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第二章 ジェノバ港より旅は続く

二十一、「義経一行」

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 船の下、数名の男が俺達の前にいる。
 右手側には「正義の道」を名乗る騎士。左手側には図体のでかい神父服の男。中央には背の低い、それでいて頭が回りそうな男。
 他にも二人ほどが騎士に付き添っている。
 エセ神父以外は初めて見るが、おそらく、他の男たちもカミーノ・デ・ラ・フスティシアの仲間だろう。

「先程は血の香りと殺気につられ、非礼を働いた」
「……つまり、ハナから襲うつもりはなかったと?」

 俺の言葉に、中央の男が大きく頷いた。

「その通り。この騎士は元はと言うと、貴方の殺気に当てられたのです」
「く、クエルボ殿、何もそのような言い方はありますまい」
「おや、事実でしょう?」

 神父がたしなめるのも聞かず、クエルボと呼ばれた男は平然と語る。
 短く切り揃えた赤髪、鋭く切れ長な瞳。……なんと言うのか、ずる賢そうな男だ。
 ……と、今度は当の騎士が口を開いた。

「どのような事情があったにせよ、先に剣を抜いたのは私。非礼を詫びるのは当然のこと」

「正義の道」は毅然と語る。……転生しているとはいえ中身は義経だ。油断はできない。
 奴は奇襲を得意とする。しかも、向こうも殿下と同じくスペインから追われていると来た。殿下を差し出すことで立場を安定させる……なんて、こっちと似たようなことを考えた可能性は十分にある。

「……我らは訳ありの身。大した詫びはできませんが、かの騎士は妙に律儀者りちぎものでして……顔を見せねば気が済まない、と」

 赤髪の男は眉をひそめつつ語る。顔を見せねば……つっても、仮面で顔は見えちゃいないがな。
 ……さて、こちらはどう出るか。

「しばしお待ちを」

 とりあえずそう言っておいて船の中に引っ込み、ジャックとアリーを呼び付けた。

「どう思う?」
「うーん……怪しいですねぇ……何か裏がありそうです」

 俺の問いにアリーは難しい顔をしつつ、ジャックも首をひねって考え込んでいる。

「……ともかく、向こうの流れに乗せられちゃまずいんじゃねぇの?」
「ああ。……と、なるとだ。こちらからある程度先手を打った方がいい」

 ……と、相談が長引いている間に、しびれを切らしたような声が背後から飛んでくる。

「あのー? もうよろしいですか?」

 クエルボとかいう野郎の声だ。

「ど、どうされますか?」
「お前に任せるぜ、ズィルバー!」

 アリーとジャックの視線を感じる。どうしたもんか……。
 ……いや、だが……上手くいけば絶好の機会でもある、か。

「……考えがある」

 事が上手く運ぶかどうかは分からない。
 ほとんど、博打に近い部分もある。

「耳を貸せ」

 ここが、正念場しょうねんばだ。
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