遥かなる物語

うなぎ太郎

文字の大きさ
上 下
27 / 53
第4章

動く、動く、とにかく動く

しおりを挟む
馬車が帝都に到着し、僕たちは一夜を過ごす宿屋へと向かった。
「今回泊まる宿は初めてですね」ロジェが言った。
「僕は一人で泊まったことはあるけどね。まあまあ良い宿だよ」僕は答えた。

「あー疲れたー」僕は部屋に着くとベッドに寝転んだ。
「シャルル様がダラけているの初めてみました…」ラファエルが言った。
「まぁ皆信頼出来る人しかいないから、威厳とかそういう事あまり気にしないしね。」

クロードが静かに部屋を見回しながら、「この部屋、質素ですが意外と快適そうですね。明日の作戦に向けて、少しでもリラックスしておくべきです」と言った。

僕はクロードの言葉にうなずき、少し体を伸ばしてから立ち上がり、部屋の窓から外の景色を眺めた。最上階である3階のこの部屋からは帝都の夜景を見ることが出来、遠くには王城のシルエットが暗く浮かんでいた。明日には全てが動く。そのために、僕たちは体調を整えておかなければならない。

翌朝、僕たちは偽の証拠を持って王城へ参上した。
謁見の間に到着すると、皇帝陛下は玉座に座り、僕たちを待っていた。

僕は心を落ち着け、持参した証拠を取り出した。
「陛下、本日お持ちした証拠は、ベルトラン侯爵とモレル侯爵が国家に対して反逆の計画を立てていることを示すものです」と僕は言いながら、偽造した手紙の束を差し出した。

皇帝陛下はそれを受け取ると、じっと手紙の字面を見つめ内容を確認していた。
「これは…確かに重大な内容だ」と皇帝陛下がつぶやいた。「しかし、証拠が本物であると確認するには、時間がかかるかもしれない。まずは調査を行う必要があるだろう。」

「その通りです、陛下。証拠の真偽が確認されるまでは、私たちが協力し続けることをお約束します」と僕は答えた。
皇帝陛下は頷き、「そうだな、2人を呼び出し、取り調べを行おう」と言った。

その後、僕たちは王城を後にし、宿へと戻る道を進んだ。帰り道では、一層緊張感が増していた。計画が成功するかどうかは、皇帝陛下の判断と調査にかかっている。

帝都に近い領地にいる2人は、翌日の夕方には帝都に到着し、身柄を拘束された。
「シャルル様、ベルトラン侯爵は容疑を否認していますが、モレル侯爵は完全黙秘を貫いているため、塔の牢屋で拷問が行われる予定だそうです」ロジェが言った。

「拷問の結果がどうなるかによって、計画の進行も変わるかもしれません」とクロードが言った。「モレル侯爵が何かを口にするかどうか、またはベルトラン侯爵がどう反応するか、しっかりと確認しておくべきです。」
「それはその通りだ、全て計画通りに進むとは限らない。他の貴族達からも、讒言の手紙を早めに送ってもらおう。」僕は答えた。

翌日謁見の間に到着すると、陛下は調査の進捗について説明を始めた。
「モレル侯爵は沈黙を貫いており、拷問の結果も彼の反逆の証拠を引き出すには至っていない」と皇帝陛下は告げた。「一方、ベルトラン侯爵は容疑を否認しているが、彼の証言は完全に信頼できるものではない。私たちは引き続き調査を続ける必要がある。」
「了解しました、陛下。私たちはさらに協力し、調査の進展に応じて対応を進めていきます」と僕は答えた。

「これは困ったな…拷問しても何も語らないとは…」宿の部屋で僕は言った。
「滞在も想定以上に長くなりそうですね。ボルフォーヌの家族に手紙を書いておきましょう」ラファエルが言った。

しかし翌日には事は一気に動いた。
モレル侯爵が拷問に耐え切れず罪を認め、ベルトラン侯爵が否認を続けるという、2人の証言に矛盾が生まれた状態となったのだ。

「これで一気にこちらに有利になったな」僕は言った。
「はい、これでモレル侯爵が罪を認めたことで、ベルトラン侯爵の否認が一層疑わしくなりました。証拠が整い次第、有罪判決が下されるものと思われます」クロードが言った。

