遥かなる物語

うなぎ太郎

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最終章

動き出す運命

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大ザラリア王国との戦争は絶え間なく続き、スラーレン帝国軍は占領地域を広げていった。
ザラリアでは長引く大戦で厭戦気分が広がる中、戦局は我が帝国の有利に進み、帝都陥落の見通しもつくまでになった。

僕たちのボルフォーヌでの平和な生活は、暫く続いていた。しかし年が明け、再び僕が戦場へ向かうことになる可能性が高まった。最前線のルヴェモン渓谷で、帝国軍の兵士たちが包囲され、危機に陥っているという知らせが届いていたのだ。

「もしこの死線に送られれば、命は無いかも知れない。」
僕は書斎の椅子に腰掛け、新聞を読みながら言った。

「確かに、ルヴェモン渓谷での戦闘は熾烈を極めるでしょう。命を落とす危険性も十分にあります。」
ロジェが深刻な表情で応じる。

「そういえば今日は、あの人が来るんだったな。」
僕は新聞を畳みながら言った。
「はい、テルールからアンリが来る予定です。」

夕方、アンリは到着した。リシャール家の紋章の付いた馬車が屋敷の前に止まり、僕はアンリを応接間に迎えた。
「よし、皆揃ったようだな。今から重大な発表を行う。」
応接間の空気はぴんと張り詰めている。

ラファエル、ロジェ、ジョゼフ、クロード、アンリ、ジャンの前で、僕は口火を切った。
「旧ラミオス王国領に位置し、現在我が国とザラリアとの国境となっているルヴェモン渓谷で、激しい戦闘が続いている。我が帝国の勇猛な兵士たちが包囲され、危機的な状況に立たされているとの知らせがある。再び我々ベルタン軍に召集がかけられる時、ルヴェモン渓谷へ派遣される可能性がある。」

「そのため、皆には準備を進めるように頼む。」僕は続けた。「まず、兵士たちの訓練と物資の準備が急務だ。」

ラファエルが眉をひそめて言った。「そうは言っても、もしそのような戦場に出ることになれば、我々の命は危険にさらされるかもしれません」
「それはわかっている。」僕は頷いた。「しかし、皇帝陛下のご命令とあらば仕方がない。」

ロジェが冷静さを保とうとしているが、その顔には不安の色が浮かんでいた。「万が一、我々が戦場に送られた場合、どのように対処するつもりですか?」

僕は目を閉じて心を落ち着かせ、ゆっくりと目を開いた。
「大丈夫。僕たちは勝てる。」

僕の様子に、皆は不思議そうな顔をする。
「僕たちは今まで、何度も生死の境を彷徨った。ポリアーヌ、プレーヌ平原、サン=クレール、ペルシマール城の主塔、普通では生き残れないような戦場ばかり戦った。しかし、何故か分からないが、幸運の女神フォルトゥーナは僕たちに微笑む。僕たちは勝てる、必ず。」
僕は一気に言い切り、息をついた。

アンリが頷きながら口を開いた。「私はシャルル様の言葉を信じます。しかし、言葉だけでは心が落ち着かないこともある。具体的にどのような準備を進めるべきか、詳細に指示をお願いします。」

「分かった。」僕は頷いた。「まず各部隊、必要な物資や装備の確認を行い、補充の計画を立てること。ジョゼフの偵察部隊は敵の動向を追跡し、戦局に関する最新情報を提供すること。また、訓練は以前にも増して厳しく、実戦を想定した訓練を行うこと。」

「シャルル様、何があっても私があなたをお護りします。護衛騎士としての任務を全う致しします。」クロードが言った。

「我々が戦場に出る前に、できる限りの準備を整えましょう。」ロジェも意欲を見せて言った。「それが、我々の生還と勝利のための第一歩です。」

「その通りだ。」僕は微笑んだ。「心の中に恐怖があっても、それを乗り越えるために、全力で準備しよう。共に戦い、勝利を手に入れるために。」

それから僕たちは、再び戦争への備えを進めた。数日後、皇帝陛下から命令書が届いた。
「ベルタン軍並びにリシャール軍に置いては、ルヴェモン渓谷の帝国軍に救援に向かうよう命じる。」

「はぁ…まさか本当にルヴェモン渓谷に派遣されることになるとは…」僕はリビングルームのテーブルにコーヒーカップを置く。
「私は勝利を信じていますよ。シャルル様の言う通り、幸運の女神は私たちに微笑みます。」ジャンが笑って言うと、僕も少し自信を取り戻した。

戦場がルヴェモン渓谷であることは、家族には直前まで伝えないことにした。出発の日は2月上旬の日に決まり、訓練や準備が本格的に進められていた。アンリもテルール城に戻り、リシャール軍の訓練と準備を進めていた。

そして出発当日がやってきた。何度も目にしてきた、この町の広場にベルタン軍の旗がたなびく景色。
しかし今回は今までとは少し違う。命の保証されない、死線に旅立つのだから。

マリーとアルベール、母上、ジャン、フローランも僕を送りに広場に立っていた。
マリーの目には涙が浮かんでいるが、彼女は力強く微笑んでいた。アルベールが僕の手を引いて、「おとうさま、がんばってね!」と一生懸命に言った。その言葉に、僕は少しほっとした。

母上は、僕を見つめながら静かに言葉をかけてきた。「どうか無事に帰ってきてください。私たちの思いを胸に、どんな困難も乗り越えてください。」

ジャンとフローランも、忠実に僕のそばに立ち続けていた。ジャンは強い意志を込めた眼差しで言った。「シャルル様、貴方が不在の間、私たちが奥様とご子息様とお母上を支えます。安全に帰還されることを祈っております。」

「ありがとう、皆。」僕は深く頷き、家族一人ひとりにしっかりと目を合わせた。「皆の期待に応えられるよう、全力で戦ってくる。必ず戻ると約束しよう。」

旅路は長く、険しい道のりが待っていた。
道中の寒さと疲労が積もる中、僕たちはひたすら前進を続けた。

「ラファエル、包囲されている味方の大将は?」馬を進めている時、僕が尋ねた。
「包囲されているのはプチ子爵。シャルル様と同じ20歳だそうです」ラファエルが答えた。

僕は少し考え込んでから言った。「僕はもうとっくに、ベルタン家復興という目標を果たしてしまった。まだ20歳だと言うのに、人生の意味を見失っている。」

「シャルル様、あなたが復興を果たされたとはいえ、これからも多くの使命があります。」ラファエルが穏やかに言った。「ボルフォーヌをもっと発展させて、より豊かな生活を送りたいのでしょう?それに、領主セニュールとして領地を守る義務は変わりませんよ。常に上を目指すことだけが、幸せとは限りません。」

「そうだな。分かった。」
そうして僕たちは再び街道を進んでいった。

1週間半もかけ、ようやくルヴェモン渓谷に到着した。味方は包囲されており、宿営地も何も無い。近くの集落で補給を済ませ、渓谷へと向かう。

「…って、ここが戦場!?」

続く
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