その傷痕に口づけを

譚月遊生季

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2001年 春

3rd.

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 脈打った男根の感覚が、まだ手に残っている。
 ベッドに横になり、深くため息をつく。……ロッドはシャワーを浴びに行った。つまり……俺はこれから、彼に抱かれる。

「俺の身体、どうしたい?」

 手のひらに吐き出した白濁を慌てて拭って、ロッドは応えた。

「……アンが、いいなら……。……抱きたい」

 その瞳には確かな劣情が宿っていて、……さすがに、息を飲んだ。



 あれは、シャワーを浴びて、バスローブを羽織ったあとのこと。
 どこの部屋に向かえばいいのかわからず、とりあえずリビングを探した。実家や隣家……アンダーソン家本邸に比べればずいぶん手狭だが、別荘くらいの大きさはある。
 まだ、使用人は雇っていないらしい。……部屋はきちんと片付いているし、昼間だけ頼んでいるのかもしれない。

 ロデリック……ロッドとはしばらく会っていなかったが、彼が大きくなったことは素直に嬉しい。
 幼い頃は実弟のロバートも合わせて、3人でよく遊んでいた。……と、言うよりは、俺が面倒を見ていた、と言うべきかもしれない。

「……あ」

 ロッドの私室らしき部屋を見つけて、ノックする。……光は漏れているのに、なかなか出てこない。そろりと、少しだけ扉を開いて……見てしまった。

「……っ」

 ぞくり、と、子宮が疼くのを感じた。

「……ッ、アン……っ」

 名前を呼ばれて、純粋に嬉しかった。
 ……同じ想いだったのだとはっきり理解できて、気がつけば体が動いていた。
 玄関でハグした時、とっくに俺より大きくなっていたのは分かった、けど……

「……!?」

 手を回して、その厚みを思い知る。
  
「……俺の名前、呼んでただろ」

 初めて触れたロッドの雄の部分は、思ったよりも大きかった。




 俺には遺伝子に少し変わったところがあって、母さんはそれを気にしていた。
 ……俺は、自分が男でも女でもどちらでも良かったし、単に兄さん達とお揃いが良くてそう振舞っていただけだったけど……母さんはそれを、「男になりたいんだ」と解釈した。
 否定しようにも、母さんの理解のキャパを超えるのは目に見えていた。……だから、黙っていた。
 ……。さすがに、「お前が死ねば良かったんだ」なんて言われたのは、堪えたかな。




 ぼんやりと考えているうちに、足音が聞こえてくる。
 思わす、体が強ばった。

 分かってる。ロッドは、あの人とは違う。
 ……きっと、酷いことなんかしない。無理やり喉奥にくわえさせたり、嫌がってるのを押さえつけて犯したりしない。

「アン姉さん」

 思わず肩が跳ねた。
 ……声変わりして低くなった声が、少し「あの人」に似ていた。……そう、感じてしまうことを申し訳なくは思う。

 両家の関係修復のため、俺が無理やりにでも嫁がされる未来は目に見えていた。
 既に肉体関係を持っていることが、俺にとって不利に働くことも分かっていた。……合意した覚えは一度もないけど。

 婚姻を受け入れるつもりはない。
 ……けれど、まだ立ち向かう時期じゃない。
 ロブはまだ幼いし、落ち込んでるロッドにこれ以上の心労をかけたくはない。

 ああ、でも、想い人に抱かれるくらいは、……それくらいの歓びは、あったっていいだろ。

「……姉さん、あの、俺……初めて、だから……その……」

 落ち込んでいた時に、いつだって不器用に慰めようとしてくれて、仕舞いにはバラを一輪買ってくる、なんて似合わない真似までして、
 ……そんな君にどれだけ救われてきたか。

「いいよ。……俺は、初めてじゃないから」

 ……いっそ、初恋の相手も、処女を捧げたのもロッドだったら良かったのに。
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