【完結済】『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』

譚月遊生季

文字の大きさ
上 下
48 / 57
第三章 咆哮の日々

0-23. ある小説家の見解

しおりを挟む
 ……つまり、彼らは生きた証を残したかったんだ。
 その咆哮を、遠い未来さきにまで届けたかったんだ。
 ボクはそう思っている。……ボクもそうだったから、余計にそう思う。
 彼らはその足掻きを、その爪痕を、その葛藤を遺すことで、たとえ死んでも生き続けようとしたんだ。

「……君、死んでからわかったの? その「真実」って」

 わかった……というのは傲慢かもしれないね。簡単に理解できるようなものでもない。……もっとも、彼らが「真実」という言葉をどう定義していたかは分からないけれど……。

 ボクは、「彼」との出会いでその時代を知ることができた。人ならざる瞳が見てきた嘆きを、悩みを、慈しみを……ボクは聞くことができた。生前記すことができなかったのは確かに心残りだが……こうして、ボクの魂に受け継がれ、キミに託すことができている。

 それがどれほど大きな意味を持つか、わかるかい?

 ……上手く答えられないならいいよ。キミ、言葉で語るのは苦手だろう?
 ともかく、続きと行こうか。



 ***



『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』ジョージ・ハーネス版より、「Strivia-Ⅳ」


「いずれ、私の行いが正義となるならば……この地には、再び血が流れることとなろう」

 ある者は、その言葉を呪詛と語った。
 怜悧に、静穏な声音は断頭台の上から我らの鼓膜をしかと揺さぶった。
 ……そして、若き参謀は散った。

 呪詛とも、予言とも、忠告とも、祈りともつかぬ言葉を遺し、彼は逝った。

「……馬鹿野郎が」

 赤毛の賢人は、吐き捨てるようにその場を去った。
 最後まで凛と、何一つ曲げることなく、時代の徒花と散った姿を、金の瞳は片時も目を離さずに捉えていた。

 彼らが分かり合うことはついぞなかった。
 差し伸べた手を取ることもなく殉じた青年と、手首を掴むこともできなかった青年の歩みは、どこまで進もうが決して交わるものではなかったのだ。

 ソーラが、誰に言われるでもなく歌を紡ぐ。
 その旋律は風に乗り、彼に届いただろうか。
 露と消えた命への、鎮魂歌となり得ただろうか……。



 ***



 さぁ、辿ろうじゃないか。磨きに磨いた言葉で蘇らせようじゃないか。
 彼らの想いを、祈りを、……生き様を……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

浮雲の譜

神尾 宥人
歴史・時代
時は天正。織田の侵攻によって落城した高遠城にて、武田家家臣・飯島善十郎は蔦と名乗る透波の手によって九死に一生を得る。主家を失って流浪の身となったふたりは、流れ着くように訪れた富山の城下で、ひょんなことから長瀬小太郎という若侍、そして尾上備前守氏綱という男と出会う。そして善十郎は氏綱の誘いにより、かの者の主家である飛州帰雲城主・内ヶ島兵庫頭氏理のもとに仕官することとする。 峻厳な山々に守られ、四代百二十年の歴史を築いてきた内ヶ島家。その元で善十郎は、若武者たちに槍を指南しながら、穏やかな日々を過ごす。しかしそんな辺境の小国にも、乱世の荒波はひたひたと忍び寄ってきていた……

やり直し王女テューラ・ア・ダンマークの生存戦略

シャチ
歴史・時代
ダンマーク王国の王女テューラ・ア・ダンマークは3歳の時に前世を思いだす。 王族だったために平民出身の最愛の人と結婚もできす、2回の世界大戦では大国の都合によって悲惨な運命をたどった。 せっかく人生をやり直せるなら最愛の人と結婚もしたいし、王族として国民を不幸にしないために活動したい。 小国ダンマークの独立を保つために何をし何ができるのか? 前世の未来知識を駆使した王女テューラのやり直しの人生が始まる。 ※デンマークとしていないのはわざとです。 誤字ではありません。 王族の方のカタカナ表記は現在でも「ダンマーク」となっておりますのでそちらにあえて合わせてあります

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

3lads 〜19世紀後半ロンドンが舞台、ちょっとした日常ミステリー

センリリリ
歴史・時代
19世紀後半のロンドン。 属する社会階層の違う3人のlad(にーちゃん)が、身近に起きるちょっとしたミステリーに首を突っ込んでいく短編連作集。

柿ノ木川話譚4・悠介の巻

如月芳美
歴史・時代
女郎宿で生まれ、廓の中の世界しか知らずに育った少年。 母の死をきっかけに外の世界に飛び出してみるが、世の中のことを何も知らない。 これから住む家は? おまんまは? 着物は? 何も知らない彼が出会ったのは大名主のお嬢様。 天と地ほどの身分の差ながら、同じ目的を持つ二人は『同志』としての将来を約束する。 クールで大人びた少年と、熱い行動派のお嬢様が、とある絵師のために立ち上がる。 『柿ノ木川話譚』第4弾。 『柿ノ木川話譚1・狐杜の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/905878827 『柿ノ木川話譚2・凍夜の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/50879806 『柿ノ木川話譚3・栄吉の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/398880017

佐々木小次郎と名乗った男は四度死んだふりをした

迷熊井 泥(Make my day)
歴史・時代
巌流島で武蔵と戦ったあの佐々木小次郎は剣聖伊藤一刀斎に剣を学び、徳川家のため幕府を脅かす海賊を粛清し、たった一人で島津と戦い、豊臣秀頼の捜索に人生を捧げた公儀隠密だった。孤独に生きた宮本武蔵を理解し最も慕ったのもじつはこの佐々木小次郎を名乗った男だった。任務のために巌流島での決闘を演じ通算四度も死んだふりをした実在した超人剣士の物語である。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

伊藤とサトウ

海野 次朗
歴史・時代
 幕末に来日したイギリス人外交官アーネスト・サトウと、後に初代総理大臣となる伊藤博文こと伊藤俊輔の活動を描いた物語です。終盤には坂本龍馬も登場します。概ね史実をもとに描いておりますが、小説ですからもちろんフィクションも含まれます。モットーは「目指せ、司馬遼太郎」です(笑)。   基本参考文献は萩原延壽先生の『遠い崖』(朝日新聞社)です。  もちろんサトウが書いた『A Diplomat in Japan』を坂田精一氏が日本語訳した『一外交官の見た明治維新』(岩波書店)も参考にしてますが、こちらは戦前に翻訳された『維新日本外交秘録』も同時に参考にしてます。さらに『図説アーネスト・サトウ』(有隣堂、横浜開港資料館編)も参考にしています。  他にもいくつかの史料をもとにしておりますが、明記するのは難しいので必要に応じて明記するようにします。そのまま引用する場合はもちろん本文の中に出典を書いておきます。最終回の巻末にまとめて百冊ほど参考資料を載せておきました。 (※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます)

処理中です...