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ある悪魔祓い達の喧騒
前編 戦いの後…
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※こちらのエピソードは、本編の後日譚です。
※テオドーロ×マルティンに加え、テオドーロ×ギルベルト、ギルベルト×マルティン要素が入りますので、固定CPがお好きな方、リバ表現が苦手な方は注意してお読みください。
***
「兄さん」
ずきん、ずきんと胸が痛む。
「ぼくは、大丈夫だから」
腕の中で笑う少女。……わたしの、大切な妹。
「マルティン! 何度言えばわかるのです!? その子もフォン・ローバストラントの一員! 民を守るための責務を背負っているのです!」
母の怒号が響く。
父は無言のまま、わたしを妹から引き剥がそうと背中を蹴り続ける。
「わたしが頑張りますから。悪魔祓いとして、立派に仕事をこなしますから。どうか、どうか……! お願いします……!!」
「兄さん……離してよ」
背中を蹴られる痛みなんか、気にならなかった。
この子の味方はわたしだけ。……わたしの味方も、この子だけ。
絶対に助けたかった。絶対に、この温もりを失いたくなかった。
「ありがとう、兄さん。……もう、良いんだよ」
それなのに、どうして……
手を、離してしまったのかしら。
***
「おお、ひでぇツラだな」
目を覚ますと、灰色の瞳と目が合った。
「良いもんを見た」
ニヤニヤと笑いながら、上半身裸の男がわたしの横で添い寝している。
宿のベッドは二つしかないから仕方がないとはいえ、思わず身構えてしまう。……ついでに、心臓も軽く痛んだ。あまり驚かせないで欲しいわね。
「……あんた、いつまでわたし達といるつもりなの」
「おいおい、俺達は同じテオドーロの『妻』だろう。仲良くしてくれよ」
目の前の男……ギルベルトは苦笑しつつ、起き上がったわたしに続いて身体を起こす。
「……わ、わたしは別にテオドーロの妻ってわけじゃ……。……? はぁぁあ!?」
ちょっと待って!?
今、こいつなんて言ったの!?
「つ……妻!? どういうことよ!? 何がどうなったの!?」
「ん? 『家に帰りにくいなら僕の妻になったらどうだい?』って口説かれてな。さっき『治療』も兼ねて抱かれた」
ギルベルトは髪の癖を気にしつつ、平然と語る。
いやいやいや、何サラッととんでもないこと言ってるのよ、この吸血鬼……! ……あいたたた、心臓に悪いこと、しないで欲しいわ……。
「あ、あんた……それでいいの?」
「相手が男だろうが女だろうが、気持ち良く後腐れなく楽しめるのが一番だ。身体の相性も悪くなかったしな」
「そ、そう……」
こいつ、コンラートの兄にしては奔放なのね。
いえ、コンラートも快楽には弱かったような気がするわ。むしろ、血は争えないってこと……? それとも、吸血鬼だから好色なの? ほら、体液を啜るわけだし……。
「で、胸の傷はどうだ」
「……まだ痛むし、しばらく戦うのは厳しそうね」
「そうかい。そりゃ良かった。俺も一回死んで吸血鬼の本領を発揮したとはいえ、『人間に近かった頃』の傷はなかなか治らなくてな。苦労したんだ」
皮肉っぽい口調で、ギルベルトは灰色の瞳を一瞬だけ赤く煌めかせた。
カンに障る言い方だけど、わたしの方が先にギルベルトを殺しかけたのは事実。
仕事だったとはいえ、憎く思われていても仕方はない。
「こらこら、喧嘩は良くないよ」
と、別室からテオドーロがひょこっと顔を出した。……首筋に牙の痕がある。
なるほどね。本当にお楽しみだったってこと。……ふーん……。
「二人とも僕の愛しい妻なんだ。仲良くしておくれ」
「わたしがいつ、あんたの妻になったのよ」
「おっと、愛人扱いの方が良かったのかな?」
「おいおい、意地張ってて良いのかよ。テオドーロ、俺に興奮しまくってたぜ」
わざと挑発してるのかしら、この吸血鬼。
「……まあ、そこのお馬鹿は人間じゃない方が好みらしいものね」
「僕のために争わないでよ。人間で男で全くもって好みじゃないのに気を引いている時点で、かなり大きなことなんだよ? あいたたたた! 怪我、怪我はどうしたんだいフラテッロ!?」
「心配するなら余計なストレスをかけないでもらえるかしら……!」
わたしがテオドーロの髪をむしる傍ら、ギルベルトは肩を震わせて爆笑している。
「こりゃ、退屈しなさそうだな……!」
「あんたねぇ……って、え……?」
睨みつけると、ギルベルトの顔面が間近に迫る。灰色の瞳が私の瞳を見つめ、青白い指がわたしの顎に触れる。
思わず、テオドーロの頭から手を離してしまう。
「よし! ありがとうギルベルトくん!」
テオドーロは今が好機とばかりに、そそくさと離れていくけれど……追いかける余裕なんかなかった。
「お前も、俺を抱くか? 別に、俺が抱いてやっても良いんだが」
吐息混じりの声がわたしを誘う。尖った牙が、口元からちらりと覗く。
思わず、鼓動が高鳴る。……だから、心臓に悪いことしないでってば……
「……ッ」
「おっと、痛むのかい?」
「あ……あんたが、貫いたんでしょ……」
「つまり、誘われてときめいたってことだな」
ニヤニヤと笑い、ギルベルトはわたしの胸に手のひらを添える。
「カワイイとこあるじゃねぇか。生かしといて良かった」
顔が熱い。……し、胸が痛くて、まともに思考が働かない。
何なの、こいつ。テオドーロもそうだけど、人を動揺させるのが上手すぎる。
「うんうん、仲良くなってきたみたいで何よりだ」
テオドーロの呑気な声がする。
これのどこが仲良く見えるのかしら。目ん玉腐ってんじゃないの、あいつ……!
「そうそう。もう敵対関係って訳でもなし、仲良くしようぜ」
へらへらとした笑みで、ギルベルトは語る。
確かに、あの廃坑でわたしとギルベルトは休戦協定を結んだ。
お互い負傷しているし、ギルベルトは誰かを襲うつもりもないらしいしで、殺し合うよりは妥協点を探る方が建設的だと判断してのことだった。
……それに、同じ「長男」として、思うところがないでもなかったし。
「……弟は、助けられたみたいだしな」
「助けた……っていうと、語弊があるわね」
「誤魔化さなくても良い。テオドーロから色々聞いてる。……ありがとうな」
切なそうに微笑み、ギルベルトは「よっこいせ」とベッドから下りる。
ギルベルトとコンラートは、きっと、すごく仲の良い兄弟だったのだと思う。……今は重すぎる運命のせいで気まずくはなってしまったけど、いつか、笑い合える日も戻ってくるのかしら。
……二人とも生きているのなら、不可能じゃないはずよね。
「しばらく厄介になるぜ。テオドーロのやり方に可能性を感じたんでな。いっちょ『投資』することにした」
「……そう。まあ、頑張ってちょうだい」
「つっても、元手はカラダ一つのみだが……ま、世の中捨てたもんじゃなさそうだ」
「か、らだ……って……」
つい、ギルベルトの上半身に目が行ってしまう。
細身のテオドーロとは違い、鍛え抜かれた肉体。コンラートより少し気だるげな、彫刻のように整った顔立ち……。
テオドーロの隣に立つと、美男が並んで目の保養に……って、何考えてるのかしら、わたし。テオドーロのそばにいすぎて、変な熱でもうつされた……?
「……カワイイねぇ。乙女って感じだ」
ヒュウ、と口笛を吹き、ギルベルトは灰色の目をすっと細める。
……ああ、もう、心臓が痛い。そういうの、本当にやめて欲しいわ……。
テオドーロはというと、なぜか楽しげに何度も頷いている。
「そうだね。彼女は見てくれはああだけど、中身はそれなりに……あだだだだ!? お、起き上がって大丈夫なのかい!?」
「ややこしくしてんのはあんたなのよ……!?」
「何がだい!? 僕は僕の愛に従ってるだけだよ!?」
「そういうとこよ……!」
本当に参ったわね。
まだまだ、苦労させられそう……。
※テオドーロ×マルティンに加え、テオドーロ×ギルベルト、ギルベルト×マルティン要素が入りますので、固定CPがお好きな方、リバ表現が苦手な方は注意してお読みください。
***
「兄さん」
ずきん、ずきんと胸が痛む。
「ぼくは、大丈夫だから」
腕の中で笑う少女。……わたしの、大切な妹。
「マルティン! 何度言えばわかるのです!? その子もフォン・ローバストラントの一員! 民を守るための責務を背負っているのです!」
母の怒号が響く。
父は無言のまま、わたしを妹から引き剥がそうと背中を蹴り続ける。
「わたしが頑張りますから。悪魔祓いとして、立派に仕事をこなしますから。どうか、どうか……! お願いします……!!」
「兄さん……離してよ」
背中を蹴られる痛みなんか、気にならなかった。
この子の味方はわたしだけ。……わたしの味方も、この子だけ。
絶対に助けたかった。絶対に、この温もりを失いたくなかった。
「ありがとう、兄さん。……もう、良いんだよ」
それなのに、どうして……
手を、離してしまったのかしら。
***
「おお、ひでぇツラだな」
目を覚ますと、灰色の瞳と目が合った。
「良いもんを見た」
ニヤニヤと笑いながら、上半身裸の男がわたしの横で添い寝している。
宿のベッドは二つしかないから仕方がないとはいえ、思わず身構えてしまう。……ついでに、心臓も軽く痛んだ。あまり驚かせないで欲しいわね。
「……あんた、いつまでわたし達といるつもりなの」
「おいおい、俺達は同じテオドーロの『妻』だろう。仲良くしてくれよ」
目の前の男……ギルベルトは苦笑しつつ、起き上がったわたしに続いて身体を起こす。
「……わ、わたしは別にテオドーロの妻ってわけじゃ……。……? はぁぁあ!?」
ちょっと待って!?
今、こいつなんて言ったの!?
「つ……妻!? どういうことよ!? 何がどうなったの!?」
「ん? 『家に帰りにくいなら僕の妻になったらどうだい?』って口説かれてな。さっき『治療』も兼ねて抱かれた」
ギルベルトは髪の癖を気にしつつ、平然と語る。
いやいやいや、何サラッととんでもないこと言ってるのよ、この吸血鬼……! ……あいたたた、心臓に悪いこと、しないで欲しいわ……。
「あ、あんた……それでいいの?」
「相手が男だろうが女だろうが、気持ち良く後腐れなく楽しめるのが一番だ。身体の相性も悪くなかったしな」
「そ、そう……」
こいつ、コンラートの兄にしては奔放なのね。
いえ、コンラートも快楽には弱かったような気がするわ。むしろ、血は争えないってこと……? それとも、吸血鬼だから好色なの? ほら、体液を啜るわけだし……。
「で、胸の傷はどうだ」
「……まだ痛むし、しばらく戦うのは厳しそうね」
「そうかい。そりゃ良かった。俺も一回死んで吸血鬼の本領を発揮したとはいえ、『人間に近かった頃』の傷はなかなか治らなくてな。苦労したんだ」
皮肉っぽい口調で、ギルベルトは灰色の瞳を一瞬だけ赤く煌めかせた。
カンに障る言い方だけど、わたしの方が先にギルベルトを殺しかけたのは事実。
仕事だったとはいえ、憎く思われていても仕方はない。
「こらこら、喧嘩は良くないよ」
と、別室からテオドーロがひょこっと顔を出した。……首筋に牙の痕がある。
なるほどね。本当にお楽しみだったってこと。……ふーん……。
「二人とも僕の愛しい妻なんだ。仲良くしておくれ」
「わたしがいつ、あんたの妻になったのよ」
「おっと、愛人扱いの方が良かったのかな?」
「おいおい、意地張ってて良いのかよ。テオドーロ、俺に興奮しまくってたぜ」
