遥かなる物語

第4章

流浪の士

ボルフォーヌに帰還した後、ベルトラン侯爵に対する陰謀を、僕は考え続けていた。
しかし、僕はどうしても良い方法が思い付かず、悶々としていた。それには正当な理由が見出せなかったためという事情もある。フォール伯爵は父上を苦しめた人。しかしベルトラン侯爵はモレル派に属しているというだけ、ベルタン家とは何の関係もない人だ。

ある日、僕は領地の仕事を片付けた後、自分の部屋でコーヒーを啜っていた。
すると、そこへジャンがやって来た。
「シャルル様、お寛ぎの所申し訳ありませんが…あなたは護衛騎士が欲しくはありませんか？」
「な、何だ、急にどうした！？」

僕は言った。「確かに僕には護衛騎士がいない。しかしそれは僕と関係の深い騎士がいないという、ただそれだけだ。警備の兵士ならたくさんいる。とは言え確かに、ヴァロンでの出来事もあったし…だが、適当な騎士がいるのか？」

「それが、いるのです。それがクロード・ルソーという男です。彼は元々大ザラリア王国の騎士でしたが、無実の罪で家族を全員殺され、自分は何とか脱出して今は諸国を流浪しているという事です。」
「ほう、なるほど…ではそのクロードという男に会ってみるか」
「分かりました。クロードを呼んで参りますので、応接間へいらしてください」

クロードが応接間に現れた。彼はザラリア人の特徴である黒髪で、筋肉隆々の体つきが騎士らしさを感じさせた。
「クロード・ルソー、という名でございます。ご挨拶申し上げます、ベルタン侯爵。」クロードは深々と頭を下げ、礼をした。

僕はクロードをじっと見つめ、その物静かながらも力強い雰囲気に少し感心していた。「クロード、君の経歴をジャンから聞いたよ。大ザラリア王国の騎士だったんだね。」

クロードは重々しくうなずきながら、口を開いた。「はい、ベルタン侯爵。かつての栄光は今や過去のものですが、剣と騎士としての道だけは大切にしております。」

僕は彼の答えに少し考え込んだ後、再び話を続けた。「クロード、君には私の護衛騎士としての資質があるとジャンが言っている。しかし、私は君の実際の腕前を知りたい。」

僕たちは庭へ出て、互いに剣を抜いた。その瞬間、庭の雰囲気が緊張感に包まれた。
僕は少しの間、クロードの動きを見つめた後、攻撃の準備を整えた。クロードもまた、慎重に僕の動きを読み取りながら、身構えた。

そして、僕たちの間に静寂が広がる中、クロードの一撃が始まった。剣が空気を切り裂き、部屋に響く音が鋭く響いた。
僕は瞬時に反応し、その攻撃をかわした。そして、クロードに向かって反撃を開始した。僕たちは激しい剣戟を繰り広げた。鞘をつけたまま戦っているため、実際に切れることはない。数分後、僕は剣を振り下ろし、停止の合図を送った。

「よし、クロード。君の実力、そして君の騎士としての資質は私には十分に伝わった。私は君に対して信頼を置くことにする。私の護衛騎士として、仕えてくれるか？」僕は真剣な表情でクロードを見つめた。

彼は一瞬驚いたような表情を見せた後、深く頭を下げた。「光栄です、ベルタン侯爵。誠心誠意、お仕え申し上げます。」
僕は彼が頼もしい護衛騎士となるだろうと確信した。

数日後、僕は再びベルトラン侯爵に対する陰謀を考えていた。彼を陥れるにはどうすれば良いのか、無実の罪を着せる、モレル派の他の貴族達との仲を裂く、様々な方法を考えた。

最終的に僕は計画を立てた。彼に対して無実の罪を着せるという策略だ。このためには、巧妙な情報操作と証拠の捏造が欠かせない。これによって、侯爵を失脚させ、処刑や幽閉に追い込むことができる。

