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第十七話 隠しきれない関係性
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貫八が里に来て数日。
「銀狐の愛人が現れた」という噂は、既に里中に広まっていた。
「噂好きな方が多いんですかね」
「まあ、そやろ。いっつもお手手より口のがよう働いてはるわ」
「銀狐さんは隠すつもりありましたよね。一応」
「あんたと違うてな」
縁側にて、貫八は銀狐の背後からじゃれつくようにして首に手を回している。
銀狐はというと、眉をひそめて鬱陶しそうにしてはいるが、慣れてきたのか特に振り払おうとはしない。
「隠してた?」
「隠せてないよね」
「距離感がもう……」
屋敷の低級付喪神たちが、ひそひそと囁き合う。
突然現れた狸と二匹きりで私室に篭ったり、風呂を沸かさせてマッサージをさせたり、あまつさえ一緒に風呂に入っている時点で、隠す気があるとは到底思えなかった。
「ところで……銀狐さん的に、おれは『愛人』なんですか?」
「……まあ……人やのうて狸やってとこは置いといて、『情夫』ってとこやな」
「現代風に言うと、セフレですか」
「何でも片仮名つこうて、最近の言葉は洒落てはるなぁ」
どさくさに紛れて腰に触れようとする手を、銀狐はパシリと叩く。
貫八は狐耳の間近に口を寄せ、真剣な声音で囁いた。
……嘘偽りのない、本音を。
「おれは、セフレで終わりませんよ」
「……えらい熱心やねぇ」
「結婚したいんじゃ。銀狐さん」
「けっ……」
ざわっと、下級付喪神たちがどよめくのが銀狐の耳にも届いた。
銀狐はみるみるうちに赤くなっていく表情を誤魔化すように、ポンッと狐の姿へと戻る。
「あっ、逃げないでくださいよ!」
「用事思い出しただけや! さいなら!」
「待ってくださいって~!」
貫八も狸の姿に戻り、庭を走り回る銀狐の後を追いかける。
付喪神たちはしばらく静かに見守っていたが、誰からともなく、ぽつりと呟いた。
「銀狐さんが根負けするに一票」
「わかる」
「狐の嫁入り?」
「佐野が忙しくなるね」
「あー、衣装係の仕事かぁー……」
付喪神たちの噂話を他所に、二匹の追いかけっこは銀狐が疲れ果てるまで続いたという……
***
夜更けの閨に、行燈の光が揺らめく。
眠りに落ちた銀狐の頬を撫で、貫八は、鍛え上げられた裸体を布団から起こした。
「……思い通りに進んどる」
貫八は白い肩の上に流れる銀髪を浅黒い指先ですくい上げ、寝息を立てる銀狐の首筋に接吻を落とす。
「外堀から埋めてくんがええ」
赤い瞳をぎらりと輝かせ、貫八は、口角をニィと吊り上げた。
「銀狐の愛人が現れた」という噂は、既に里中に広まっていた。
「噂好きな方が多いんですかね」
「まあ、そやろ。いっつもお手手より口のがよう働いてはるわ」
「銀狐さんは隠すつもりありましたよね。一応」
「あんたと違うてな」
縁側にて、貫八は銀狐の背後からじゃれつくようにして首に手を回している。
銀狐はというと、眉をひそめて鬱陶しそうにしてはいるが、慣れてきたのか特に振り払おうとはしない。
「隠してた?」
「隠せてないよね」
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「……まあ……人やのうて狸やってとこは置いといて、『情夫』ってとこやな」
「現代風に言うと、セフレですか」
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どさくさに紛れて腰に触れようとする手を、銀狐はパシリと叩く。
貫八は狐耳の間近に口を寄せ、真剣な声音で囁いた。
……嘘偽りのない、本音を。
「おれは、セフレで終わりませんよ」
「……えらい熱心やねぇ」
「結婚したいんじゃ。銀狐さん」
「けっ……」
ざわっと、下級付喪神たちがどよめくのが銀狐の耳にも届いた。
銀狐はみるみるうちに赤くなっていく表情を誤魔化すように、ポンッと狐の姿へと戻る。
「あっ、逃げないでくださいよ!」
「用事思い出しただけや! さいなら!」
「待ってくださいって~!」
貫八も狸の姿に戻り、庭を走り回る銀狐の後を追いかける。
付喪神たちはしばらく静かに見守っていたが、誰からともなく、ぽつりと呟いた。
「銀狐さんが根負けするに一票」
「わかる」
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「あー、衣装係の仕事かぁー……」
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「……思い通りに進んどる」
貫八は白い肩の上に流れる銀髪を浅黒い指先ですくい上げ、寝息を立てる銀狐の首筋に接吻を落とす。
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