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第五話 釣られ狐 ※

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「ん……っ、ふ……ぁ、貫、八……ッ」

 かつての旧友に押し倒されながらも、銀狐の思考は不思議と冷静に働いた。

 いくら化け狸とはいえ、千年も生き、かつ衰えの少ない個体は珍しい。
 その時点で、気付くべきだったのだ。

 相手は、もはやかつての豆狸ではない……と。

「(ああ……でも、そもそも……)」

 必死に自分の上で腰を振る、まだあどけなさの残った少年の姿を思い出す。

 ──はぁ、はあ……! 銀狐さんっ、銀狐さん……っ!
 ──あ……っ、あぁっ、あかん、貫八……! そこ、あかん……っ、あかんてぇ……!

 既に幾度も放たれた白濁をかき回すように、年若いながらも立派な屹立きつりつが銀狐のはらを繰り返し貫いた。
 銀狐も現在よりずっと年若く、一回り小柄だった身体を何度も震わせて、数え切れないほどの絶頂に身もだえ続けた。

「(うち、こいつに勝てたことあらへんわ)」

 ずるりと引き抜かれた逸物いちもつの名残惜しさや、ももを伝った精の感触が、昨日のことのように蘇る。

 旧友。旧知の仲。……そのような言葉だけで、二人の関係は表せない。

 ──んぁあっ、ぬき、はちぃっ! こんなん知らん……! おかし、なる……っ、おかしなってまうぅ……っ!
 ──銀狐さん……っ! わしは……っ、とっくに……っ! おかしなってもうたぞな……!

 肌の上をゆっくりとなぞる浅黒い手が、銀狐を追想へといざなう。

 修行用の稚児ちご衣装を着た、青年になったばかりの銀狐と、土で汚れた古着をまとった、もうすぐ青年に届きそうな貫八の姿が脳裏に浮かぶ。
 熱に浮かされた金の瞳が、遠い過去へと還っていく──



 ***



 きっかけは、銀狐の変化へんげの「癖」だった。
 かつては揃って変化下手で落ちこぼれだった二匹だが、銀狐の上達は貫八よりも早く、悪戦苦闘の末に他の狐たちと遜色そんしょくない力を身に付け始めた。……いつまでも上手く化けられない、貫八を置いて。

「まあ、うちのが年上やさかいな」
「そ、そうぞなもし! 20歳も違いますけん……!」
「……『も』やないわ。うちらにとっては20も50も誤差やろ、誤差」

 ……が、銀狐が威張いばっていられたのもつかの間。
 やがて、銀狐の変化には不思議な「癖」が見え始めた。

 どれほど精巧せいこうに化けても、どれほど変化できる手数を増やしても、時間が経てばまったく同じ姿に変わってしまう。
 それも、うら若く、美しい娘の姿に……

 銀狐は雄だ。
 本人も、自らを「れっきとした大和男児」と認識している。
 ……が、彼がどれほど恥じらおうと苦心しようと、若い娘の姿になってしまう癖はいつまでも矯正きょうせいできなかった。

 悔しそうな銀狐に、貫八は言った。

「わしと交尾するとええです!」

 そして、見事に殴られた。

「いったぁ……」
「昨日、酒盛りでもしはったん? ぎょうさん美味い酒が出たみたいやなあ」
「ち、違います! 素面しらふじゃあ!」

 貫八は殴られた頬を押さえつつ、発言の根拠を述べ始める。

「精液には霊力が宿るって言うぞなもし」
「そんな話……。……まあ、よう聞く話ではあるわ」
「ほいで、わしら化け狸は金玉がでかいことが自慢じゃ」
「……あんたら、ほんまに金玉それ好きやなぁ……」

 銀狐は呆れながらも、どこかで貫八の説明に説得力を感じてしまった。
 ……虚勢きょせいを張ってはいたが、彼とて焦っていたのだ。たとえ不確かな情報であれど、すがり付きたくなるほどに。

「任せてつかぁさい、銀狐さん!」
「……なんや丸め込まれた気ぃするわ」
「ええ~……気のせいじゃって」

 あどけなさの残る、青年に近づけどまだまだ年若い少年の姿。当時の貫八は、どれほど頑張っても似たような姿にしか変化できなかった。
 ……その姿に、油断してしまったのかもしれない。

「まあ、ええわ。試すだけ試してみよか」

 見せかけの余裕を繕い、銀狐は貫八の提案に乗った。
 貫八が秘めていた、激しい劣情を知らぬまま……



 ***



「はぁ……あっ、うぁっ」

 貫八の節くれだった指が、銀狐の肚の中をまさぐる。

「秘密知られとうないけんって、奥まで来すぎじゃ。誰も助けに来れんぞなもし」
「んん……っ」

 かき回された孔が、を求めてひくつく。

 銀狐の姿が男であれば、抱かれた後、銀狐の望む姿が長く続いた。
 銀狐の姿が女であれば、抱かれた後、しばらく立てば銀狐の望む姿が得られるようになった。

 銀狐も、姿かたちのためだけに貫八との行為を良しとしたわけではない。
 身体を重ねるにつれ、銀狐の悩みは次第に快楽を欲する口実へと変化していった。

 若き銀狐は見事、若き貫八の手玉に取られてしまったというわけだ。

「ほれ、こなぁに大きゅうなった」

 黒いパーカーの下。現代いま風のジーンズから、ジッパーの音が響く。
 はだけさせられた狩衣かりぎぬの、ちょうど腹の辺り。銀狐の白い肌と綺麗に鍛えられた腹筋を刀台のように見立て、貫八は自らの屹立きつりつを見せつける。

「……ッ!」

 黒光りするそれの大きさに、銀狐は思わず息を飲んだ。

「あ、あかん……こんなん入らへん……」

 青ざめる銀狐をふわりと抱き締め、貫八は耳元で甘く囁く。

かまん大丈夫かまん大丈夫
「ぅ……あぁ……っ」

 低い囁きが、暗示のように銀狐の思考を蕩けさせていく。

「すぐ良うなる」
「あ……っ、あっ、やめぇ! 無理や……っ!」

 銀狐の懇願こんがんも虚しく、先走りに濡れた竿が、銀狐の胎内なかにずぷりと沈み込んだ。
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