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第二十六話 夢の通い路 ※
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「銀狐、最近はどうや。みんなと仲良うやっとるんか」
「あっ、あぁ、ぅあっ、ぼ、ぼちぼちって、とこ……やな……っ」
「さよか。里の様子もほんの少し見てきたけど、えらい広いな、ここ」
「い、ちおう、考えては……ぁあっ、いる、とこや……っ」
座卓の上に肘をつき、背後から貫八に挿入されながらも、銀狐は喘ぎ喘ぎ金狐の問いに答える。
銀狐の淫らな嬌声も、繋がった箇所から聞こえる淫猥な水音も、衣擦れの音も、何なら座卓の上でまぐわっている二匹の姿でさえ、金狐どころか周囲の者には一切認識できない。
この状況を正確に認識しているのは、貫八と、貫八にあえて術の対象外に置かれた銀狐のみだった。
「……身体の方はどうや」
「んんっ、あか……、ちがっ、へ、へいきや……っ」
「長いこと安静にはしとったからなぁ。ちゃあんと普段から鍛えて……て、妾が言わんでもやっとるやろけど」
「ぁ、あっ、当たり、前やろ……っ」
決して異変を悟られぬよう、銀狐は必死に理性を働かせ、懸命に応対する。
やがて、孔に埋められた肉棒が脈打ち、限界の近さを訴えてくる。
「……っ、可愛らしゅうて堪らんわい……!」
「んぁあっ、あかん、も、あかん……っ」
びくびくと身体を震わせ、達する銀狐。
同時に、銀狐の中の貫八も限界を迎えた。
はぁ、はぁと息を乱して服を整えながら、銀狐は恐る恐る姉の方を見る。
貫八のさじ加減のおかげで、銀狐が取り乱した様子も見えなくなっていたのだろう。金狐が違和感を抱いた様子は特になかった。
「……っ、ほんま、何考えて……」
「ほいでも、ええ具合じゃった」
「やかましいわ」
銀狐は小声で貫八を叱りつけるが、いつもと違うスリルが快感を高めていた側面は確かに否めない。
貫八の「化かす」能力の高さは既に銀狐も認めている。誰か来るかも分からない部屋で細工も何もなしに致すより、ぼろが出る可能性が低いといえばそうだろう。
……それに、本当に嫌であれば、顔面を引っ掻くか狐に戻って逃げれば良かったのだ。それをしなかったのは、銀狐自身、雰囲気と興味に呑まれてしまったからに他ならない。
「ああ、そや。気になっとったんやけど」
……と、そこで、金狐が口を開く。
続く言葉に、銀狐は目を丸くした。
「あんさんら、祝言はいつあげるんや」
「は……っ!?」
「参列ぐらいはしたってもええ」
銀狐は真っ青な顔で「あんた、何を見せたんや」と貫八に囁く。
貫八は「たぶん今じゃのうて昔の話をしとる」……とは言わずに、曖昧な笑顔を浮かべて煙に巻いた。
「昔から話聞いて、やきもきしとったさかいな」
「……」
銀狐が貫八の不埒な誘いに流されたのは、目の前の相手が金狐なのも大きい。
銀狐はかつて、金狐のみに、貫八への想いを吐露したことがあった。
互いの与り知らぬところで、金狐は貫八と銀狐、両方の話を聞いたことがあるというわけだ。
そして、当然わざとであるが、金狐はまたしても貫八と銀狐、どちらに宛てたのか分かりにくい言い方をしている。
……が、今回は続きがあった。
「懐かしわあ。『遥か見つ 海の弄月 影法師──」
「いつの話をしとるんや!?!?」
慌てふためく銀狐に、首を捻る貫八。
「遥か見つ 海の弄月 影法師 いよいよ絶えぬ 夢の通い路」……銀狐が、陰陽寮の歌会で詠んだ歌である。
「遥かに見えた海の月影は、実体の無い影法師でしかありません。夢はいっそう遠くなり、届かぬ想いとなるのでしょう」……と、いう意味だ。
銀狐は誰に宛てたとは決して語らなかったが、「いっそう」を意味する「いよいよ」と四国の「伊予」を掛けていると、金狐が見破らないわけがなく──
「たまには素直になりや。夢の通い路、絶えてまうで」
「だから、何の話や……っ」
