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第四章 訣別の春

第8話「堕ちた神父と血の接吻」※

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 ギルベルトさんは洞窟内にまだ用があるらしく、テオドーロと一緒に残った。

「……悪いが、今は家族と顔を合わせにくい。しばらく頭を冷やさせてくれ」
  
 なんてことを言っていたのもあって、大人しく神父様とオレの二人でアリッサちゃん、エルンストくんの元に帰ることに。
 ギルベルトさんは、マルティンとはきっちり話し合って決着をつけるとも言ってた。テオドーロもいるし、殺し合いにはならねぇと思うけど……いい感じに落ち着いたらいいなと思う。どっちも悪いヤツではねぇんだし。



 ご実家の方は、オレが全身ボロボロの上に片腕になった神父様を抱えて戻ってきたもんだから、もう大騒ぎだった。
 アリッサちゃんは病院で働いてるし、エルンストくんは吸血鬼についても研究しているから、てんやわんやしつつも処置はすぐに終わる。専門家ってすげぇ。
 神父様は意識が朦朧もうろうとしてたっぽいけど、オレの血を飲ませてからしばらく寝かせたら、それなりに受け応えもできるようになった。片腕になったことには納得してる……というか、「生きて帰れただけで良かった」と思ってるらしい。……逆に言えば、生きて帰れねぇかもって思ってたってことだよな。後で詰めとこ。

「ほんとに何があったの!? ちゃんと話すまであたし、帰らないからね!」

 アリッサちゃんの剣幕にされ、神父様はオレに視線だけで助けを求める。
 いつかの修道院で説明ぶん投げたことへの仕返しかな、これ。

「えーとな……話すと長くなるんだけど、まずどこから話すか……。神父様がベッドの上では超エロいって話とか?」
「その説明は最も要らないだろう!?」
「だってさぁ。無茶したら許さねぇって言ったのに今回のは無茶どころの騒ぎじゃねぇし、しかもオレ以外のために傷つきやがったし……これはもう孕ますだけじゃ済まねぇっすよ」
「や、やはり、怒っているか……?」
「怒ってねぇっすよ。……でも、怪我治ったら覚悟しとけ」
「怒っているではないか……!」

 やいのやいの話していると、エルンストくんが楽しそうに突っ込んでくる。

「ヴィルさん、詳しく聞かせて!」
「おう、いいぜ。でも神父様とセックスしていいのはオレだけな」
「じゃあヴィルさんは? ヴィルさんを抱くのはいいの?」

 無邪気にオレを見つめてくるエルンストくん。そっかー、そう来るかー。
 神父様は眉間にシワを寄せ、むっとした声で止めた。

「エルンスト、絶対にやめろ」

 おっ、もしかして神父様も嫉妬してくれてる?
 アリッサちゃんはアリッサちゃんで「なるほどね」と頷き、納得してくれたみたいだった。

「コンラート兄さんがまた無理したってのは、よくわかったわ。……ごめんなさいねヴィルさん、兄さんったら意地っ張りだし無謀な抱え込み方するし、これからも苦労かけるかも……」
「あ、アリッサ、おまえもおまえで平然としすぎだろう」
「そう? だって、コンラート兄さんなら抱かれてても別におかしくないもの。そんな顔してるし」

 アリッサちゃん、わかってんな。
 さすが一番歳の近い妹ってだけはある。

「だよな。エッチだし孕みそうだし母乳でそうな顔だよな」
「そうそう。万が一妊娠したら、ちゃんとエルンストかあたしに診せてね」
「……。……いったい……どんな、顔なのだ……?」

 オレとアリッサちゃんの会話に、神父様は困惑を隠せてない。
 そこでエルンストくんが「うーん」と考え込み、口を挟む。

「妊娠できるかなぁ。吸血鬼と人間だと、ちょっと難しいかも……」
「え、エルンスト……? そこではなかろう。もっと重要な部分があるはずだ」
「でも……吸血鬼の身体の造りって、わからないことも多いし……」
「……そ、そう、か……」

 神父様はうろたえつつ、自分の下腹部に手をやる。

「……宿る、可能性はあるのか」

 困ったように眉根を寄せつつ、口元がわずかに緩んだのをオレは見逃さなかった。
 ……父親になる覚悟、しておかねぇとな。またマルティンに怒られちまう。



 ***



 昼間に眠った神父様は、朝方、まだ暗いうちに目を覚まし、添い寝していたオレを起こした。

「……血が、欲しくてな」

 赤くなった頬が月明かりに照らされていて、意図を察する。服を脱ぎ捨て、神父様の下穿きにも手をかけた。

 新しい傷痕がないか、青白い身体を舐め回すように確認する。ついでにちょっとだけ、本当に舐め回した。
 今までの均整きんせいとれた身体も綺麗で完璧だったけど、片腕を失くした姿もそれはそれで股間にクる。なんつーのかな……まもってあげなきゃ感が強くなった感じっていうのかな……。……だからと言って、痛い思いして欲しいわけじゃなかったんだけど。
 左腕の断面は新しい肉と皮膚に包まれて、ちょっと敏感になっているのか、舌を這わせると肩が跳ねる。神父様、やっぱり傷痕弱いんだな……可愛い。

「……で、なんであんな無茶したんすか」

 正面からがっちりと抱き締め、耳元で囁く。
 ふっと息を吹きかけると、神父様は切なそうに身をよじった。
 片腕を失くしたとはいえ、神父様の力が強いことに変わりはないし……抜け出そうと思えば抜け出せるんだろうけど、逃がしたくない。……逃がす気もないけどな。

