上 下
69 / 75

64.「友達でも、分かり合えないことはある」

しおりを挟む
 ニコラス曰く。
「怪異喰」は、元々はとある「怪異」の残留思念だった。
 当の「怪異」自体はよくある怨霊のたぐいで、既に浄化され、正しいことわりに戻っているらしい。
 
 けれど、無念は残った。
「寂しい」……その想いだけは、怪異そのものが浄化されても、切り離されて取り残された。

 時とともに風化し、消えていくはずだった想い。
 ほんの小さな、満たされなかった悔恨。

 偶然にも、世の理そのものが乱れていたことが、新たな「怪異」の誕生を許した。
 世界の狭間はざまを渡り歩き、数多の怪異どうるいを喰らい、「怪異喰」は強大な力を得た。

「それで、あたしも食べられてもうてなぁーーーー!!」

 今や「怪異喰」の一部である黒沼さんも、わたしと同じく「怪異」に転生していたらしい。
 わたし達のいた「元の世界」が崩壊してしまっている以上、さほど不思議なことではないとはいえ、数奇な運命だなあ……。

「うう……呪縁じゅえん世界、楽しかってんけどなぁ」
「あー……黒沼さん、にいってたんだ……」
 
「呪縁 ~犬首村にきっと『来る』~」……「ホーンテッド・ナイトメア」の次に出たゲームだ。
 内容は……なんていうか……「ホーンテッド・ナイトメア」の和ホラー版っていうか……
 もしかして、これもニコラスが一枚噛んでたりしない……?

「ヒヒッ、一応言っておくと、ジブンじゃないよ」
 
 あっ、言いたいこと読まれてた。

「ホラ……あたし、推し総攻め派やん……?」
「まあ、うん、そうだね……」
「せっかく『呪い唄のおみち』に転生できたんやし、色々試すやろ……? そしたら蛇神へびがみさまにキレられて、追い出されてもうたところを『怪異喰』にパクッと……」
「……黒沼さんの好みだと、蛇神さまって受け?」
「うん。あたし僧正そうじょう総攻め派やし。推しの前やったら神も武者むしゃも受けやろ」

 そりゃキレられるよ。

「ほんで? 咲良さくらさんは今どういう状況?」
「えーと……話すと長くなるんだけど……」

 かくかくしかじか……と、黒沼さんに説明する。
 黒沼さんは「はぇー……」と感嘆の吐息を漏らし、こう呟いた。

「せやんなぁ。やっぱ、公式はゴーチェルやろなぁ」
「待って、納得するのそこ???」

 いやわたしだって分かってたよ! 現実はちゃんと見えてるよ! でも夢を見るのは自由じゃん!?

「ほんで、ゴーチェルは悲恋だからこそ輝くんよなぁ」
「イヤーーーーーッやめて!! 今それ一番聞きたくない!!!」

 いや分かるけど! 言いたいことは分かるけどさぁ!!

「ここは、二人まとめてアルバート様にNTRねとられでどうや」
「そろそろはっ倒すよ?」

 こいつ、推しと同じで欲望に正直過ぎじゃない??
 推しとファンが似るってマジなの???
 いやぁでも、わたしはゴードンとそんなに似てない気がするけどなぁ。

「すんません、お嬢。話が1ミリもわかんないッス」
「わかんなくていい! たとえ0.5ミリだとしてもわかんなくていいから!!」
「お、おう……?」

 NTR……寝取り、寝取られのこと。
 攻めや受けは……ちょっとここでも言いにくいけど……なんにせよ、別に知らなくていい概念でしかないよね……。

「要するに、僕が全員を抱けばいいと思っているわけだね。面白いことを言うお嬢さんだ」

 って思ってたら変態野郎アルバート、思いっきり理解してるよ!!!!!
 ……う、うわぁ、予想外……! ここからわたし達、いったいどうなっちゃうの……!? 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

婚約破棄ですか? 無理ですよ?

星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」 そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。 「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」 それはそれは、美しい笑顔で。 この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。 そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。 それでは、どうぞ!

処理中です...