上 下
39 / 75

37.「その曲どこで覚えたんです???」

しおりを挟む
 その後、三人(ゴードンはあまり役に立たないので主に二人)で話し合い、この館の改革に必要な条件を洗い出した。

「よし、おさらいするよ」
「ウッス……!」

 笑いをこらえるニコラスをしり目に、ゴードンの目をしっかり見つめて復習する。
 何度も言わないと、こいつ、すぐ忘れそうだしね。
 まず一つ目。

「なるべくみんなが参加できる、楽しい催しイベントを開く」
 「楽しい催し、了解ッス!」

 お笑いでも、アイドルでも、この際なんでもいい。
 じめじめしたホラーな空間を明るくできる催しが、この館には必要だ。
 少しずつでも、「世界観」そのものを作り替えていかなきゃ。

 そして、次に、大切なことがもう一つ。
 
「この館の住人たちに寄り添い、前向きにさせる」
「前向き、了解ッス!」

 要するに「怪異」としての核である「無念」や「後悔」、「執着」などを解いて、「怪異喰かいいぐらい」に捕食されるのを防ぐ……という方策。
 ……これが、なかなか難しそうなんだよね。
 簡単に解決できるのなら、そもそも数百年単位でこじらせてないだろうし……。

 それに、「前向きになったら成仏させられない? 大丈夫?」とも思ったけど、ニコラス曰く「その程度で赦されてに戻れるとは思えないねえ(笑)」だそうだ。

 逆に言えば、それだけ館の面々の業は深いと言うこと。
 自我を持ったメンバーだけじゃない。この館に迷い込んで、首を盗られたり捕食された被害者モブでさえ、手に負えないからとことわりの外に弾き出された「死者」の端くれで、「怪異」のなり損ないなんだ。
 ……大丈夫かな。本当に。

 不安が、表情かおに出ていたのか。
 ゴードンは困ったように笑い、手を握ってくれた。

「きっと、大丈夫ッスよ」 

 ……この笑顔、なんだか、懐かしい気がする。

 ──もう、大丈夫ッスよ…… 

 「あの時」もゴードンは、血に塗れた手を、震えるわたしの前に差し出した。

 ──ありがとうございます

 嬉しかった。
 相手が血塗れでも、その方法が殺戮だったとしても。
 あの瞬間、彼は、間違いなくわたしの救いヒーローだった。

「……大丈夫、かな」
「だって……今のお嬢は、楽しそうじゃないスか」

 楽しい、か……。
 確かに、そうかもしれない。
 大変なことばかりだけど、不安なこともいっぱいあるけど、今のわたしは、今世チェルシーになってから一番「生きている」はず。

「ヒヒッ、良い場面だねぇ」

 ニコラスがバイオリンを構え、音楽を奏でる。
 明るくてハツラツとした、楽しげなメロディ……んん? 待って、これって……

 チャラララッチャラ~チャラララッチャラ~チャラララッチャラッチャ♪
 ホンワカパッパ~ホンワカパッパ~♪

 吉〇新喜劇の曲やないかーい!!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...