「……赦しを、請いたかったのだ」
「神様に?」
「ああ……誓いに背いてまで、おまえを……その……愛していいものか、と……」

 神父様がたくさん悩んで苦しんで、それでもオレを選ぼうとしてくれたってのは、わかる。
 それは……それ自体は、すごく嬉しいことだ。
 いや、でもさぁ……何も、片腕失くすまで頑張らなくて良かったろ。何も持たないオレと違って、神父様には大切なものが多すぎるってのも……わかってきたつもりではあるけどさぁ。

「……私は生き延びた。神は、私達をお赦しになっている」
「…………。神様の愛って、何なんすかね」
「神の愛は、我々人の愛とは違う。欲に塗れたものでなく……無償の、あらゆる人に平等に注がれる愛だ」
「欲って、悪いもんなの?」
「節制できなければな」
「ほへー……」

 ベッドに寝かせたまま、首筋から胸、腹にキスを落とす。ぴくっと身を震わせ、神父様は片手だけでオレの背中に縋り付く。

「あ……っ」

 喉を反らせ、神父様は気持ち良さそうに目を細める。
 尻にオレの指を這わせ、あなに埋める。……いつも思うけど、綺麗なんだよな、ココ。抱かれる準備、きちんとしてんのかな。

「やっぱ、よくわかんねぇっす。気持ち良くて楽しいコトの何が悪いんすかね」
「ン……っ、まあ……貴、様は、そう言う……だろう、な……っ」
「……悔い改めろって言わねぇんすか」
「教会、ですら……っ、か、価値観の……ぉっ、変革を、求められ……る、時代だ……。快楽主義を……ッ、ぁ、誤り、と、断ずる……っ、こと……は、で……でき、まい……ッ!」
「おっ! 色々あってちょっと図太くなりましたね、神父様。良いことっす」

 指でナカを拡げ、かき回す。神父様はぞくぞくと背中を震わせ、受け応えの中にも甘い声が混じっていく。

「く……ッ、ぅ……そ、れに……わ、私が……はっ、ァ……っ、く、悔い、改めろ……と、言った、のは……、その……私の、ために……手を、汚させるのが……ぁあッ! ……も、申し訳なくて、だな……っ」
「…………オレのために、突き放してたってことっすか?」

 問いかけると、神父様は耳まで真っ赤にして頷く。
 可愛いなぁ、もう。……本当に、愛しすぎる。

「んじゃ、チンコ突っ込みますよ……っ! 今日という今日は孕ますんで、栄養欲しかったらテキトーに噛んで吸ってくれな……!」
「ま、待て……! まだ、心の準備、が……ぁ、あぁあっ!」

 容赦なく奥の方まで突っ込み、弱いところをガンガン責め立てる。腰を振るたび神父様の腰も揺れて、そそり立ったブツから先走りが零れる。

「う、ぁあっ! は、ァ、くぅ、んん……っ、は、ふ……っ、ぅう……ッ!!」

 神父様は気持ち良さそうに喘ぎながら、オレの肩口に噛み付いた。噛まれたところからじわじわ快感が広がって、堪らなく気持ちいい。

「は……ッ、イイっすね……!」
「ん、ぁ、あぁッ! はげ、し……! ヴィル……っ、ヴィルぅ……っ!」

 唇を重ね、深く、深く繋がる。
 舌を絡め、神父様の竿を握り締めると、ナカがキツく締まった。

「は……ァ、も、出る……ッ」

 最奥に子種をぶちまけても、熱はまだまだ収まらない。

「な、なか、出て……っ、イ、あぁあっ! あ──────ッ!!!」

 絶頂し、背筋を反らせる神父様の髪を撫で、しばらく余韻に浸る。ナカに入ったまま、また大きくなってきたオレ自身をちょっとだけ手前に引き抜いて、貫こうと腰を浮かせる。

「…………っ、帰って……来れて、良かった」

 ……と、神父様は、片方しかなくなった手をオレの頬に添え、ふわりと笑った。
 昔より切なそうで、苦しげで……それでも、優しくて、甘くて……嬉しそうな……
 思わず突くのをやめ、その笑顔に魅入ってしまう。
 ああ……オレは、その顔が見たかったんだ。ずっと、ずっと、そんなふうに笑って欲しかった。

「大丈夫だ、ヴィル……。もう、奪わなくともいい。今のおまえには、それ以外の道がある」

 涙が、オレの頬を伝ったのがわかる。二の腕から先のない左腕に触れ、神父様の目を見つめる。

「……その『道』は、神父様が教えてくれたんすよ。オレ、これからもそばにいますから……一緒に、歩いて行きましょ」
「ああ。……ありがとう」

 神父様はためらうように言葉を詰まらせ、それでも、意を決したように言い切った。

「おまえを、愛している」

 震える身体をかき抱き、強く、強く抱き締める。

「後悔しても、知らねぇぞ」
「ああ」
「ベッドの上のノリだったとしても、オレは忘れねぇから」
「愚か者。むしろ、二度と忘れるな」

 指先を絡め、深く口付け、また腰を動かし始める。
 切れた舌先から、血の味が滲む。
 神父様は美味そうに血と唾液を飲み下し、赤く染まった瞳はすっかり蕩けていた。

「……っ、名前で、呼べ」
「……へ?」
「まさか……っ、ぁ、……忘れた……わけ、でも……ンッ! ある、まい……っ」

 淫らな声に誘われるまま、耳元に口を寄せる。

「あ……愛してる。コンラート……っ」
「ああ……」

 首筋に、腕が絡まる。
 一本だけの腕でしがみつくようにして、神父様は……コンラートは、自分からオレにキスをした。
 再び血の味が口いっぱいに広がり、オレの子種が彼のはらに注がれる。

「それが……おまえの、伴侶の名だ」

 その日、「神父コンラート」は、オレに堕ちた。
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