遥かなる物語

うなぎ太郎

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第4章

新たな領地

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高原の冬はすぐそこまで迫っていた。
大雪になれば、街道は雪に埋もれ、簡単に使えなくなってしまう。
だから秋の内に、僕は新たな領地、ヴァロンへ視察に行くことにした。

馬車に揺られながら、ポリアーヌやアンティロを通り、旧ラロニア北西部のヴァロン地域へやって来た。ヴァロンの町はボルフォーヌとそれ程規模は変わりないが、ヴァロンの方が若干大きかった。

と、ここまでは順調に進んでいたが、ヴァロンの町の門をくぐった途端思いがけないことが起こった。
「俺たちの祖国を滅ぼしやがった悪党め!」
「俺の領主様を返せ!」
町の人々が僕に向かって石を投げてきたのだ。

僕は驚きと混乱の中で馬車から飛び降り、手を広げて町の人々に向かって説明を試みた。「待て、皆聞いてくれ!私は侯爵として、この地を訪れたのは平和と発展のためです!」

しかし、怒り狂った人々は僕の言葉を聞く余裕もなく、さらに激しく攻撃を続けた。石が飛び交い、一部の者たちは木の棒や鎖を持ち出して襲い掛かってきた。
「このえせ侯爵めが!」
「我々の故郷を侵略するつもりか!」

「やめなさい!!」
護衛の兵士たちが僕の前に立ち塞がり、僕を守ってくれた。
とは言えここは旧敵国の町、周り中から僕を罵る声が聞こえ、石が飛んでくる。
どうしようかと八方塞がりのその時、街道沿いの家から出てきた一人の老人が声を上げた。

「待て、皆!この侯爵に何の証拠もないまま攻撃してどうする!」老人の声が町の中に響き渡り、一瞬の間、攻撃が止んだ。彼は町の人々に対して手を挙げ、静粛を求めた。

「侯爵殿、なぜここに来たのですか?我々に何か言いたいことがあるのですか?」と老人は僕に尋ねた。僕は深呼吸をして、思いつく限りの言葉で町の人々に向けて話を始めた。

「皆さん、前にここにいた領主殿は非常に立派な方だったと聞いております。そしてその方は戦いで勇敢に亡くなったということでした。領主殿はどのようなお気持ちで戦ったのでしょう?それはもちろん領民である皆さんを、この国を守るため。そして僕もその思いでこの戦争を戦い抜いたのです。立場は違えどもその思いは同じです。」

老人はじっと僕の言葉を聞いてから、周囲の人々に向かって話し始めた。「君たち、少し冷静になって彼の言葉を聞こう。侯爵殿の目的は平和だという。我々も彼の言葉を聞いてみるべきだ。」

町の人々の中にはまだ敵意を露わにする者もいたが、老人の言葉が少しずつ響き始めた。誰もが怒りの感情を少し引き下げ、僕の話に耳を傾け始めた。

「私たちは皆、この地の発展を望んでいます。私が来たのは、あなた方の利益のためです。どうか私の言葉を信じてください。」
次第に石を投げる手が止まり、攻撃的な空気も和らいできた。老人と僕の言葉が町の中で広がり、少しずつ人々の心に響いていくのが分かった。

人々の心が少しずつ静まりつつある中、僕は再度話を続けた。

「私の目的は、過去の敵意を乗り越え、皆さんと共に新たな未来を築くことです。この地域の発展と繁栄を目指し、皆さんの意見や願いを大切にしたいと思っています。戦争の傷跡を癒し、平和な共存を築くために、私たちは一緒に努力しなければなりません。どうか、私の言葉を真剣に考えてください。私はこれからヴァロン城へ行きます」

僕は馬車に乗り込み、ヴァロン城へ向かった。
馬車が城門に近づくと、城壁の上からは城内の警備兵たちが僕たちに向かって敬礼した。城門の前で馬車が停まると、護衛兵たちが先に進み、僕を守りながら城内に入った。

広間に入ると、天井は高く、大きなシャンデリアが豪華に装飾されていた。壁には豪華な絵画や古い紋章が掲げられ、歴代の城主たちの肖像画も見ることができた。広間の奥には、城主の席である木製の椅子があり、そこに僕は着席した。

少し経つと、広間には町の長老たちや重要な役職を担う人々がやってきた。彼らは威厳を持って着席し、厳粛な雰囲気が広がった。長老たちの中には、先程町の人々を静めた老人もおり、彼の存在が安堵と信頼をもたらしていた。

僕は彼らに対して、再度、ここに来た目的と意図を述べた。

「皆さん、私の目的はただ一つです。過去の争いを超えて、この地域全体の発展と平和を築くことです。私は侯爵として、またこの地域の領主として、皆さんの声を聞き、共に新たな未来を創り上げたいと考えています。戦争で亡くなった領主殿の想いも、私が持っている想いと同じです。故郷を愛し、その未来を守るために戦ったのです。」

長老の一人が重々しく頷きながら言葉を続けた。「領主様、我々は過去の傷を抱えており、そのことが今回の反応につながったかもしれません。しかし、あなたの言葉には真摯な意図が感じられます。我々は戦後間もないこの時期、未来に向けての希望を失いかけています。どうか、あなたの約束が本当であることを示してください。」

その後、僕たちは対話を続け、戦争で荒廃した農地の復興や、ギルドに対する税を軽減して商店街を発展させることを決めた。
長老たちとの会議は、和やかで建設的なものとなった。彼らの理解と協力が得られたことで、町の人々との関係が改善し、僕の領地統治における第一歩が確かなものとなったのだった。

会議後、僕は付いてきたジャンとお茶を飲みながら話していた。
「ジャン、この城は本当に立派で美しいね。町の人々は過去の傷を抱えているようだけど、これから少しずつ信頼関係を築いていけると思う。」

ジャンは微笑みながら頷いた。「はい、シャルル様。町の人々は確かに難しい状況に置かれていますが、シャルル様の誠実さとお考えに、必ずや理解してくれる日が来るでしょう。いつかこの地が第2の故郷と言える日が来ると思います。」
「第2の故郷か。そうだな。」僕は笑って頷いた。

その日は町の商店街を視察したり、城の中を見て回ったりして過ごした。町の人々とも次第に雑談を交わしたり良好な関係になり、ようやく僕を新たな領主セニュールと認めてくれたように思えた。その日は城に泊まり、翌朝再びボルフォーヌに向けて出発した。

ヴァロンの町の人々との出会いが、僕にとって大きな教訓となった。過去の歴史や敵対関係を超え、誠実さと理解が未来を築く鍵であることを痛感した。

馬車は静かな草原地帯を通り過ぎ、ボルフォーヌへと進んでいった。

続く
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