遥かなる物語

うなぎ太郎

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最終章

アルトベルグ城攻略戦

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「まだ戦しろって言うのか…もう流血の飽和状態になっているのに」慣れない土地の水で下痢を起こしていたこともあり、僕は愚痴をこぼした。

「アルトベルグ城を落とせばそこからは、大ザラリア王国首都のテレルリンまで一本の街道です。大都市や城塞も道筋にないため、アルトベルグ城を陥落せしめればテレルリンを攻略できるとの算段が、皇帝陛下にはあるのでしょう」ロジェが言った。

「だが、そのような要所でありながら、アルトベルグ城は小規模な城。本来は攻略戦自体仕掛けられてはならないのに、何故我々は辿り着けたのだろうか…」僕は考えながら言った。

「何か敵の策略があるかもしれません。ここは慎重に行った方が良いでしょう」ロジェが注意するよう勧める。
「敵部隊の司令官はジュリアン・カレと言うそうだが、結構な智将と聞く。そして敵は兵数も多い。城に兵は入り切らないし、城の外で野戦を挑んでくると思われる」僕は言った。

「敵の城が意味を失うのは我々にとって歓迎です。しかし敵の数が多く、司令官の質も上となれば明らかに不利。皇帝陛下はなぜ我々だけで戦わせるのか…」ロジェもこぼした。

「アルトベルグと言うのはザラリア語の地名だね。もしかして十八国体制の時代は大ザラリア王国の国境だったのでは?」僕は突然閃き指摘する。

ロジェは少し考え込んだ後、顔を上げて言った。「確かに、アルトベルグという名前はザラリアの匂いがします。かつて国境だったのなら…小さなアルトベルグ城から帝都まで一直線とは、何だか不自然ですな」

「国家機密を公開する国家は無い。アルトベルグから帝都までには、必ず大規模な城か都市が存在する。僕はそう見ている」僕は言った。

「流石シャルル様、最近は戦略的な見方が出来るようになられてきたのですね」書類の整理をしていたジャンが加わった。
「ハハハ、まあ僕も若く当主になったから、あまり勉強する時間が無かったからね。最近仕事の合間を縫って書物を読み漁っているんだ」

結局、プチ軍とリシャール軍も共にアルトベルグ城を攻略することとなった。皇帝陛下のご命令である以上仕方が無いが、それでも不安を拭い切れる訳では無い。

アルトベルグ城は渓谷から、思ったほどの距離は無かった。
「何だ、地図の嘘つきじゃ無いか。ところでもうすぐ城だ、警戒して進め」
古くから敵国の領地であると言うことは、敵はこの周辺の地形を熟知しているはずだ。僕は円形の陣地を編成させ、慎重に城に近づいていった。

「あーっ、あれは!」
ラファエルが指を差した。城を眼前に臨んだそこには、智将カレの率いる敵の大軍が展開していたのだった。

「話が違う。敵は我々の1.3倍程度と聞いていた。しかしこれはつまり、その、えっと、敵は我々の3倍はある」僕は余りのショックに、馬上で取り乱していた。

「シャルル様、落ち着いてください。敵の数が多いなら、正面からではなく、計略で以て戦うしかありません」ラファエルが言った。
「勿論だ。だが相手は用兵を熟知した智将。我々の計略など簡単に見抜くかもしれん」僕はなかなか落ち着けなかった。

一旦その日は城を離れ、近くの丘に野営した。敵の包囲を警戒し、飲み水の湧き出る丘を選んだが、一晩中不安で僕は一睡も出来なかった。

明くる朝、僕はラファエル、ロジェ、ジョゼフ、クロード、アンリ、プチ子爵とその部下達と会議を開いた。

「ベルタン侯爵、ご安心ください。敵の智将に対抗しうるだけの部下がいます。」プチ子爵の言葉に、僕たちは驚愕を通り越して唖然とした。
「彼の名はアルノー・フォンテーヌ。十八国時代の国境での戦闘を数多く経験し、40年に渡り我がプチ家の参謀として活躍しています」子爵は続ける。

「それなら、そのアルノー殿にお会いすることは叶いますか?」僕は半信半疑だったが、微かに自分でも期待していた。
「勿論です。アルノー」子爵が呼ぶと、白髪の初老の男が入ってきた。

「初めまして、プチ家参謀のアルノー・フォンテーヌと申します」アルノーの左頬には十字の傷があり、歴戦の勇士であろうことを感じさせる。だがその鋭い眼光は、彼の知謀をよく表していた。

