37 / 76
35.「【悲報】この男、シンプルに頭が弱い」
しおりを挟む
この館に、いつ怪異喰が訪れるのか。
それはわからない。
この空間では、「時間」という概念が希薄だ。日付なんてものは存在しない。
もうすぐそこまで来ているかもしれないし、まだまだ先になるかもしれない。
ともかく、期限がわからない以上、わたし達は対策を急ぐしかない。
「……と、いうわけで、早急にこの館を改革しなきゃいけない。ここまでは分かった?」
「……えー……っと……」
わたしの説明に、ゴードンは微妙そうな顔で首を捻る。
あー、絶対分かってないねコレ。
「……どこから分からない?」
わたしの質問に、ゴードンは恐る恐るといった様子で後ろのホワイトボード(※ニコラスがどこからか持ってきた)を指さした。
うん、まだちょっとビビってるっぽいね。なんか、ごめん。
ちなみにニコラスは、後方でバイオリンを構えてニヤニヤしている。何がしたいんだろう。BGM流したいのかな。
「『ホラーな世界観をコメディにする』って書いてるじゃないスか」
「うん」
「その……シンプルに、言ってる意味がわかんねぇッス」
…………。
これは……先が思いやられるなあ……。
「言葉の意味が分からない……ってこと?」
「いや、言葉の意味はわかるッス」
「じゃあ、『ホラー』はどういう意味? 言ってみて」
「なんか……人の恐怖を……こう……煽る感じのヤツ……」
すごくフワッとしてるけど、言いたいことは分かる。ゴードンはバカだけど、教育を受けていないわけじゃないからね。考えるのが下手なだけで。
「じゃあ、コメディは?」
「えーと……笑える話ッスかね」
「なんだ……ちゃんと分かってるじゃん」
「……。……いや、わかんねぇッス。怖い話を笑い話にしたら、何か変わるんスか」
「えっ」
その質問は想定外だった。
ゴードンは真剣な瞳で、わたしをじっと見つめてくる。や、やめてよ!余計に思考がパンクしそうになるから……!
「だ、だいぶ変わると思うけど……」
髪をいじりつつ、平静を装う。ヘアスタイルも気になるけど、わたしの顔面大丈夫かな? 変な表情になってないかな……? あの謎液体荒ぶってないかな……!?
……なんて、慌てるわたしの内心とは裏腹に、ゴードンの返事はどこまでも真っ当だった。
「そッスかね……。俺らの過去も、館の存在も、何も変わんねぇ気がするんスよ」
……ああ、そうか。
ゴードンには、分からないんだ。
「事実」が変わらなくても、「解釈」には振れ幅が存在するんだって。
まだ、彼のどこかで燻っている感情があるのかもしれない。
世界を変えるには、より強く、より優れた暴力がなくてはならない。……そんな、悟りにも似た諦めが……。
「わたし達が『怪異』になったのは、思念の強さが関係してる」
この館に住まう「怪異」は、大抵の場合重大な「加害者」であり、同時に深刻な「被害者」だ。
怨念、悔恨、悲嘆……あらゆる負の感情が絡み合って、正しい理から外れてしまったはぐれ者の魂……それが、「怪異」。
……でも。
「館の住人が『事実をどう捉えるか』も、重要になってくるはずだよ」
わたし達が「死者」で「怪異」である事実は変えられなくても、それが「悲劇」なのか、「喜劇」なのかは変えられる。
わたしの説明に、ゴードンは静かに頷いた。
「……もっかい説明お願いして良いスか」
ですよねー!!!
知ってた!!!
それはわからない。
この空間では、「時間」という概念が希薄だ。日付なんてものは存在しない。
もうすぐそこまで来ているかもしれないし、まだまだ先になるかもしれない。
ともかく、期限がわからない以上、わたし達は対策を急ぐしかない。
「……と、いうわけで、早急にこの館を改革しなきゃいけない。ここまでは分かった?」
「……えー……っと……」
わたしの説明に、ゴードンは微妙そうな顔で首を捻る。
あー、絶対分かってないねコレ。
「……どこから分からない?」
わたしの質問に、ゴードンは恐る恐るといった様子で後ろのホワイトボード(※ニコラスがどこからか持ってきた)を指さした。
うん、まだちょっとビビってるっぽいね。なんか、ごめん。
ちなみにニコラスは、後方でバイオリンを構えてニヤニヤしている。何がしたいんだろう。BGM流したいのかな。
「『ホラーな世界観をコメディにする』って書いてるじゃないスか」
「うん」
「その……シンプルに、言ってる意味がわかんねぇッス」
…………。
これは……先が思いやられるなあ……。
「言葉の意味が分からない……ってこと?」
「いや、言葉の意味はわかるッス」
「じゃあ、『ホラー』はどういう意味? 言ってみて」
「なんか……人の恐怖を……こう……煽る感じのヤツ……」
すごくフワッとしてるけど、言いたいことは分かる。ゴードンはバカだけど、教育を受けていないわけじゃないからね。考えるのが下手なだけで。
「じゃあ、コメディは?」
「えーと……笑える話ッスかね」
「なんだ……ちゃんと分かってるじゃん」
「……。……いや、わかんねぇッス。怖い話を笑い話にしたら、何か変わるんスか」
「えっ」
その質問は想定外だった。
ゴードンは真剣な瞳で、わたしをじっと見つめてくる。や、やめてよ!余計に思考がパンクしそうになるから……!
「だ、だいぶ変わると思うけど……」
髪をいじりつつ、平静を装う。ヘアスタイルも気になるけど、わたしの顔面大丈夫かな? 変な表情になってないかな……? あの謎液体荒ぶってないかな……!?
……なんて、慌てるわたしの内心とは裏腹に、ゴードンの返事はどこまでも真っ当だった。
「そッスかね……。俺らの過去も、館の存在も、何も変わんねぇ気がするんスよ」
……ああ、そうか。
ゴードンには、分からないんだ。
「事実」が変わらなくても、「解釈」には振れ幅が存在するんだって。
まだ、彼のどこかで燻っている感情があるのかもしれない。
世界を変えるには、より強く、より優れた暴力がなくてはならない。……そんな、悟りにも似た諦めが……。
「わたし達が『怪異』になったのは、思念の強さが関係してる」
この館に住まう「怪異」は、大抵の場合重大な「加害者」であり、同時に深刻な「被害者」だ。
怨念、悔恨、悲嘆……あらゆる負の感情が絡み合って、正しい理から外れてしまったはぐれ者の魂……それが、「怪異」。
……でも。
「館の住人が『事実をどう捉えるか』も、重要になってくるはずだよ」
わたし達が「死者」で「怪異」である事実は変えられなくても、それが「悲劇」なのか、「喜劇」なのかは変えられる。
わたしの説明に、ゴードンは静かに頷いた。
「……もっかい説明お願いして良いスか」
ですよねー!!!
知ってた!!!
1
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです


妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

気だるげの公爵令息が変わった理由。
三月べに
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。
王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。
そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。
「生きる楽しみを教えてくれ」
ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。
「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」
つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。
そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。
学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。
「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」
知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。
「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」
「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」
そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。
「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」
ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。
(なろうにも、掲載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる