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外伝 ある破戒僧の愛(再掲)

後編(2) Questa è la vita. ※

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 寝台の上で四つん這いになったコンラートくんの上にヴィルくんが覆い被さる。
 正常位以外やらない……というわけではないんだね。いや、男同士でセックスしてる時点で今更か。

「う……んっ、くぅう……っ」

 コンラートくんはヴィルくんのペニスをすんなりと受け入れ、声を殺しながらも既に乱れつつあった。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と、繋がった箇所から精が溢れ、青白い腿を伝う。おお、これはなかなか……

「……っ、ぁ……主、よ……っ、おゆるしを……っ」

 快楽に飲まれそうな声で、コンラートくんは神に赦しを乞う。
 そういうの、僕は逆に興奮するんだけど……ヴィルくんはどうなんだろう。

「……で、マジで他の方法はねぇんだよな?」

 僕も下穿きを脱いで準備していると、ヴィルくんが怪訝そうに聞いてくる。コンラートくんには突っ込んだままだけど、まだイかせないよう浅いところを味わっている……そんな腰使いだ。

「ふ……ぅ、んん……ッ」

 コンラートくんは健気にも喘ぎを押し殺そうと、唇を噛む。それを察してか、ヴィルくんはコンラートくんの口元に指を差し出し、噛ませる。
 どこからどう見ても「そういう仲」なんだけど……本人達が否定してるからなぁ。

「他の方法もあるにはあるよ。要するに繰り返し気絶させて、その度に起こせばいいんだし」
「うし、続けますよ神父様!」

 僕の返答に対し、ヴィルくんは乱交を続けることを選んだらしい。
 ……まあ、だろうね。腹や鳩尾みぞおちを殴って水をぶっかけるよりは、どう考えてもマシなわけだし。

「じゃあ、失礼するよ」
「……チッ……。神父様ぁ、嫌ならすぐ言ってくれな」

 僕がコンラートくんの前に膝立ちすると、ヴィルくんは渋々ながらも手を退ける。牙の痕から、赤い血が一筋流れ落ちたのが見えた。

「ん……ぅ、は……ぁ、ァ、あぁあっ!」
「あー、これ聞こえてねぇかも」

 コンラートくんはと言うと、既に快楽に溺れているようだ。赤く染まった瞳が僕のペニスを見つめ、熱く乱れた吐息が睾丸こうがんにかかる。
 唇に亀頭を押し当てると、コンラートくんはためらう様子もなくしゃぶり始めた。

「……ッ、これは……イイね……」

 吸血鬼は唾液に麻酔作用が含まれるんだけど、それがなかなか癖になる。ペニスの場合は粘膜を通してじわじわ効くうえ、大抵の吸血鬼は体液を啜るため(おそらくは本能的に)精を絞り出そうとするから舌遣いが上手い。
 だから僕は、吸血鬼の妻とセックスをする時も、必ずフェラチオをしてもらうことにしている。セックスは気持ちいいのが一番だからね。

「んじゃあ、さっさとイかせますよ~」

 ヴィルくんはこちらを睨み付けながら、腰の動きを早める。

「あっ、待っ……は、はや……ぁあッ!?」

 後ろから突き上げられ、コンラートくんの腕ががくがくと震え、耐えきれずに頭がシーツに沈む。その拍子に、くわえていたペニスも口から離れてしまう。

「ダメだよ。ちゃんと咥えて。えなくなっちゃうからね」
「ぅ……ン、んむ……っ」
「そうそう、上手だよ」

 頭を撫でつつ、絶頂の瞬間を待つ。
 やがて、コンラートくんは稲妻に撃たれたかのように青白い背中を震わせた。

「────ッ!」
「……ッ、一回目……っ!」

 ヴィルくんが嬉しそうに口角を吊り上げる。
 コンラートくんは声にならない声を上げ、僕は彼の口が離れないように頭を押さえる。

 その瞬間、先程視えた陰りが目の前に現れる。……が、正体を捉える前に消えていった。
 それでも、何となく輪郭は掴めた。これは、おそらく……

「……ああ……なるほど、ね。もう2~3回、お願いできるかい?」
「へいへい……ッ、神父様ぁ! 早く……っ、終わらせます、ん、でっ! 頑張って……っ! ください、ねッ!」
「……っ、ぅ、ンッ!? んぅ────!?」
「へへ……2回目ぇッ!」

 ヴィルくんは僕がいることも忘れて懸命に腰を打ち付け、コンラートくんは与えられる快感を受け入れ、僕のを咥えたまま恍惚とした表情を見せる。

 ヴィルくんに頼んだ通り、コンラートくんの絶頂が3~4回目に達した頃、どうにか手応えが掴めた。

「は……ッ、ありがとう……もう……っ、充分、かな」

 口の中に精を吐き出し、コンラートくんの頭を離す。
 ベッドの上にぐたりと身を横たえ、肩で息をし、コンラートくんは僕の精をゆっくりと飲み下した。

「……は、ぁ……は……。……?」

 わずかに首を傾げ、コンラートくんは口の周りの白濁も舐め取る。
 可愛いな、この子。顔も身体も均整が取れていて綺麗だし、ヴィルくんが夢中になるのもよくわかる。

「……まずい……」

 惚けた声が、ぽつりと……ん? まずい? あれ? 今不味いって言われた?
 そりゃあ体液の味に好みはあるだろうけど、フランスの妻には美味しいって言われて……いや、もしかして、ドイツ人の舌には会わない味、とか……?

「オレので口直しします? めっちゃくちゃ我慢したんで、いっぱい出ますよ……!」

 ヴィルくんがすかさず、そり勃ったままのペニスを後孔から引き抜く。
「あっ」と身を震わせ、コンラートくんは熱に浮かされた視線でヴィルくんの方を見た。

「オレのがデカいし美味いし、しゃぶりがいあるっしょ……! なぁ、そうっすよね!?」
「ん……ッ、む、んぐ……っ、んぅう……」

 なんだか、やたらと張り合われているけど、まあ、いいか。
 コンラートくんの「食事」が終わるまで、ちょっとだけ待つとしよう。



 ***



 コンラートくんを寝台に寝かせ、僕とヴィルくんは寝台のへりに並んで座る。

「……で、どうだった?」

 眠るコンラートくんの頭を撫で、ヴィルくんは僕に問いかけた。

「良かったよ。見込み通り、素晴らしい舌遣いだった」
「違ぇよそっちじゃねぇよ。マジでチンコもぐぞ」
「ごめん勘違いした。魂の陰り、だったね!」

 殺気を出されたけど、わざとじゃないから許して欲しい。
 というか、これはヴィルくんの聞き方も悪かったと思うんだ!

「……あれは……一言で言えば憎悪、かな。かなり蝕まれているように視えたよ」
「神父様、オットーに刺されてたし……呪いがまだ効いてんのか……?」
「いいや、オットーの呪いはフラテッロ・マルティンが処理したはずだ。……けど、そうだね……強いて言うなら、きっかけの一つではあるかもしれない」
「…………ああ。神父様本人が、人を憎んでるってことか」

 僕の指摘に、ヴィルくんは納得したようにコンラートくんの方を見る。

「……だろうなぁ」

 愛おしそうに、それでいて悲しそうに、ヴィルくんはコンラートくんの額に口付けた。

「どうにか抑えつけているみたいだし、忘れようと努力しているのも感じたんだけど……それなりに、強烈なものを抱えているみたいだ」

 僕が補足すると、ヴィルくんは自嘲気味な笑みを漏らす。
 何かを思い返すように目を細め、彼はコンラートくんの髪を撫でた。武骨な手に似合わず、その動きは壊れ物に触れるかのように優しい。

「憎んで当たり前だよ。それだけのことを、この人はされたんだ」
「……そうかい」

 僕には、正確なことは何一つ分からないし、何もしてあげられない。
 アンジェラなら食べてあげられたのかな。あの、自分すら滅ぼしかねないような、激しい憎悪を……

「……憎悪、かぁ。危険な感情なのはわかるんだけど……どう扱えばいいのかなあ。僕は、そこら辺には疎いから……」

 僕がぼやくと、ヴィルくんが静かな声で語る。

「オレは着いてくだけだよ。神父様がどんな道を選ぼうが、味方になるって決めてんだ」

 茶色の瞳が確かな決意を宿し、煌めく。

「愛してるんだね。素晴らしいことだ」

 僕が言うと、ヴィルくんは照れたように笑った。
 子どものように無邪気な表情で、彼は言葉を続ける。

「へへ……。そうだよ、愛してる」

 昔よりはかなりマシになったとはいえ、僕は他人の気持ちを推し量るのが得意じゃない。だけど、彼の表情かおが、愛に生きる男のものだとはわかる。
 それなら……そうだね。僕のやることは決まっている。

「ちょっと、伝えたいことがあるんだ」
「……あ?」

 コンラートくんの身体に手を伸ばすと、笑顔のままガシッと手首を掴まれる。凄まじい反射神経だ。
 仕方ないから、自分の身体を指さして伝えることにした。

「……ええとね……脇腹のこの辺り、かな。気を付けた方がいい。吸血鬼は人間と『急所』が微妙に異なるからね」

 何が正しくて、何が善なのか、僕にはよく分からない。
 ただ、僕も、彼と同じく愛に生きる男だ。それだけは間違いない。……だから、力になりたい。
 もちろんコンラートくんが可愛いというのも、理由の一つではあるのだけど。

悪魔祓いエクソシスト達は『殺し続ければいつか死ぬ。特に日光の当たる場所なら殺しやすい』程度のことしか知らないんだけど……君は、知っておくべきだと思ってね」
「……ソコ、何かあんのか」
「身体の治癒を司る器官、かな。その臓器が破壊されると、傷の回復ができなくなる。普段なら耐えられるような傷でも、死んでしまう可能性があるんだよ」
「……! マジか……!」

 ヴィルくんはさぁっと青ざめ、僕の顔に視線を向ける。
 悪魔祓い仲間にも教えていない……というか教えられない情報だけど、ヴィルくんには必要だろう。
 僕が複数人の女性に向けている「愛」を、ヴィルくんはコンラートくん一人に向けている。彼が愛しい人を失うことは、つまり、僕の妻が全員死んでしまうことと似ているんじゃないだろうか。もちろん、たった一人でもつらいものはつらいのだけど……それに加えて愛する人を全て失い、一人になるなんて……考えるだけで胸が張り裂けてしまいそうだ。

「彼らは頑丈だから、灰になるまでは『死んだ』とは言えない。……ただ……コンラートくんの場合は、少し危ういかな」
「危ういって……?」
「吸血鬼の特性が強めに出ている、ということは『一度死んだ』可能性があるんだ」

 僕の言葉に、ヴィルくんははっと息を飲む。もしかして、心当たりがあるのかな。
 ……目の前で……だったり、したのかもしれないね。

「その状態だと腕力も回復力も高まるけれど、吸血衝動が酷くなるし、一般的な吸血鬼よりも人間由来の栄養素が多く必要になる。太陽への耐性も弱まるし……何より、寿命がかなり縮んでいるはずだ。……まあ、吸血鬼の寿命は人より長いんだけどね」

 ヴィルくんは黙って聞いていたけれど、やがて「そっか」と呟き、コンラートくんの手を握った。

まもらねぇと」

 ギリッと歯を食いしばり、握りしめた手にも力が入るのが見てとれた。

「……ああ、でも、あくまで君の方が『死にやすい』ことも忘れない方がいいよ」
「あー……そっか。じゃあ、死んでも護れるようにならなきゃ……」
「それは……どうだろう」

 先程視た、コンラートくんの魂の状態を思い返す。

「さっき言ったじゃないか。コンラートくんは激しい憎悪を抱えてる。支えてくれる君を失ったら、どうなってしまうか分からないよ」

 とはいえ、こういう話はマルティンの方が得意だろうけどね。……そう言えば彼女、いつまで休憩しているんだろう。様子を見てきた方がいいのかな。

「……オレのことなんか、全然、好きに利用してくれていいのに。なんなら、踏み台にしてくれたって構わねぇし……」

 うーん? どうしてそうなるんだろう。
 僕から見たって、相思相愛だとわかるくらいなのに。

「ん……」
「あ、起きた。大丈夫っすか神父様?」
「……視えた、のか?」
「オレが聞いといたんで、後で教えるっす。今はマルティンが帰ってきそうなんで……」

 二人が会話するのをぼんやり見ていると、ノックの音が部屋に響いた。
 僕が「入っていいよ」と返事をすると、ドアがゆっくりと開く音がする。

「も、もう、さすがに終わってるわよね……?」

 ドアの方角から、マルティンの声が聞こえる。ヴィルくんの勘が冴えていたのかな。なかなか良いタイミングだ。
 声の方へ視線を投げると、様子をちらちらと伺い、ほっとした様子で部屋の中に足を踏み入れるマルティンが見えた。ちょっと赤面している辺り、相変わらず純情で可愛いなと思わなくもない。彼女はこの前まで処女だったわけだし、そうなるのも仕方ないか。

「テオドーロ、早めに出発するわよ。オットーは倒したんだもの。二人と一緒にい過ぎるのは良くないわ」

 ……立場を気にしているのも、相変わらずみたいだね。

「どうせ肩入れしているんだから、味方になってあげればいいのに」
「……分かってるくせに」
「ああ……まあ、そうだね。『一族』のしがらみは、君にとってよっぽど重いものらしい」

 出発自体はいつでも可能だ。そろそろ僕も眠くなっては来たけれど、妻の力を借りればどこでだって休息は取れる。……そろそろ、構ってあげないと拗ねそうだしね。
 くるりとコンラートくん達の方を振り返り、手を振る。

「じゃあ、チャオまたね! ……って言いたいところだけど、もう会わない方がいいのかな?」
「お互い会わねぇようにしようぜ。全然別の場所行くとかさ」
「今はそれがいいね。じゃあフラテッロ、僕とイタリアにデートに行かないかい?」
「フランスなら付き合うわよ。……一応、報告しようがあるもの」

 確かに、フランスでは吸血鬼達が集まって同盟を組もうとしているし、「それに加わりそうだった」と報告すれば教会にも納得してもらえそうだ。……少し過激な向きがあるから、二人には伝えたくないけどね。
 コンラートくんは僕達の会話を黙って聞いていたけれど、やがて、口を開いた。

「力になってくださったこと、感謝します」
「……やめなさいよ。利害が一致しただけじゃない」
「それでもです。助かりました」

 マルティンは眉をひそめながら答えるけれど、コンラートくんは律儀に胸の前で指を組んだ。礼儀正しいなぁ。
 心の内は激しい憎悪で煮えたぎっているだろうに、彼はそれを表に出さない。……もしかしたら、能力ブーケも、彼が落ち着いて見えることに一役買っているのかな?

 他人に自らを「冷静」に見せるための匂いブーケ……か。可能性は高いね。

「じゃ、幸運を祈るよ。ヴィルくんと喧嘩したら、いつでも慰めてあげよう」
「おい、サラッと何言ってやがる」
「言っただろう? 僕の愛は、僕にすら止められなあいたたたフラテッロ!! 耳を引っ張って引きずるのはやめてくれ!! ちぎれる!!!」
「遊んでないでさっさと行くわよお馬鹿!!」

 マルティンに引きずられながら、部屋を後にする。
 もう二度と会わない方が、互いにとっては良い道だろう。ヴィルくん達は悪魔祓いと戦わずに済むし、マルティンは迷いを振り切ることができる。

 ……だけど、どうしてだろう。予感のようなものがあった。
 僕達はまた、どこかで出会う運命にあるんじゃないか……って。



***



「……どうして、フランクは『オットー・シュナイダー』を持ち出したんだろうね」

 宿の外に出たあたりで、気になっていたことを口にする。
 マルティンも僕の耳から指を離し、小さく頷いた。

「奇遇ね。わたしも疑問に思っていたわ」

 コンラートくんを脅威に感じたからだとしても、あまりにリスクが大きすぎる。
 他に手頃な武器が見つからなかったのか、それとも……

 誰かに、そそのかされたのか。

 木枯らしが吹き抜ける街道を、マルティンと無言で歩く。
 どうやらフランスに向かうより前に、調べなきゃいけないことがあるようだ。
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