顔を真っ赤にして、貫八から懸命に顔を逸らす銀狐。
金狐は悪戯っぽく微笑み、カップに残った紅茶を飲み干した。
「あっ、あぁ、ぅあっ、ぼ、ぼちぼちって、とこ……やな……っ」
「さよか。里の様子もほんの少し見てきたけど、えらい広いな、ここ」
「い、ちおう、考えては……ぁあっ、いる、とこや……っ」
座卓の上に肘をつき、背後から貫八に挿入されながらも、銀狐は喘ぎ喘ぎ金狐の問いに答える。
銀狐の淫らな嬌声も、繋がった箇所から聞こえる淫猥な水音も、衣擦れの音も、何なら座卓の上でまぐわっている二匹の姿でさえ、金狐どころか周囲の者には一切認識できない。
この状況を正確に認識しているのは、貫八と、貫八にあえて術の対象外に置かれた銀狐のみだった。
「……身体の方はどうや」
「んんっ、あか……、ちがっ、へ、へいきや……っ」
「長いこと安静にはしとったからなぁ。ちゃあんと普段から鍛えて……て、妾が言わんでもやっとるやろけど」
「ぁ、あっ、当たり、前やろ……っ」
決して異変を悟られぬよう、銀狐は必死に理性を働かせ、懸命に応対する。
やがて、孔に埋められた肉棒が脈打ち、限界の近さを訴えてくる。
「……っ、可愛らしゅうて堪らんわい……!」
「んぁあっ、あかん、も、あかん……っ」
びくびくと身体を震わせ、達する銀狐。
同時に、銀狐の中の貫八も限界を迎えた。
はぁ、はぁと息を乱して服を整えながら、銀狐は恐る恐る姉の方を見る。
貫八のさじ加減のおかげで、銀狐が取り乱した様子も見えなくなっていたのだろう。金狐が違和感を抱いた様子は特になかった。
「……っ、ほんま、何考えて……」
「ほいでも、ええ具合じゃった」
「やかましいわ」
銀狐は小声で貫八を叱りつけるが、いつもと違うスリルが快感を高めていた側面は確かに否めない。
貫八の「化かす」能力の高さは既に銀狐も認めている。誰か来るかも分からない部屋で細工も何もなしに致すより、ぼろが出る可能性が低いといえばそうだろう。
……それに、本当に嫌であれば、顔面を引っ掻くか狐に戻って逃げれば良かったのだ。それをしなかったのは、銀狐自身、雰囲気と興味に呑まれてしまったからに他ならない。
「ああ、そや。気になっとったんやけど」
……と、そこで、金狐が口を開く。
続く言葉に、銀狐は目を丸くした。
「あんさんら、祝言はいつあげるんや」
「は……っ!?」
「参列ぐらいはしたってもええ」
銀狐は真っ青な顔で「あんた、何を見せたんや」と貫八に囁く。
貫八は「たぶん今じゃのうて昔の話をしとる」……とは言わずに、曖昧な笑顔を浮かべて煙に巻いた。
「昔から話聞いて、やきもきしとったさかいな」
「……」
銀狐が貫八の不埒な誘いに流されたのは、目の前の相手が金狐なのも大きい。
銀狐はかつて、金狐のみに、貫八への想いを吐露したことがあった。
互いの与り知らぬところで、金狐は貫八と銀狐、両方の話を聞いたことがあるというわけだ。
そして、当然わざとであるが、金狐はまたしても貫八と銀狐、どちらに宛てたのか分かりにくい言い方をしている。
……が、今回は続きがあった。
「懐かしわあ。『遥か見つ 海の弄月 影法師──」
「いつの話をしとるんや!?!?」
慌てふためく銀狐に、首を捻る貫八。
「遥か見つ 海の弄月 影法師 いよいよ絶えぬ 夢の通い路」……銀狐が、陰陽寮の歌会で詠んだ歌である。
「遥かに見えた海の月影は、実体の無い影法師でしかありません。夢はいっそう遠くなり、届かぬ想いとなるのでしょう」……と、いう意味だ。
銀狐は誰に宛てたとは決して語らなかったが、「いっそう」を意味する「いよいよ」と四国の「伊予」を掛けていると、金狐が見破らないわけがなく──
「たまには素直になりや。夢の通い路、絶えてまうで」
「だから、何の話や……っ」
顔を真っ赤にして、貫八から懸命に顔を逸らす銀狐。
金狐は悪戯っぽく微笑み、カップに残った紅茶を飲み干した。
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