その後、調査が続けられ、証拠が次々と確定されていった。他のルロワ派の貴族達の讒言の効果もあり、2人の領地で反逆の準備が進められていたという認識が広がっていった。
数日後、皇帝陛下はついに決定を下した。謁見の間に貴族たちは集められ、陛下は厳粛な雰囲気で告げた。

「皆の者に伝えたい事がある。ベルトラン侯爵とモレル侯爵について、国家に対し反逆を計画していたことが判明した。よってベルトラン侯爵は処刑、モレル侯爵には毒で自害を命じる。」
貴族たちの間にどよめきが広がった。

「双方とも家の存続は許すが、ベルトラン侯爵領は西部を、モレル侯爵領は南部を没収とする。それぞれの子息については、侯爵から位を下げ子爵とする。」

皇帝陛下の発表後、貴族たちは一様に驚きと不安の表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻し、陛下の決定を受け入れる姿勢を見せた。僕たちはその様子を黙って見守りながら、自分たちの計画が順調に進んでいることを確認した。

その場にいたモレル侯爵の子息は、今にも泣きそうな顔で皇帝陛下の言葉を聞いていた。
その姿を見て僕は胸が張り裂けそうになった。
僕は一体何の為にこんな事をしたのか…?それもベルタン家を守るため。仕方のないことだと自分に言い聞かせた。

その後ベルトラン侯爵は公開処刑され、モレル侯爵も牢屋の中で毒杯を仰ぎ、自害した。
これによりモレル派は事実上崩壊し、ルロワ派は安定した地位を手に入れた。

一方、大陸の反対側でも大きな動きが起こっていた。
我がスラーレン帝国に次ぐ大国である大ザラリア王国が、周りの国々を次々と侵略し、併合していったのだ。
これにより、この世界にはスラーレンとザラリア以外の国は無くなった。
いずれ、2カ国は戦争を起こす事は間違いなかった。

帝都の政治的な混乱が収束する中、僕たちは動き続ける世界の中で、大きな岐路に立たされていた。
世間では大ザラリア王国との友好関係の構築を求める声で満ちていた。2カ国間の緊張を解し、世界大戦の勃発を阻止しようとしていたのだ。

しかし、僕は別の考えを持っていた。それが大陸統一。数百年の昔、急速に勢いを増していたのがボワポール公国だった。2年前、我が国に戦いを挑んだ3ヶ国連合のうちの一つだ。ボワポール公国は大陸のすべての国を滅ぼし、世界の統一を企んだ。

だが複数の国を同時に敵に回したボワポール公国は領土の大部分を失い、それらはスラーレン帝国に奪われた。
そうして成立したのが「十八国体制」だった。
しかしランドーム王国が我が国に対し仕掛けた戦を皮切りに、あっけなくその体制は崩れた。
今や十八国体制など、その影も形もない。

今では大陸を支配する秩序は昔と明らかに違う。開戦しても、我が国には勝てるだけの国力はある。
ボワポール公国が犯した愚を一番知っているはずのスラーレンが、再び同じ歴史を繰り返すのか。戦争に次ぐ戦争で、帝国は疲弊しているんだ。そういった意見があるのは良く分かっている。

しかし、逆にたった2年で大陸の半分を統一した国など、歴史上に例が無い。そして、官民一体となって富国強兵に取り組んできたお陰で、帝都から地方まで、直轄領から男爵領まで、国力は全く疲弊していない。
皇帝陛下にはどうか開戦を決断して欲しいものだ。

そして年が明け2月、皇帝陛下から手紙が届いた。
「君達信頼のおける貴族しか呼んでいない。王城へ来い、重大な発表をする」

続く
しおりを挟む
★★いいねとお気に入り登録をよろしくお願いします!それと、感想を頂ければ非常に嬉しいです!☆☆
◯◯第17回ファンタジー小説大賞に応募しております!●●
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...