で言うな」
変態がまた何か言ってる。
……あれ。何だ。何か……「湧いて」来そうな感覚がある。
「まあ、でもローザさんが言う通り『呼んだら来る』ってのは事実だったね。弟くんとか、特定の相手じゃないと無理だろうけど……協力してもらえたら心強そう」
「……大丈夫なのか? どう見ても正気を失っているが」
「大丈夫でしょ。頭おかしい人ってね、案外目的が一致したらどうにかなるんだよ」
「特定の偏った状況下での経験を一般化するな! だいたい『頭がおかしい人』という括りが大雑把すぎるだろう!」
そこにいるのが二人か三人か四人かよくわからないけど、やいのやいのうるさい。
胸の奥から熱い塊がせり上がる。痛みが思考を塗りつぶしていく。……その瞬間、ほんの少しだけ頭が「冴えた」。
目の前にいるのは赤い髪の男と、亜麻色の髪の男。……男? 片方は女かもしれない。
何人いるのかよくわからなかったけど、視界がいきなりハッキリしたから、二人だとわかった。
湧きあがった「何か」が形になる。「言葉」として、具象化される……。
「お前らいっぺん静かにしろ。何を求められてんのかすらわかんないのに、俺にどうしろって……?」
きょとん、と、ディープブルーの瞳とエバーグリーンの瞳が見開かれる。
亜麻色の髪のほうが、なぜか感極まった様子で叫んだ。
「レヴィくん!!! 話通じた!! たぶん初めて意思疎通できた!!」
……。俺、いったい何だと思われてたんだ……?
視界が歪む、ずきん、ずきん、と痛みが思考を蝕んでいく。地面に真っ赤な液体が散る。
「……なるほど」
その様子を見つめ、至って冷静に、赤髪の方が告げた。
「死の刹那……『まだ生きていた』瞬間を繰り返しているようにも見えるな。……死にも至れず、生にも還れない。その状態では、狂っても仕方がない」
死にも至れず、生にも還れない?
違う。俺は、俺はまだ……
死んでいない?
こんな状態で、本当に?
「しかし……なぜ、こんな状態を無視できる? 弟がいるのだろう。そいつらは何をしている」
冷たく、それでいて怒気を孕んだ声。
……ああ、ほんとにな。
なんで、助けてもくれないのに、解放してもくれないんだろうな。
だけど……俺も、それで良かった。
忘れていたかった。続けていたかった。失われた時間から、「先」に進みたくなかった。
だって、そうしたら……
生きてるあいつらは、死んでる俺を置いて行くから。
いや、本当はそのほうがいい。俺のことなんか忘れて、あいつらは「先」に進まなきゃいけない。
それなのに、俺は縋りつかれた手を振り払えなかった。
死んでる俺は、生きてるあいつらを、置いて逝けなかった。
「まあ……兄弟の事情はそれぞれだしね。そこは、僕らが首を突っ込むことじゃないでしょ」
青白い手が差し出される。
地面に散った鮮血が目に痛い。かつて絶望を突き付けた色から逃げられない。
「君、頭はおかしいけどそんなに害がある感じしないからさ、協力してくれない? 何をしたらいいのか、自分では判断できないでしょ?」
視界が霞む。また、ぐにゃりぐにゃりと歪んでいく。
「……もう、限界そう?」
痛みが消えていく。食いつぶされた思考が漂白される。
「俺」が「誰」かわからなくなる間際、ぽろりと、涙が頬を伝ったのが分かった。
「……ッ、ぁ……」
押し殺してきた「願い」が、零れ落ちる。
「死にたくない……ッ」
そうしてまた、「俺」の意識は奥深くに沈んだ。
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