【完結済】『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』

譚月遊生季

文字の大きさ
39 / 57
第三章 咆哮の日々

11. 路地裏の会合

しおりを挟む
「なぁ、どんな死に方してぇ?」
「あ?」

 荒れた路地裏に賊が2人。
 褐色の肌に茶髪、濃褐色の鋭い目付き。たくましい体躯の青年が呟いた言葉は、「死に方」という内容にそぐわない軽い響きをしていた。

「あー、死体残さず忽然と消えてぇな。できたらカッコよく」

 同じく軽口で返し、ニヤリと笑った青年の体躯はすらりと引き締まっている。赤髪に金色の瞳。……ミゲルだ。

「なんかスゲェな」
「ティグ、お前は?つかなんで聞いた」

 ティグと呼ばれた青年は軽くあくびをしながら返した。

「それがよ、ライオンと戦って死ぬのってヤベェなと思ってたけど無理だって気づいちまって。もうちょいちゃんとしたこと言えねぇとバカだと思われんだろ?」
「安心しろ。お前はどっからどう見ても筋肉ダルマのバカだ。安定感は抜群でよかったな」

 微笑んでうんうんと頷きながら、皮肉を贈る。が、何をどう解釈したのか、「マジで!?ありがとな相棒!」と、相手は楽しそうにする。

「……つか、ライオン……ローマの奴隷じゃあるめぇしな」
「ふっつーに小競り合いでーってのもつまんねぇし……ってよ」

 相手の話を軽く聞き流しながら適当に思案を巡らせ、ミゲルは空模様をちらりと確かめる。
 まだ、雨は止みそうにない。

「確かに俺もここんとこ退屈で飽き飽きしてら。……要するにお前はあれだ、ティーグレ・アレッサンドロここにあり!!って死に方してぇんだろ?」
「死に方してぇっつーか、どう言ったら女の子にモテっかなって」
「本当にお前ってやつはよ……こんな清々しいバカ、どこ探しても滅多にお目にかかれねぇぜ」

 呆れを通り越した感動を台詞にありったけ込め、ミゲルははたと思いついたように語る。

「時代は荒れるぜ。でかい戦争なんかもあるかもしれねぇ」
「マジで?ライオン来るか、ライオン」
「とりあえずライオンから離れろ。お前どっちかっつーと虎だろ」

 稲光が走る。雨の向こうに、浮かび上がる人影。金色の目を細め、ミゲルの口角がわずかに釣り上がる。

「……面白ぇことすんなら……どっかに入ってみっか?暇人どもの集いとか」
「ライオンいそうなとこ?」
「あー……魔物はいそうだわな。こんなへんぴな田舎で国家転覆なんざ狙ってんだからよ」

 雷鳴が轟く。ビリビリと、ゴロツキ2人の鼓膜を震わせる。

「どうせ俺らは明日をも知れぬ命だ。そうだろ?ティグ」
「そうだっけ?……そういや相棒、今日の名前聞いてねぇ」
「雨めっちゃ降ってるからノアってさっき言ったろ」

 ティーグレ・アレッサンドロ。それが、後にザクス・イーグロウのモデルになる盗賊の名だった。イタリアからの流れ者だが、本人の記憶力も相まって素性はよく分からない。
 ミゲルと知り合ったのはまったくの偶然。なんだかんだでつるむようになったのは、互いが互いに欠けたものを持っていたからだ ろう。

「さて、いっちょ売り込みに行きますかね」

 雨は小ぶりになった。その機を見逃さず、赤髪の詐欺師は傍らに合図を送る。
 掃き溜めのような路地裏を後にし、2人の若者は賭けに身を投じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...