遥かなる物語

うなぎ太郎

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第5章

疫病退治と帰還

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僕たちはペルシマール城を出発し、近隣のジタベテ村へと向かった。
僕たちは村に到着し、疫病が広がっている様子を目にした。村人たちは疫病に苦しみ、神に祈る姿が見られた。彼らは疫病の原因を「死神」と信じているようだった。

「ここからは危険です。聖魔法をかけ、マスクをして村へ入りましょう」オーバンが呪文を唱え、聖魔法をかけてから僕たちはマスクを着用し、村の中へと進んで行った。

村では疫病で死んだ者の死体があちこちに転がっていた。疫病の患者は小さな病院に集められており、病院の前を通りかかると患者たちのうめき声が聞こえて来た。医者や看護婦は看病に追われていた。

「まずは病院の責任者に話を聞こう。」僕は言った。「この状況を詳しく把握するために。」
フィリップが病院の中に入っていき、しばらくしてから病院の責任者である医者が出てきた。彼は疲れた顔をしていたが、僕たちを見て少し希望の表情を浮かべた。

「ようこそ。私たちはこの病気に対処するのに手一杯です。」医者は深い息をつきながら言った。「この病気は急速に広がり、連日多くの村人が感染しています。私たちは神に祈るだけでなく、様々な薬を使ったり、魔法使いを呼んで魔法を試してもらったりするのですが、状況は悪化する一方です。」

「我々が調査し、できる限りの援助を提供します。」アダンは真剣な表情で応じた。「まず、疫病の広がりや患者の症状について詳しく教えてください。」

医者はうなずきながら説明を始めた。「この病気の症状は高熱、咳、体の痛みで、やがて体力が奪われます。発病から数日で死亡するケースが多いです。また、何人かの患者は一時的に回復する兆しを見せたものの、再度悪化して亡くなってしまいます。これが死神の仕業だと信じられているのです。」

「この疫病が広がり始めたのはいつのことですか?」ピエールが尋ねた。
医者はしばらく考え込み、「疫病が広がり始めたのは約3週間前です。それまで村には異常はなく、突然感染が拡大し始めました。」と答えた。

「それでは、まずは疫病の原因を特定する必要があります。」僕は言った。「水源や空気が汚れていたり、誰かがこの村に呪いをかけた可能性も考えられます。」
「確かに。特に井戸の水源が怪しいですね。」医者は頷きながら言った。「私たちは井戸を調査し、清浄化する作業を進めましょう。」

ところが、井戸には何の異常も見つからなかった。また村の空気は特に汚染されておらず、村の長老たちに呪いの可能性について尋ねたが、最近魔女で告発された者はいないと言うことだった。

「これは困った…水も空気も呪いも無いか…」僕たちはその夜、宿で話していた。
「原因が分からないと余計に気味が悪い。いっそこの村から逃げ出したい気分だよ。」ピエールが言った。
「でもさ、ここから少し離れたアース村という所に、ロマンという名医がいるという噂だぜ?」フィリップが言った。

「ロマン?名医?」アダンが興味を示した。「名医と言われる医者なら、是非この村へ呼んで話を聞きたい。」
「なるほど、そうかもしれない。」僕は考え込んだ。「彼の助けを借りるのが最善かもしれない。」
「しかし、アース村までの道は険しいし、今の状態ではかなりの時間がかかるかもしれません。」オーバンが心配そうに言った。

「それでも、状況がこのまま続くのなら、早馬を送ってロマンを呼ぶ価値はあるかもしれない。」アダンはロマンを呼ぶことを決めた。

翌々日、ロマンがジタベテ村に到着した。彼は老医者で、色々な診察道具を持った大きなカバンを持っていた。
「ロマン殿、ぜひお願い致します。」僕は頼んだ。

「分かりました。まず疫病の原因についてお話しする必要がありますな。」ロマンは話し始めた。
「疫病は、基本的に、体の中に眼に見えないほど小さな虫が入ることで起きます。これは、私が発見したことです」
「「「えっ!?」」」

ロマンの言葉に、僕たちは驚きの声を上げた。彼の説明は常識からはかけ離れたものだったが、その真剣な表情から彼の確信を感じ取ることができた。

「その虫とは一体どのようなものですか?」僕は尋ねた。
ロマンは少し間を置いてから答えた。「それは私が「細菌」と呼んでいるものですが、肉眼では見えませんが、人間や動物の体内に入り込んで病気を引き起こします。様々な種類があり、それらを見るために使う道具、それがこの顕微鏡です」

ロマンは大きなカバンから、不思議な造りの道具を取り出した。
「これが顕微鏡です。」ロマンは説明を始めた。「細菌を観察するためのもので、通常の目では見えない小さな細菌を拡大して見ることができます。」
「その顕微鏡を使って、この疫病の原因を調べるわけですね。」アダンが理解を示した。

