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29.「おまわりさんこいつです」

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「ぐ……ッ、私は……まだ……」

 霧が晴れつつある中、エドマンドは床の剣に向けて懸命に手を伸ばす。
 眼からは血の涙が溢れ、赤く染まった瞳は焦点が定まっていない。……いつもの、「復讐」に取り憑かれた状態だ。
 
「ゴードン! エドマンドを保護して!! 彼、アルバートからわたしを助けてくれたの……!」

 何はともあれ、このままじゃエドマンドの尊厳そんげんが大変なことになっちゃう!
 たぶん自分が裸だってことも認識してないし、さすがに放っておけないよ……!!

「……ッ、エドマンド、お前……!」

 ゴードンが唇を噛み締め、エドマンドとアルバートの間に割って入る。

「……おや。君も来たのかい」

 アルバートは眉をひそめ、ゴードンに冷たい視線を向けた。

「良いのかい? 次に脱がされるのは、君かもしれないよ」

 なるほど。この変態、ゴードンのことも……。
 うん、ちょっと期待したのは黙っておこう。
 
「ヘッ……好きにしろ! お前の細っこくてチンケな裸より、俺のが見栄えも良いしなぁ!」

 あー、あんまり恥ずかしがらないタイプね。
 強がってるのかもしれないけど、それはそれでまあ……。
 ちょっと邪念が多すぎるね、わたし。深呼吸深呼吸……。
 
「……ダメだね。全然ダメだ」

 やれやれと首を振り、アルバートは全裸のまま大きく手を広げて見せた。

「そこは! もっと! 僕の裸を徹底的に罵ってくれないと……! 消えろ猥褻物わいせつぶつとか、股間の汚物ぶっ潰すぞとか、そんなふうに!」
「え……無理……」
「どうして!!」
「ええ……どうしてとか言われても……。……キモいから……?」

 ゴードンはドン引きしたまま、どさくさに紛れてエドマンドを助け起こす。
 エドマンドはうつろな瞳でゴードンを見上げ、途切れ途切れに呟いた。

「……同胞どうほうよ。いずれ、暗澹あんたんたる……闇の、彼方かなたにて……栄光は……貴殿の、手……に……」

 そのまま、エドマンドはがくりと気を失う。
 わぁー、全然シリアスな状況じゃないのに、無駄に綺麗な顔だなぁー。「粉雪@エドマンドの鎧になりたい」さんの次回作うすいほんが分厚くなるやつだなぁー。
 
「エドマンド、 何言ってんのか全然分かんねぇぞ! しっかりしろ!! エドマンドー!!!」

 ゴードンの絶叫が部屋に響き渡る。
 茶番にも思える状況の中、ゴードンは大事な部分がわたしに見えないよう、しっかりと自分の身体でさえぎってくれている。ゴードン、グッジョブ。これでエドマンドの尊厳は守られた……。

「……どうやら、騎士くんは君に後を託したらしい」

 あ、やっぱりアルバートには、エドマンド語が分かるんだ……。
 
「けれど、僕の目的は既に果たされた。……レディ、見ていてくれたね?」
「見せるつもりで脱いだんですの?」

 もしもしポリスメン???
 ここに全裸の変態がいるんですけど???
 
「ああ……そんなにさげすまないでおくれ。興奮してしまう」
「何だこいつ、最強か?」

 嬉しそうに自分の肩をかき抱くアルバートを見て、ゴードンがげんなりした顔で呟く。
 うへぇ、厄介だよぉ……。どうしたらいいの、この状況……。

「zzz……」

 エドマンドはなんか、すやすや寝てるし……!
 
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