「用兵学の基礎に立ち返れば、基本的に我が軍は兵力を集中し、敵軍の兵力を分散させて各個撃破につとめることが大切です。我々は兵力は少なく精鋭揃いのため、機動力は高く、各個撃破は十分に可能です。」
「では、どうすれば敵軍を分散させることが出来るのか?」僕は尋ねた。

アルノーは少し考え込むと、ゆっくりと口を開いた。「敵軍を分散させるためには、敵の前線を崩壊させ、部隊を分裂させることが重要です。そのために、敵の作戦を逆手に取り、意表を突きましょう。敵軍はU字型の陣形をとっており、我が軍を包囲殲滅させようとしていると思われます。そこで敵の手に乗って中央突破はせず、あえて兵力が薄い西側の側面を奇襲し、混乱の隙に背後に回ってU字を分裂させます。その後は挟撃を防ぐため2隊の隙間から脱出し、西側部隊を撃破してから東側部隊を攻撃します。」

アルノーの説明に、会議室の空気が一変した。彼の冷静で論理的な戦略に、僕は希望の光を見た気がした。
アルノーはさらに詳細を説明していった。

「まず我々の精鋭部隊を用いて敵の西側を奇襲します。その際、騎士軍や騎兵を使い、敵の予期しない場所から攻撃をかけ、混乱を生じさせましょう。敵軍が混乱すれば、敵軍部隊を分断して各個撃破することは十分に可能です。」

「なるほど…」僕は頷きながら考えた。
「この作戦がうまくいけば、敵軍は壊滅し、アルトベルグ城を陥落させることが出来るだろう。」

「はい、そうです。」アルノーは自信を持って答えた。「兵数が少ない状態で敵と戦うことは、非常に困難です。だが数にばかり目を奪われてはいけません。敵軍の意表を突いた作戦を用いれば、勝機は十分にあります。」

作戦決行は翌日に決められた。僕は相手が智将と聞いて、甚だ不安だったが、例の作戦を用いれば勝てると思うと内心ワクワクしていた。興奮で眠れず、やむなく戦場では貴重なワインを開封してようやく眠りについた。

翌朝、作戦の準備が整い、僕たちは前線に向かうことになった。天気は曇りがちで、少しの風が吹いていた。敵のU字型の陣形を再確認し、各部隊に最終指示を出した。

「全員、準備は整ったか?」僕は声をかけた。
「はい、シャルル様。」部下たちは一様に自信に満ちた表情をしていた。

「プチ子爵、そちらの準備も整いましたか?」
「はい、ベルタン侯爵!」

「よし、それでは作戦を開始する。敵軍の西側側面を奇襲し、混乱を引き起こす。混乱の隙に、敵を分断し、一気に勝利を収めるぞ!」
「オー!!」

僕たちは一斉に武器を掲げ、行動を開始した。敵軍の正面を避け、西側の側面を狙って進撃していく。敵の陣地が近づくにつれ、僕の心臓は高鳴り、戦場の空気が張り詰めていった。

「敵襲!敵襲!右翼側面に敵襲来!」
敵は僕たちの予想外の攻撃に慌てているようで、混乱が急激に広がった。敵はすぐに反撃を開始したが、先鋒となった騎士軍や騎馬部隊に蹂躙されていった。

「智将は自らの智に溺れるか…」
僕は古い格言を思い出しながら、自ら槍を振るって敵兵をなぎ倒していく。地面に血が飛び散り、死体が転がっていった。

「よし!この隙に背後を奇襲、分断するぞ!」
僕は指示を出し、僕たちは敵陣から離れた。そして今度は敵の背後に回り込み、奇襲を仕掛けたのだった。敵軍の指揮官ジュリアン・カレの姿は見えないが、彼もこの混乱の中で指揮を取っているのだろう。

数時間の激闘の末、敵軍は完全に分断された。やがて西側部隊が壊滅し、東側部隊も劣勢に追い込まれた。敵の動揺と撤退が始まると、僕たちは一気に攻勢をかけ、ついに敵軍は降伏、アルトベルグ城は無血開城となったのだった。

僕は安堵と勝利の余韻に浸りながら、部下たちに声をかけ、彼らの努力を称賛した。「この勝利は、君たち全員の力によるものだ。」

アルトベルグ城を落としたことで、テレルリンに向かう道が開け、次なる戦闘に向けての準備が整った。僕たちは来るべき最終決戦に勝利し、大陸統一を実現する決意を固めたのだった。

続く
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