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第十八話 振り回されるかまいたち
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日は変わって昼下がり。
里の外れの鍛錬場にて……
「銀狐さーん! 頑張ってくださーい!」
背後から明るい声援を送る狸と、青筋を立てながらかまいたちに向き合う狐がそこにいた。
「……元気そうやなぁ。そんなところにおらんと、あんたも混ざったらどないや」
遠回しに「あんたも変化の練習した方がええんとちゃうか」と言いつつ、銀狐はサイズだけが小さくなったイタチを見下ろす。
「えっ、良いんですか! 銀狐さんが手取り足取り教えてくれるってことですよね!?」
「あんた、皮肉や分かって言うとるやろ」
「あのみぃ……夫婦漫才の前に僕はどないしたら……」
人間体にもなれず、かと言ってサイズを戻すことも出来ず涙目の吉野に、銀狐はにこりと微笑みかける。
「ごめんなぁ。夫婦てどこにいはるん? 若いもんは目が良うて、年寄りはようかなわんわ」
「あかんこれ地雷や……な、何でもないです」
銀狐に威圧され、吉野のサイズが更に物理的に縮んでいく。
「逆に器用やな……」とぼやき、銀狐は腕を組んで思案し始めた。
「貫八ぃ、心当たりあらへんか」
「うーん……人型にすらなれないんですよね。おれ、人型になるのは早かったので……」
「目くそ鼻くそって言葉、知ってはる?」
いつの間にか貫八が銀狐の隣に立ち、二匹で吉野を見下ろし始める。
齢千年を越えた大妖怪二匹に見下ろされ、吉野の膝が緊張でがくがくと震え始めた。
「えー、おれはもっと器用でしたよ」
「頭が空っぽか陰嚢かぐらいの違いしかあらへん」
「やっぱり夫婦漫才ですやん!」 ……喉まで出かかったその言葉を、吉野は必死に飲み込んだ。
***
「お。お疲れ、吉野」
「た、たた、高尾……お、おおきにやよ……」
夕刻。
鍛錬疲れを癒しに、吉野は村のちょうど中央にある足湯へと現れた。
人間の姿に変化できてはいるが、なぜか葉っぱや泥が身体中にまとわりつき、惨憺たる有様だ。
「今日もしごかれたみたいだね。まあ、浸かっていきなよ」
里のはぐれ妖怪たちは足湯を憩いの場として重宝している。肩まで浸かれる源泉もあるにはあるが、そちらは山奥の方になるため、気軽に入れる足湯を好む者が多いのだ。
「……高尾は……あの、貫八って狸、どう思うん」
「どうって?」
「なんか……怖いんやよ。時々凄い目で睨んできて……」
「ああ……。吉野は銀狐さんに可愛がられてるからなあ」
「え」
「吉野と貫八さん、ちょっと雰囲気似てるとこあるしね」
「ええ……。そこまで似てやん気が……」
吉野の鈍い返答に、高尾は苦笑しつつ頭をぽんぽんと撫でる。
途端に吉野の顔がボンっと赤くなり、人間の貌がイタチの姿に戻ってしまう。
「まあ……頑張れ!」
「な、なななな何をや!?」
「いやぁ、色恋って難しいね」
「こ、ここここここ恋!? なんで今恋の話に!?」
「……あー……そういえば秘密にしろって……。何でもないよ! 気にしないで」
「気にしやんでて何や!? 無理やよ!?」
吉野の想いと絶妙なすれ違いを起こしつつ、高尾はまた、一切守れていない秘密を大事に守ろうと努める。
意味ありげな言動と含みのある微笑みに、吉野の心は終始乱されてばかりだった。
里の外れの鍛錬場にて……
「銀狐さーん! 頑張ってくださーい!」
背後から明るい声援を送る狸と、青筋を立てながらかまいたちに向き合う狐がそこにいた。
「……元気そうやなぁ。そんなところにおらんと、あんたも混ざったらどないや」
遠回しに「あんたも変化の練習した方がええんとちゃうか」と言いつつ、銀狐はサイズだけが小さくなったイタチを見下ろす。
「えっ、良いんですか! 銀狐さんが手取り足取り教えてくれるってことですよね!?」
「あんた、皮肉や分かって言うとるやろ」
「あのみぃ……夫婦漫才の前に僕はどないしたら……」
人間体にもなれず、かと言ってサイズを戻すことも出来ず涙目の吉野に、銀狐はにこりと微笑みかける。
「ごめんなぁ。夫婦てどこにいはるん? 若いもんは目が良うて、年寄りはようかなわんわ」
「あかんこれ地雷や……な、何でもないです」
銀狐に威圧され、吉野のサイズが更に物理的に縮んでいく。
「逆に器用やな……」とぼやき、銀狐は腕を組んで思案し始めた。
「貫八ぃ、心当たりあらへんか」
「うーん……人型にすらなれないんですよね。おれ、人型になるのは早かったので……」
「目くそ鼻くそって言葉、知ってはる?」
いつの間にか貫八が銀狐の隣に立ち、二匹で吉野を見下ろし始める。
齢千年を越えた大妖怪二匹に見下ろされ、吉野の膝が緊張でがくがくと震え始めた。
「えー、おれはもっと器用でしたよ」
「頭が空っぽか陰嚢かぐらいの違いしかあらへん」
「やっぱり夫婦漫才ですやん!」 ……喉まで出かかったその言葉を、吉野は必死に飲み込んだ。
***
「お。お疲れ、吉野」
「た、たた、高尾……お、おおきにやよ……」
夕刻。
鍛錬疲れを癒しに、吉野は村のちょうど中央にある足湯へと現れた。
人間の姿に変化できてはいるが、なぜか葉っぱや泥が身体中にまとわりつき、惨憺たる有様だ。
「今日もしごかれたみたいだね。まあ、浸かっていきなよ」
里のはぐれ妖怪たちは足湯を憩いの場として重宝している。肩まで浸かれる源泉もあるにはあるが、そちらは山奥の方になるため、気軽に入れる足湯を好む者が多いのだ。
「……高尾は……あの、貫八って狸、どう思うん」
「どうって?」
「なんか……怖いんやよ。時々凄い目で睨んできて……」
「ああ……。吉野は銀狐さんに可愛がられてるからなあ」
「え」
「吉野と貫八さん、ちょっと雰囲気似てるとこあるしね」
「ええ……。そこまで似てやん気が……」
吉野の鈍い返答に、高尾は苦笑しつつ頭をぽんぽんと撫でる。
途端に吉野の顔がボンっと赤くなり、人間の貌がイタチの姿に戻ってしまう。
「まあ……頑張れ!」
「な、なななな何をや!?」
「いやぁ、色恋って難しいね」
「こ、ここここここ恋!? なんで今恋の話に!?」
「……あー……そういえば秘密にしろって……。何でもないよ! 気にしないで」
「気にしやんでて何や!? 無理やよ!?」
吉野の想いと絶妙なすれ違いを起こしつつ、高尾はまた、一切守れていない秘密を大事に守ろうと努める。
意味ありげな言動と含みのある微笑みに、吉野の心は終始乱されてばかりだった。
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