僕はジャン、フローラン、ラファエル、ロジェ、ジョゼフ、クロードを応接間に呼び出し、計画の説明を行った。
家族には黙っている事にした。反対する事が目に見えているからだ。

「ベルトラン侯爵に国家反逆罪の罪状を着せ、処刑させようと思う。その為にルロワ派の他の貴族達を通じて讒言を繰り返し、さらに証拠を捏造する必要がある。」僕は言った。

すると、「シャルル様、ベルトラン侯爵だけでなくモレル侯爵もまとめて葬ってしまってはいかがでしょう？同じ派閥の貴族の共謀とすれば信憑性も増しますし、これでモレル派を完全に潰す事ができます」ラファエルが言った。
「その提案はなかなか巧妙だな、ラファエル。確かに彼らの影響力を一挙に排除できる機会かもしれない」僕は言った。

「ですか、具体的にどのような証拠を捏造すれば良いでしょうか？」ジャンが言った。
「その点については、モレル侯爵とベルトラン侯爵との間の手紙を偽造し、反逆の計画がなされている証拠として皇帝陛下に渡す必要があるだろう。」と僕は答えた。

「この計画において、我々は完全に冷酷とならなければならない。しかしこれもベルタン家の地位を安定させるため。モレル派が存在する限り、ルロワ派に属する我々の立場は常に危うい」僕はそう述べて皆を解散させた。

その後僕はルロワ派の他の貴族達に協力を呼びかける手紙を書いた。万が一モレル派の貴族に奪われたら一貫のお終いなので、クロード始め騎士達に運ばせた。

また、ベルトラン侯爵とモレル侯爵との手紙の偽造を開始した。印鑑も本物そっくりに偽造しなければならない。そこでルロワ侯爵から、ベルトラン侯爵からの手紙を見せて貰い、ベルトラン家の印章を精巧に偽造した。

計画は着実に進行し、他の貴族達の讒言と共に、皇帝陛下に証拠を提出するという目標に向け全員が協力して動いていた。また僕は生まれつき嘘をつけのが苦手だったので、ジャンやフローランと一緒に嘘をつく練習を行っていた。

「シャルル様は嘘をつく時、微妙ですが眉がピクピクします。そこを意識して直すことは出来るでしょうか？」ジャンが言った。
「確かに、その癖は直した方が良いかもしれないな」と僕はジャンのアドバイスに頷いた。嘘をつくことが必要な場面では、細かな仕草や表情のコントロールも重要だ。

フローランも加わり、「シャルル様、嘘をつく時に声のトーンも少し変わります。それを調整すると、より自然に聞こえるかもしれません」と提案した。
「確かに、声のトーンも大切だね。うまく騙せるように、声のコントロールも練習しておこう」と僕は答えた。

そしてついに、いくつかの手紙の捏造と、偽の証言者の用意、そして他の貴族達からの讒言の用意が整った。
ルロワ侯爵やモロー侯爵、シモン伯爵らは皇帝陛下に対し、ベルトラン侯爵とモレル侯爵が不穏な動きを見せているとの讒言の手紙を送った。

そして僕は皇帝陛下に偽の証拠を提出する為、王城へと向かった。
出発の朝、マリーが僕に尋ねてきた。「シャルル、どうして王城へ行くの？」
「マリー、実は僕はモレル侯爵とベルトラン侯爵に対して、無実の罪を着せる計画なんだ」僕は告げた。

マリーは口を開こうとしたが、言葉が詰まっているようだった。しばらくして、「でも、それは…本当に必要なの？」と小さな声で問いかけた。
「マリー、これは家族の未来のため。モレル派が力を持ち続ける限り、僕たちの安全は保障されない。」

彼女は深く考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。「わかったわ、シャルル。私はあなたを信じるわ。でも、どうか…どうか、その計画が無事に進むことを祈ってるわ。」
僕は微笑んで言った。「ありがとう、マリー。」

馬車が動き出し、僕はラファエル、ロジェ、クロードと共に帝都への道を進み始めた。

続く