遥かなる物語

うなぎ太郎

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第5章

ひとまずは

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明け方が近づく中、サン=クレール市の城壁上には、ベルタン軍の兵士たちが緊張した面持ちで待機していた。反撃の計画が成功するかどうかが、もはや運命の分かれ目となっていた。空が淡く明るみ始めると同時に、僕たちは作戦を開始するための準備を整えた。

敵軍の攻撃が再開され、西側の城壁に再び攻城櫓が迫って来た。
すると、予め待機していたベルタン軍部隊が動き出し、騎士や傭兵たちが攻城櫓に乗り込んでいった。彼らは手にした剣や槍で櫓内の敵兵と激しい戦闘を繰り広げた。

一方、南門では敵の破城槌が何度も打ち込まれ、門は崩壊の危機に瀕していた。
僕が門の上へ行ってみると、かなり緊迫した雰囲気だった。

「まずい、このままじゃ敵に入られちまう!」ラファエルが叫んでいた。
「落ち着け、どうする?このままだと南門が完全に崩壊する!」僕はラファエルに問いかけた。

南門では破城槌がさらに激しく叩きつけられ、門の耐久力が限界に達していた。門の周囲には敵の突撃部隊が押し寄せ、城壁内の兵士たちが必死に防御を固めていた。

「とりあえず東側の舞台に援軍を要請して来ます!」ラファエルが怒鳴る。
「分かった!それまでは門を補修しながら防衛に徹するしか無いな!」

「援軍が来るまで持ちこたえろ!」僕は叫びながら、門の防御を強化するための作業に参加した。破城槌の打撃に耐えながら、少しずつでも敵の進撃を食い止めることが最優先だった。
さらに破城槌を持った兵士たちを狙って矢の雨を浴びせ、何とか敵による門の打破を防いでいた。

しかし、門は既にボロボロになっており、いくら補修してもそろそろ限界だ。しかし南門が崩壊すれば敵軍は市内へなだれ込む。市の中心部の城は大した持久力も無い、これで万事休すかと思ったその時ー

遠くの地平線から大きな音が響き渡った。砲撃音のような爆発音が、南門の混乱した戦場に深く響き渡り、敵軍の動きが一瞬止まった。
「何だ、あれは?」僕は驚きながら市内の奥の方を見た。

ラファエルが息を切らしながら戻ってきた。「東側の援軍が到着しました!ただ、予想外の状況で、カタパルトで砲撃を加えてくれています。」

敵軍が動揺し始め、破城槌の打撃が一瞬だけ弱まったその隙に、僕たちは門の補修作業をさらに加速させた。カタパルトを撃ち続け、矢の雨を降らせ続け、敵の突撃部隊を撃退するために全力を尽くした。

さらに、ラファエルが「敵の攻撃が乱れている。今が反撃のチャンスだ!」と叫んだ。僕たちは守備から一気に攻撃へ転じる。
「援軍を門の手前で待機させろ!門を開けるから、逆に敵を粉砕してやるのだー!」僕が叫ぶと、兵士たちは指示を受け、迅速に動き出した。門が少しずつ開かれると、援軍はその隙間から一斉に外へ出て行き、敵部隊に向かって突撃を開始した。

南門の周囲で戦っていた兵士たちも、援軍の到着を見て、力強い反撃を開始した。次第に敵軍は混乱し始め、カタパルトが連続して砲撃を加えることで、敵軍の戦線が大きく崩れた。
飛んでくる大岩と爆風が敵の軍勢に混乱をもたらし、彼らの攻撃の勢いが削がれていく。援軍の騎兵や歩兵たちはその隙間を狙って敵の陣地に突入し、果敢に猛攻を仕掛けていった。

最終的に敵軍の陣地は崩壊し、ザラリア軍の部隊は攻撃を継続出来なくなり、撤退していった。
僕たちは兵力では遥かに大きい敵を打ちのめしたのだった。

既に日が翳り、一日が終わろうとしている。
朝から始まった戦闘だったが、気付けば終わった時には夕方になっていた。

夕日が戦場を照らす中、サン=クレール市の城壁上には疲労困憊の兵士たちがホッとした表情で立っていた。敵の撤退が確認され、ようやく一息つける状況になった。

「皆、お疲れ様。皆、本当に頑張った。」僕たちは傷だらけながらも、互いの努力を讃え合い、勝利を祝った。
「朝から何も食ってないから、腹減ったな。」僕は言った。
「本当に。まずは食事ですね。」ラファエルが疲れた表情で応じた。

