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第二章 さようなら過ぎ去った日よ
第5話「ひどい病気には思い切った処置」※
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「来たか」
いつもの通り寝室に行くと、煙草を咥えたフェルディナンドに出迎えられた。
独特の匂いが鼻をかすめ、以前と同じ銘柄だと気付く。
「それ、何の銘柄?」
「……貴様が気にすることではない」
相変わらず態度は尊大な上に、冷たい。
だけど……何でだろうな。以前に比べりゃ、全然腹が立たなかった。
テーブルの上の箱をちらりと見る。
パッケージに布を被せて隠してはいたが、透けた文字で何が書かれているかは察した。……C……lm……nt……「Calmante」……「鎮痛剤」、だ。
そりゃ、見たことねぇ銘柄なわけだよ。「煙草の形した薬」なんだからな。
「……」
「………」
話題の切り出し方が分からず、沈黙が続く。
すぐ押し倒す手もあったが、そんな気分にもなれなかった。
「どうした。今日は静かだな」
「え、いや、なんつーのか……まあ……そうかもな……?」
「……?」
めっちゃ「なんだこいつ」って顔で見られてるが……
接し方が分かんねぇんだよ!!!
いきなり優しくなったらなったで、怪しまれるだろうが!!
「……火、貰っていい?」
とりあえず俺も煙草を取り出し、尋ねてみる。
遠回りにはなるが、こういうちょっとしたところから打ち解けてくのが良い……ような、気がした。
「やめろ、他人の煙草の匂いなど嗅ぎたくもない」
…………。
やっぱ腹立つな、こいつ……!!
***
なんやかんやで俺の方から服を脱ぎ、ベッドに入る流れになった。
敏感になった胸を舐り、腰を、腹を撫でさすれば、吐息は次第に熱く、甘く蕩け始める。
首の絞め痕は綺麗に消えていた。
そりゃ、貴族様は、ガキの頃から教わる魔術の質が違う。痣程度ならすぐに癒せるし、多少の傷痕ならいくらでも消せるだろうよ。
……でも、心の傷は癒せねぇ。
「なぁ、フェルディナンド」
痕の消えた首筋に口付け、藍色の瞳を見下ろす。
感情を映さない、冷徹な瞳の奥を探るように。……仮面の奥を覗き込むように。
「攫ってやろうか」
頬に手を添え、語りかける。
「……必要ない」
フェルディナンドは悩ましげな吐息を漏らしながらも、きっぱりと言い放った。
ラピスラズリの瞳が、ベッドサイドの仄かな灯りに照らされて煌めく。
「私はダリネーラに産まれた者として、最低限の責務を果たす」
責務? 呪いの間違いだろ。
頬に触れた手がわずかに震える。……この馬鹿野郎、本気で言っていやがるのか。
あんな、クソ親父のために身体も心も弄ばれて、苦しんだ果てに死んでくのを、本気で受け入れてやがるのか……?
