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第一話 はぐれ妖怪の隠れ里
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昔むかし、四国の地でのお話。
そこで暮らしていた狸の一族と狐の一族はとても仲が悪く、いつも争っておりました。
ある日、一匹の古狐が人間に化けて悪事を働きました。
とあるえらい僧侶が、その悪事を暴き、古狐をきつく叱ったと言われています。
報いとして古狐は一族ともども四国から追放されました。そして、狸たちは「愛嬌がある」と可愛がられ、その後も四国の人々と共存することになったのだとか。
僧侶は狐たちに言いました。
「本州と四国に鉄の橋が架かるまで、帰ってきてはいけない」……と。
それから、長い長い時が経ち──
***
京都の山中。時節は平成になって間もない頃。
都会の喧騒から離れた山間に、のどかで、少々時代錯誤な里がある。
「銀狐さーーーーん!!」
割れ茶碗の付喪神が田んぼのあぜ道をあたふたと走り回り、大声を張り上げる。
屋敷の主がどこにもいないので、慌てているのだ。
「銀狐さーーーーん! どこですかぁーー!!?!?」
大声に振り返ったのは、片翼の鴉天狗。忙しなく走り回る割れ茶碗を「おーい」と呼び止め、手招きした。
「銀狐さんなら、里の入口に行ったよ」
足湯に浸かったまま、黒髪の鴉天狗は生い茂った森の方角を指差す。そのまま、ふわぁとあくびを一つ放った。
「なぬ!? 入口とな!?」
「『誰か来る』ってさ。あの人の神通力、まだまだ健在だからね」
「なるほど! さすがは陰陽師の配下だっただけありますな!」
うんうんと大きく頷き、割れ茶碗は感心したように言う。
同調するように、鴉天狗も頷いた。
「引退した理由も、力が衰えたわけじゃなくて怪我らしいからね。格も強さも、そこいらの木っ端妖怪じゃ比べ物にならないよ」
「数百年ほど前は、名だたる陰陽師に仕え都で大活躍しておられたお方! そんな方がはぐれ妖怪の里を仕切ってくださるなど、恐れ多くもありがたいことにございますなぁ!」
ありったけの敬意と畏怖を込め、割れ茶碗は里の長たる妖狐を持て囃す。
その様子を見、鴉天狗は苦笑を漏らした。
「まあ……欠点があるとするなら」
割れ茶碗も続きを察し、がくりと肩を落とす。
「「性格、かな(ですな)……」」
人里を離れた、のどかな山間。
そこには、訳あり妖怪たちの隠れ里がある。
その里を取り仕切るは、凄腕の妖狐・玉葛銀狐。
「何や君、まだ着いてきてはったん」
今現在、護衛のかまいたちに嫌味を吐いている狐の名である。
そこで暮らしていた狸の一族と狐の一族はとても仲が悪く、いつも争っておりました。
ある日、一匹の古狐が人間に化けて悪事を働きました。
とあるえらい僧侶が、その悪事を暴き、古狐をきつく叱ったと言われています。
報いとして古狐は一族ともども四国から追放されました。そして、狸たちは「愛嬌がある」と可愛がられ、その後も四国の人々と共存することになったのだとか。
僧侶は狐たちに言いました。
「本州と四国に鉄の橋が架かるまで、帰ってきてはいけない」……と。
それから、長い長い時が経ち──
***
京都の山中。時節は平成になって間もない頃。
都会の喧騒から離れた山間に、のどかで、少々時代錯誤な里がある。
「銀狐さーーーーん!!」
割れ茶碗の付喪神が田んぼのあぜ道をあたふたと走り回り、大声を張り上げる。
屋敷の主がどこにもいないので、慌てているのだ。
「銀狐さーーーーん! どこですかぁーー!!?!?」
大声に振り返ったのは、片翼の鴉天狗。忙しなく走り回る割れ茶碗を「おーい」と呼び止め、手招きした。
「銀狐さんなら、里の入口に行ったよ」
足湯に浸かったまま、黒髪の鴉天狗は生い茂った森の方角を指差す。そのまま、ふわぁとあくびを一つ放った。
「なぬ!? 入口とな!?」
「『誰か来る』ってさ。あの人の神通力、まだまだ健在だからね」
「なるほど! さすがは陰陽師の配下だっただけありますな!」
うんうんと大きく頷き、割れ茶碗は感心したように言う。
同調するように、鴉天狗も頷いた。
「引退した理由も、力が衰えたわけじゃなくて怪我らしいからね。格も強さも、そこいらの木っ端妖怪じゃ比べ物にならないよ」
「数百年ほど前は、名だたる陰陽師に仕え都で大活躍しておられたお方! そんな方がはぐれ妖怪の里を仕切ってくださるなど、恐れ多くもありがたいことにございますなぁ!」
ありったけの敬意と畏怖を込め、割れ茶碗は里の長たる妖狐を持て囃す。
その様子を見、鴉天狗は苦笑を漏らした。
「まあ……欠点があるとするなら」
割れ茶碗も続きを察し、がくりと肩を落とす。
「「性格、かな(ですな)……」」
人里を離れた、のどかな山間。
そこには、訳あり妖怪たちの隠れ里がある。
その里を取り仕切るは、凄腕の妖狐・玉葛銀狐。
「何や君、まだ着いてきてはったん」
今現在、護衛のかまいたちに嫌味を吐いている狐の名である。
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