城内の食堂へ戻り、僕たちは飢えた野犬のように食事に食らいついた。戦場での食事は保存食中心で質素だが、皆で食べていればそれも気にならない。
大きなテーブルには、パンやスープ、干し肉が並べられており、僕は一般の兵士たちに混じって食事を楽しんだ。

「今日の戦闘はすごかったな。お前、どうだった?」僕は隣に座っていた若い兵士に声をかけた。
「はい、物凄い戦闘でした。南門にいて、最初はどうなるかと思いましたが、援軍が来てからは希望が見えました。」兵士は、まだ戦闘の興奮と疲労が入り混じった表情で答える。

「援軍が来るまでは本当に危なかった。特に南門の防衛がぎりぎりだったからな。」僕は思い返しながら言った。「でも、皆の頑張りで乗り越えられた。お前もよく戦った。」
「ありがとうございます。皆で力を合わせたおかげです。」兵士はにっこりと笑った。

クロードがテーブルに来て、僕の隣に座った。「少し落ち着きましたね、これでしばらくは休めるでしょう。」
「そうだな。」僕は頷いた。「でも、まだしばらくは警戒が必要だ。敵が再度攻撃を仕掛けてくる可能性もあるから。」

「そうですね」ラファエルは、真剣な表情で頷いた。「でも、今日は少しだけでもゆっくりしましょう。シャルル様もお疲れでしょう、お部屋へ戻ってお休みになってください。」
「ありがとう、それじゃあ戻らせてもらうよ」

僕は部屋へ戻り、疲れ切った体をベッドに横たわらせた。あまりの疲労で、ベッドの柔らかさが心地よく感じられる。体は限界を迎えていたが、精神的には安堵感が広がっていた。サン=クレール市は守られたし、何より仲間たちが無事であることが嬉しかった。

扉が開き、ロジェが顔を覗かせた。「シャルル様、少しお伺いしたいことがあります。よろしいでしょうか?」
「もちろん、大丈夫だ。」僕は座り直し、ラファエルを見上げた。

ラファエルは一歩部屋に入り、真剣な表情で話し始めた。「戦闘が終わった後、敵の撤退が確認されましたが、数十名の捕虜がいます。彼らの取り扱いについて、どのように対処すべきかご指示いただけますでしょうか?」

「捕虜か…」僕は考え込んだ。「まずは彼らを安全な場所に拘束し、できる限り敵の情報を聞き出すこと。ただし虐待や拷問はしてはならないし、水や食事は与え、負傷しているなら治療してくれ。」
「了解しました。」ラファエルは頷き、「それでは、お休みなさい。」敬礼して部屋を出ていった。

翌朝、僕は今後について話し合うべく、会議室へと向かった。
「ラファエル、ロジェ、ジョゼフ、クロード、君たちに聞きたい。今後我々はどう行動するべきか?」僕は問いかけた。
「皇帝陛下からの指示はあるのでしょうか?」ラファエルが尋ねた。

「皇帝陛下からの指示はまだ届いていない。」僕は答えた。「ただ、まずは防衛線を再構築し、城壁の修復作業を急がなければならない。また、負傷した兵士たちの治療も行う必要がある。他家の軍がやって来るまでは、我々がこの市に駐在する必要があるだろう。」

ロジェが地図を指差しながら言った。「他家の軍が来たら、我々は10セルタ東の、このテルール城を攻略に向かってはいかがでしょうか?」
「テルール城が落ちれば、この地域の制圧が進む。」僕は答えた。「しかし、敵の反撃も予想されるので、補給や兵力の面で万全を期す必要があるな。」

「では、負傷兵の治療が最優先です。」ジョゼフが言った。「彼らの回復が戦力の回復にも直結します。」
「その通りだ。」僕は同意した。
「では、テルール城攻略の計画にかかるとしよう。今のうちに城の修復や兵士の治療に励むことが重要だ。」僕がまとめ、会議は終了した。

そして8月に入り、皇帝陛下から命令書が届いた。「デュポン子爵の軍がサン=クレール市の守備を替わる。ベルタン侯爵にはテルール城攻略へ向かうよう命ずる」

続く
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