わざと挑発してるのかしら、この吸血鬼。
「……まあ、そこのお馬鹿は人間じゃない方が好みらしいものね」
「僕のために争わないでよ。人間で男で全くもって好みじゃないのに気を引いている時点で、かなり大きなことなんだよ? あいたたたた! 怪我、怪我はどうしたんだいフラテッロ!?」
「心配するなら余計なストレスをかけないでもらえるかしら……!」
わたしがテオドーロの髪をむしる傍ら、ギルベルトは肩を震わせて爆笑している。
「こりゃ、退屈しなさそうだな……!」
「あんたねぇ……って、え……?」
睨みつけると、ギルベルトの顔面が間近に迫る。灰色の瞳が私の瞳を見つめ、青白い指がわたしの顎に触れる。
思わず、テオドーロの頭から手を離してしまう。
「よし! ありがとうギルベルトくん!」
テオドーロは今が好機とばかりに、そそくさと離れていくけれど……追いかける余裕なんかなかった。
「お前も、俺を抱くか? 別に、俺が抱いてやっても良いんだが」
吐息混じりの声がわたしを誘う。尖った牙が、口元からちらりと覗く。
思わず、鼓動が高鳴る。……だから、心臓に悪いことしないでってば……
「……ッ」
「おっと、痛むのかい?」
「あ……あんたが、貫いたんでしょ……」
「つまり、誘われてときめいたってことだな」
ニヤニヤと笑い、ギルベルトはわたしの胸に手のひらを添える。
「カワイイとこあるじゃねぇか。生かしといて良かった」
顔が熱い。……し、胸が痛くて、まともに思考が働かない。
何なの、こいつ。テオドーロもそうだけど、人を動揺させるのが上手すぎる。
「うんうん、仲良くなってきたみたいで何よりだ」
テオドーロの呑気な声がする。
これのどこが仲良く見えるのかしら。目ん玉腐ってんじゃないの、あいつ……!
「そうそう。もう敵対関係って訳でもなし、仲良くしようぜ」
へらへらとした笑みで、ギルベルトは語る。
確かに、あの廃坑でわたしとギルベルトは休戦協定を結んだ。
お互い負傷しているし、ギルベルトは誰かを襲うつもりもないらしいしで、殺し合うよりは妥協点を探る方が建設的だと判断してのことだった。
……それに、同じ「長男」として、思うところがないでもなかったし。
「……弟は、助けられたみたいだしな」
「助けた……っていうと、語弊があるわね」
「誤魔化さなくても良い。テオドーロから色々聞いてる。……ありがとうな」
切なそうに微笑み、ギルベルトは「よっこいせ」とベッドから下りる。
ギルベルトとコンラートは、きっと、すごく仲の良い兄弟だったのだと思う。……今は重すぎる運命のせいで気まずくはなってしまったけど、いつか、笑い合える日も戻ってくるのかしら。
……二人とも生きているのなら、不可能じゃないはずよね。
「しばらく厄介になるぜ。テオドーロのやり方に可能性を感じたんでな。いっちょ『投資』することにした」
「……そう。まあ、頑張ってちょうだい」
「つっても、元手はカラダ一つのみだが……ま、世の中捨てたもんじゃなさそうだ」
「か、らだ……って……」
つい、ギルベルトの上半身に目が行ってしまう。
細身のテオドーロとは違い、鍛え抜かれた肉体。コンラートより少し気だるげな、彫刻のように整った顔立ち……。
テオドーロの隣に立つと、美男が並んで目の保養に……って、何考えてるのかしら、わたし。テオドーロのそばにいすぎて、変な熱でもうつされた……?
「……カワイイねぇ。乙女って感じだ」
ヒュウ、と口笛を吹き、ギルベルトは灰色の目をすっと細める。
……ああ、もう、心臓が痛い。そういうの、本当にやめて欲しいわ……。
テオドーロはというと、なぜか楽しげに何度も頷いている。
「そうだね。彼女は見てくれはああだけど、中身はそれなりに……あだだだだ!? お、起き上がって大丈夫なのかい!?」
「ややこしくしてんのはあんたなのよ……!?」
「何がだい!? 僕は僕の愛に従ってるだけだよ!?」
「そういうとこよ……!」
本当に参ったわね。
まだまだ、苦労させられそう……。
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