はぐれ妖怪の隠れ里にて、狐は執着に抱かれる ~化かし狸と釣られ狐 ~

譚月遊生季

文字の大きさ
上 下
19 / 35

第十八話 振り回されるかまいたち

しおりを挟む
 日は変わって昼下がり。
 里の外れの鍛錬場にて……

「銀狐さーん! 頑張ってくださーい!」

 背後から明るい声援を送る狸と、青筋を立てながらかまいたちに向き合う狐がそこにいた。

「……元気そうやなぁ。そんなところにおらんと、あんたも混ざったらどないや」

 遠回しに「あんたも変化へんげの練習した方がええんとちゃうか」と言いつつ、銀狐はサイズだけが小さくなったイタチを見下ろす。

「えっ、良いんですか! 銀狐さんが手取り足取り教えてくれるってことですよね!?」
「あんた、皮肉や分かって言うとるやろ」
「あのみぃ……夫婦めおと漫才の前に僕はどないしたら……」

 人間体にもなれず、かと言ってサイズを戻すことも出来ず涙目の吉野に、銀狐はにこりと微笑みかける。

「ごめんなぁ。夫婦てどこにいはるん? 若いもんは目が良うて、年寄りはようかなわんわ」
「あかんこれ地雷や……な、何でもないです」

 銀狐に威圧いあつされ、吉野のサイズが更に物理的に縮んでいく。
「逆に器用やな……」とぼやき、銀狐は腕を組んで思案し始めた。

「貫八ぃ、心当たりあらへんか」
「うーん……人型にすらなれないんですよね。おれ、人型になるのは早かったので……」
「目くそ鼻くそって言葉、知ってはる?」

 いつの間にか貫八が銀狐の隣に立ち、二匹で吉野を見下ろし始める。
 齢千年を越えた大妖怪二匹に見下ろされ、吉野の膝が緊張でがくがくと震え始めた。

「えー、おれはもっと器用でしたよ」
おつむが空っぽか陰嚢きんたまかぐらいの違いしかあらへん」

「やっぱり夫婦漫才ですやん!」 ……喉まで出かかったその言葉を、吉野は必死に飲み込んだ。



 ***



「お。お疲れ、吉野」
「た、たた、高尾……お、おおきにやよ……」

 夕刻。
 鍛錬疲れを癒しに、吉野は村のちょうど中央にある足湯へと現れた。
 人間の姿に変化できてはいるが、なぜか葉っぱや泥が身体中にまとわりつき、惨憺さんたんたる有様だ。

「今日もしごかれたみたいだね。まあ、浸かっていきなよ」

 里のはぐれ妖怪たちは足湯ここいこいの場として重宝している。肩まで浸かれる源泉もあるにはあるが、そちらは山奥の方になるため、気軽に入れる足湯を好む者が多いのだ。

「……高尾は……あの、貫八って狸、どう思うん」
「どうって?」
「なんか……怖いんやよ。時々凄い目で睨んできて……」
「ああ……。吉野は銀狐さんに可愛がられてるからなあ」
「え」
「吉野と貫八さん、ちょっと雰囲気似てるとこあるしね」
「ええ……。そこまで似てやん気が……」

 吉野の鈍い返答に、高尾は苦笑しつつ頭をぽんぽんと撫でる。
 途端に吉野の顔がボンっと赤くなり、人間のかおがイタチの姿に戻ってしまう。

「まあ……頑張れ!」
「な、なななな何をや!?」
「いやぁ、色恋って難しいね」
「こ、ここここここ恋!? なんで今恋の話に!?」
「……あー……そういえば秘密にしろって……。何でもないよ! 気にしないで」
「気にしやんでて何や!? 無理やよ!?」

 吉野の想いと絶妙なすれ違いを起こしつつ、高尾はまた、一切守れていない秘密を大事に守ろうと努める。
 意味ありげな言動と含みのある微笑みに、吉野の心は終始乱されてばかりだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...