ロマンは顕微鏡を慎重に設置し、いくつかのサンプルを用意した。まずは井戸の水から採取したサンプルを顕微鏡にかけ、じっくりと観察を始めた。数分後、彼の顔に興奮の色が浮かび上がった。
「見てください。」ロマンは僕たちに向けて言った。「これが病気の原因となる細菌です。ここに見える小さな動く点が、まさにこれです。」

覗き込んでみると、確かに小さな点が動いているのが分かった。これが疫病を引き起こしている原因だと考えられるものだ。
「この細菌が体内に入ることで、病気が発症し、急速に広がるのです。」ロマンは続けた。「この細菌は井戸の水から見つかっています。つまり、井戸の水が汚染されているのです。」

「それではやはり、井戸の水をどうにかしないといけませんね。」僕は言った。「でも、この細菌をどうやって取り除くのでしょう?」

ロマンはカバンから特別な薬品を取り出し、説明を始めた。「この薬品は、薬草の成分を抽出したもので、細菌を殺すために用いるものです。井戸に撒いて消毒することで、病気の拡大を防ぐことができます。」

「既に感染した者についてはどうすれば良いですか?」ピエールが聞く。
ロマンは少し考え込み、答えた。「感染した者については、まず頭を冷やし、熱を下げることが必要です。また、この薬を少し薄め、水に混ぜて患者に飲ませると、少しずつ回復していきます。」

ロマンはカバンから別の薬を取り出した。「この薬はペニシリンと名付けたものですが、青カビから取り出したもので、いくつかの細菌に対し効果を確認しています。」
青カビと聞き、全員が不安を隠せなかった。「青カビだって!?先生、ちょっと待ってください!」ピエールが慌てた。

ロマンは説明した。「青カビから作られたペニシリンに対する不安は理解できます。しかし、私はこれを用いた治療を何度も行っており、確かな効果が確認されています。もちろん、どんな薬にも副作用があるため、使用に際しては慎重に行います。」

村人たちの反応は様々で、最初は不安が広がったが、ロマンの説明と治療により次第に安心感が増していった。ペニシリンによって患者の多くは症状が改善し、村の人々は希望を取り戻し始めた。数日後、村の患者たちの状態は目に見えて良くなり、井戸の水も清浄化され、新たな患者は出なくなった。

「ロマン殿、貴方の助けに心から感謝します。」僕は改めて感謝の言葉を述べた。
「皆さんの協力と努力もあって、村が救われました。」ロマンは微笑みながら答えた。「今後も、何かあればいつでも力をお貸します。」

こうして疫病が鎮圧され、帝都に早馬で報告がなされると、正式に僕たちに帰還の許可が出た。
帰還の準備が整った僕たちは、ジタベテ村の住人たちに別れを告げた。村人たちは感謝の意を示し、皆で手を振って見送ってくれた。ロマンの助けによって村は救われ、彼の名声はさらに高まった。

僕たちは再び赤道を縦断し、南半球へやって来た。
「ここで皆お別れだな。」アダンが言った。
「そうだね。」僕は頷きながら応じた。「ここから皆それぞれの故郷へ帰る。大陸統一が成ったら、また会おう。」

僕はラファエルとクロードを連れ、ボルフォーヌへの街道筋を進んでいった。
やがて景色は高原地帯へと移り、ボルフォーヌの山々が僕たちの目に映った。そしてボルフォーヌの小さな町が見えてきた。心の中で安堵の気持ちが広がる。

懐かしい我が家の門に到着し、アルベールを抱いたマリーが涙ながらに僕たちを出迎え、母上やジャン、フローランも元気な姿を見せた。ルネやイザークは帝都の学校にいるが、家族の温かさに包まれ、再び故郷に戻ることができたことを実感した。

マリーは涙を拭いながらも、笑顔で僕たちを迎えてくれた。「あなたが無事に帰ってきて、本当に安心したわ。アルベールも成長したわよ。」
僕はアルベールの小さな手を取った。「ありがとう、マリー。ありがとう、アルベール。長い間心配をかけたね。」

「おかえりなさい。」母上が温かい言葉で迎えてくれた。「無事に帰ってきてくれて、本当に良かった。」
「ありがとうございます、母上。」

僕たちはリビングルームへ向かった。新棟が出来てからすぐに戦場へ向かったため、新しい家にやって来たような不思議な感覚だったが、家族と再び一緒に過ごせることに胸がいっぱいだった。
僕たちは暖炉の前に集まり、平穏な時間を過ごした。

「ジャン、収穫はどうだった?」僕は尋ねた。
「今年の収穫は順調でしたよ。」ジャンが微笑んで答えた。「特に大麦と野菜が豊作でした。」
「それは良かった。」僕は安心して頷いた。「家族みんなが元気で、こうして一緒にいられることが何より嬉しい。」

夕日が沈むと、僕は家族と共に温かな食事を囲みながら、戦場での冒険や魔法研究会、ジタベテ村での出来事を語り合った。
安心感と充実感に包まれたこの瞬間を、僕は待ち望んでいた。

続く
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