「継ぎ接ぎのハリボテだろ、そんなもん」
「……虚像であれ、守るべき矜恃はある。腐った膿の詰まった実だとしても、表面だけは磨き上げておかねばならん」
意思の宿った瞳が輝く。
「私の役割は、貴き将校として散ることだ」
……ああ、そうか。
半ば砕かれかけた、ボロボロの光でも……奴にはもう、「それしかない」んだろう。
そうだな。「切り捨てられかけた下っ端に寄り添って一緒に死んでやった」って最期なら、お涙も頂戴できるし悪くはねぇ。中尉から聞かされたのも、「それっぽい」演説だったしよ。
それでも、葛藤はあるはずだ。そうじゃなきゃ、優しい上官に懐いたり、人目を気にしながら快楽を欲したりしねぇ。
「……俺が壊してやるよ」
竿を宛てがい、言い切った。
「下らねぇ矜恃も、澄ました仮面も、俺が叩き壊してやる」
ずん、と一気に腰を沈め、貫く。
「あ……ッ」
「俺がお前を、壊してやる」
耳元で囁き、唇を奪う。
逃がれようとさまよう指を搦め取り、強く握り締めた。
いつもの通り寝室に行くと、煙草を咥えたフェルディナンドに出迎えられた。
独特の匂いが鼻をかすめ、以前と同じ銘柄だと気付く。
「それ、何の銘柄?」
「……貴様が気にすることではない」
相変わらず態度は尊大な上に、冷たい。
だけど……何でだろうな。以前に比べりゃ、全然腹が立たなかった。
テーブルの上の箱をちらりと見る。
パッケージに布を被せて隠してはいたが、透けた文字で何が書かれているかは察した。……C……lm……nt……「Calmante」……「鎮痛剤」、だ。
そりゃ、見たことねぇ銘柄なわけだよ。「煙草の形した薬」なんだからな。
「……」
「………」
話題の切り出し方が分からず、沈黙が続く。
すぐ押し倒す手もあったが、そんな気分にもなれなかった。
「どうした。今日は静かだな」
「え、いや、なんつーのか……まあ……そうかもな……?」
「……?」
めっちゃ「なんだこいつ」って顔で見られてるが……
接し方が分かんねぇんだよ!!!
いきなり優しくなったらなったで、怪しまれるだろうが!!
「……火、貰っていい?」
とりあえず俺も煙草を取り出し、尋ねてみる。
遠回りにはなるが、こういうちょっとしたところから打ち解けてくのが良い……ような、気がした。
「やめろ、他人の煙草の匂いなど嗅ぎたくもない」
…………。
やっぱ腹立つな、こいつ……!!
***
なんやかんやで俺の方から服を脱ぎ、ベッドに入る流れになった。
敏感になった胸を舐り、腰を、腹を撫でさすれば、吐息は次第に熱く、甘く蕩け始める。
首の絞め痕は綺麗に消えていた。
そりゃ、貴族様は、ガキの頃から教わる魔術の質が違う。痣程度ならすぐに癒せるし、多少の傷痕ならいくらでも消せるだろうよ。
……でも、心の傷は癒せねぇ。
「なぁ、フェルディナンド」
痕の消えた首筋に口付け、藍色の瞳を見下ろす。
感情を映さない、冷徹な瞳の奥を探るように。……仮面の奥を覗き込むように。
「攫ってやろうか」
頬に手を添え、語りかける。
「……必要ない」
フェルディナンドは悩ましげな吐息を漏らしながらも、きっぱりと言い放った。
ラピスラズリの瞳が、ベッドサイドの仄かな灯りに照らされて煌めく。
「私はダリネーラに産まれた者として、最低限の責務を果たす」
責務? 呪いの間違いだろ。
頬に触れた手がわずかに震える。……この馬鹿野郎、本気で言っていやがるのか。
あんな、クソ親父のために身体も心も弄ばれて、苦しんだ果てに死んでくのを、本気で受け入れてやがるのか……?
「継ぎ接ぎのハリボテだろ、そんなもん」
「……虚像であれ、守るべき矜恃はある。腐った膿の詰まった実だとしても、表面だけは磨き上げておかねばならん」
意思の宿った瞳が輝く。
「私の役割は、貴き将校として散ることだ」
……ああ、そうか。
半ば砕かれかけた、ボロボロの光でも……奴にはもう、「それしかない」んだろう。
そうだな。「切り捨てられかけた下っ端に寄り添って一緒に死んでやった」って最期なら、お涙も頂戴できるし悪くはねぇ。中尉から聞かされたのも、「それっぽい」演説だったしよ。
それでも、葛藤はあるはずだ。そうじゃなきゃ、優しい上官に懐いたり、人目を気にしながら快楽を欲したりしねぇ。
「……俺が壊してやるよ」
竿を宛てがい、言い切った。
「下らねぇ矜恃も、澄ました仮面も、俺が叩き壊してやる」
ずん、と一気に腰を沈め、貫く。
「あ……ッ」
「俺がお前を、壊してやる」
耳元で囁き、唇を奪う。
逃がれようとさまよう指を搦め取り、強く握り締めた。
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