【完結済】『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』

譚月遊生季

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第三章 咆哮の日々

0-23. ある小説家の見解

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 ……つまり、彼らは生きた証を残したかったんだ。
 その咆哮を、遠い未来さきにまで届けたかったんだ。
 ボクはそう思っている。……ボクもそうだったから、余計にそう思う。
 彼らはその足掻きを、その爪痕を、その葛藤を遺すことで、たとえ死んでも生き続けようとしたんだ。

「……君、死んでからわかったの? その「真実」って」

 わかった……というのは傲慢かもしれないね。簡単に理解できるようなものでもない。……もっとも、彼らが「真実」という言葉をどう定義していたかは分からないけれど……。

 ボクは、「彼」との出会いでその時代を知ることができた。人ならざる瞳が見てきた嘆きを、悩みを、慈しみを……ボクは聞くことができた。生前記すことができなかったのは確かに心残りだが……こうして、ボクの魂に受け継がれ、キミに託すことができている。

 それがどれほど大きな意味を持つか、わかるかい?

 ……上手く答えられないならいいよ。キミ、言葉で語るのは苦手だろう?
 ともかく、続きと行こうか。



 ***



『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』ジョージ・ハーネス版より、「Strivia-Ⅳ」


「いずれ、私の行いが正義となるならば……この地には、再び血が流れることとなろう」

 ある者は、その言葉を呪詛と語った。
 怜悧に、静穏な声音は断頭台の上から我らの鼓膜をしかと揺さぶった。
 ……そして、若き参謀は散った。

 呪詛とも、予言とも、忠告とも、祈りともつかぬ言葉を遺し、彼は逝った。

「……馬鹿野郎が」

 赤毛の賢人は、吐き捨てるようにその場を去った。
 最後まで凛と、何一つ曲げることなく、時代の徒花と散った姿を、金の瞳は片時も目を離さずに捉えていた。

 彼らが分かり合うことはついぞなかった。
 差し伸べた手を取ることもなく殉じた青年と、手首を掴むこともできなかった青年の歩みは、どこまで進もうが決して交わるものではなかったのだ。

 ソーラが、誰に言われるでもなく歌を紡ぐ。
 その旋律は風に乗り、彼に届いただろうか。
 露と消えた命への、鎮魂歌となり得ただろうか……。



 ***



 さぁ、辿ろうじゃないか。磨きに磨いた言葉で蘇らせようじゃないか。
 彼らの想いを、祈りを、……生き様を……!
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