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16. 「ホラーゲームの企画書を恋愛ゲームの会社に送るの、やめてもらって良いですか?」
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「ジブンは考えた。この館で起こった面白……悲劇的な出来事を、より忠実に再現してもらうためには、どうしたらいいのかをね」
今、明らかに「面白い」って言おうとしたよね。
「……で、潰れかけのゲームメーカーに企画書を送り付けたんだ。起死回生のアイデアがあれば、血眼で飛び付くだろうってねぇ! ヒヒヒッ!」
……この人、やっぱり生まれる時代を間違えたんじゃないだろうか。
いやでも、1999年に死んでるなら、元から音楽家じゃなくてゲームクリエイターになれば良かったのでは? って可能性も……
うん、言うのやめとこ。
「……って、あれ? おかしくない? その話だと、『レディ・ナイトメア』が実在したことになっちゃうけど……」
わたしの質問に、ニコラスは平然とした顔で頷く。
「ヒヒッ、実在しているよ。ジブンの生前の世界では、れっきとした史実さ」
うん???
どういうこと???
「ヒヒヒッ……混乱してるみたいだけど、話は簡単だ。ジブンは、異なる歴史を辿った並行世界に企画書を送り付けたのさ」
「……へっ?」
「この館で強い影響力を持つ怪異、『レディ・ナイトメア』の『前世』がいる世界だからねぇ。縁は充分にある。上手いことこじ開けたらどうにかなったよ」
「んんっ??」
「その世界、ちょっと後に大きな戦争が起こって大変なことになるしね」
「えっ!? マジ???」
「マジマジ。人口が大幅に減って、そのうえ負のエネルギーもドッカンドッカン溢れて法則が乱れ放題、並行世界にも影響が出放題。……で、キミの魂も並行世界で新たな生を受ける手筈になってたわけさ。ヒヒヒッ」
あの、なんか難しい話になってません???
頭が混乱してきたんですけど!?
「……まあ……ひとつ、伝えたいこととしては」
ニコラスは灰色の瞳をすっと細め、わたしの目を真っ直ぐ見つめてくる。
「キミは間違いなく『レディ・ナイトメア』その人さ。……目を逸らそうとしたって無駄だよ。ヒヒッ」
目を、逸らそうとなんか……
……いいや、否定できない。
前世の記憶を取り戻した瞬間から、わたしは、つらい記憶を「他人事」にして追いやった。「自分」じゃなくて「レディ・ナイトメア」の記憶だから、わたしには関係ないって……どこかで、思おうとしていた。
「キミはホラー映画が好きだろう? ホラーゲームと知りつつ、あのゲームを手に取ったんだろう?」
それは、そうだ。
「ちょっと変わったホラーゲーム」だと人づてに聞いて、面白そうだなって思って……
「……別に、おかしなことじゃないでしょ。好きな人がたくさんいるから、ホラー作品があれだけの数生まれてるわけだし。わたしはチェルシーとは違って、普通の……」
「分かってないなぁ。チェルシーも、本来は『普通の子』だったのさ」
ニコラスの言葉に、思わず拳を握り締める。
そうだ。自分でも分かってたはずだ。
普通に生きられるのであれば、それが許されていたのなら、生首を玩具にする異常者になんかならなかった。
「あんな目に遭いさえしなければ、前世と同じように、『ホラーが好き』程度で済んだはずってことさ。ヒヒヒッ」
何も、言い返せない。
「普通」の生き方が選択できたのなら、わたしは「レディ・ナイトメア」になんかならなかった──
……ん? 待って。それってつまり……
──お嬢も……もし、普通に育ってたら、こういうのが好きになってたのかな
──お嬢。……そろそろ、普通に生きようぜ
………………ひらめいた。
ひらめいてしまった。
「ヒッ? どうしたんだい? 突然黙り込んで……」
「ふ……ふふふ……ふふふふふふ……」
思わず笑いが溢れる。
推しとわたし、全然チャンスあるじゃーーーーん!!!!!!
今、明らかに「面白い」って言おうとしたよね。
「……で、潰れかけのゲームメーカーに企画書を送り付けたんだ。起死回生のアイデアがあれば、血眼で飛び付くだろうってねぇ! ヒヒヒッ!」
……この人、やっぱり生まれる時代を間違えたんじゃないだろうか。
いやでも、1999年に死んでるなら、元から音楽家じゃなくてゲームクリエイターになれば良かったのでは? って可能性も……
うん、言うのやめとこ。
「……って、あれ? おかしくない? その話だと、『レディ・ナイトメア』が実在したことになっちゃうけど……」
わたしの質問に、ニコラスは平然とした顔で頷く。
「ヒヒッ、実在しているよ。ジブンの生前の世界では、れっきとした史実さ」
うん???
どういうこと???
「ヒヒヒッ……混乱してるみたいだけど、話は簡単だ。ジブンは、異なる歴史を辿った並行世界に企画書を送り付けたのさ」
「……へっ?」
「この館で強い影響力を持つ怪異、『レディ・ナイトメア』の『前世』がいる世界だからねぇ。縁は充分にある。上手いことこじ開けたらどうにかなったよ」
「んんっ??」
「その世界、ちょっと後に大きな戦争が起こって大変なことになるしね」
「えっ!? マジ???」
「マジマジ。人口が大幅に減って、そのうえ負のエネルギーもドッカンドッカン溢れて法則が乱れ放題、並行世界にも影響が出放題。……で、キミの魂も並行世界で新たな生を受ける手筈になってたわけさ。ヒヒヒッ」
あの、なんか難しい話になってません???
頭が混乱してきたんですけど!?
「……まあ……ひとつ、伝えたいこととしては」
ニコラスは灰色の瞳をすっと細め、わたしの目を真っ直ぐ見つめてくる。
「キミは間違いなく『レディ・ナイトメア』その人さ。……目を逸らそうとしたって無駄だよ。ヒヒッ」
目を、逸らそうとなんか……
……いいや、否定できない。
前世の記憶を取り戻した瞬間から、わたしは、つらい記憶を「他人事」にして追いやった。「自分」じゃなくて「レディ・ナイトメア」の記憶だから、わたしには関係ないって……どこかで、思おうとしていた。
「キミはホラー映画が好きだろう? ホラーゲームと知りつつ、あのゲームを手に取ったんだろう?」
それは、そうだ。
「ちょっと変わったホラーゲーム」だと人づてに聞いて、面白そうだなって思って……
「……別に、おかしなことじゃないでしょ。好きな人がたくさんいるから、ホラー作品があれだけの数生まれてるわけだし。わたしはチェルシーとは違って、普通の……」
「分かってないなぁ。チェルシーも、本来は『普通の子』だったのさ」
ニコラスの言葉に、思わず拳を握り締める。
そうだ。自分でも分かってたはずだ。
普通に生きられるのであれば、それが許されていたのなら、生首を玩具にする異常者になんかならなかった。
「あんな目に遭いさえしなければ、前世と同じように、『ホラーが好き』程度で済んだはずってことさ。ヒヒヒッ」
何も、言い返せない。
「普通」の生き方が選択できたのなら、わたしは「レディ・ナイトメア」になんかならなかった──
……ん? 待って。それってつまり……
──お嬢も……もし、普通に育ってたら、こういうのが好きになってたのかな
──お嬢。……そろそろ、普通に生きようぜ
………………ひらめいた。
ひらめいてしまった。
「ヒッ? どうしたんだい? 突然黙り込んで……」
「ふ……ふふふ……ふふふふふふ……」
思わず笑いが溢れる。
推しとわたし、全然チャンスあるじゃーーーーん!!!!!!
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