遥かなる物語

うなぎ太郎

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第1章

鍛錬と決意、そして帰還

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翌日、鶏の鳴き声と共に僕は目を覚ました。帝都にいた時より、爽快な目覚めな気がする。

朝食を食べ終わると、父上が言った。「シャルル、今日は私が剣術の稽古をつけてやろう!思いっ切りかかって来い!」父上の誘いに心が躍る。僕たちは庭に出て、父上が熟練の剣士としての技を教えてくれた。

「よし、これでかかって来い!」父上が言うと、僕は慎重に歩みを進めた。剣を構え、一瞬で振り上げて振り下ろそうとした、その時だった。父上の剣が、僕の右腕を、綺麗に削ぐ様に滑った。模造だから実際に切れることはないが、本物なら僕は間違えなく息絶えていただろう。

その後僕は次々に父上に負けていった。首根っこ、ふくらはぎ、みぞおち、父上の剣が僕の身体をあちこちを滑っていく。僕は、父上に指一本触れることも出来なかった。

「ハアハア、僕はまだ父上には敵いません…」
「いやいや、お前も成長したよ。春休みに見てやった時よりも、少し私も頑張らなくてはいけなくなった。そのうち私を倒すこともできるだろう。」父上は笑いながらそう言った。

その日から、毎朝暑い日差しの下で、汗を流しながら父上との剣術の稽古が続いた。父上は厳しくも優しい指導で、私に剣の技術を教え込んでくれた。日に日に技量が上達していくのを感じながら、同時に父上がいかに優れた剣士であるかを痛感させられた。

そしてある日、稽古の最中に私はついに父上に勝つことができた。互いの剣が交錯する音が響き、僕の剣は父上の太ももを滑った。その瞬間を父上も認めた。
「お前の成長を見ることができて嬉しい。これからもっと強くなるんだぞ、シャルル。」父上の言葉に胸が熱くなった。

その後僕は、ジャンにも声をかけた。「ジャン、僕とちょっと勝負やってみないかい?」
「は、はい。勿論です。」

しかし、ジャンは全く相手にならなかった。すぐにジャンは僕の剣の前に惨敗してしまった。
「あれ?ジャン、前より弱くならなかったか?」
ジャンは笑って言った。「いいえ、違います。シャルル様が強くなられたのです。」

「そうか、僕も成長してるのか…」
自分でも僕自身、成長しているのは何となくわかっていた。でも立派な貴族になるにはまだまだ時間がかかる。

昼食の時間、僕は父上に聞いた。「ピラミッドの調査はどうなったんですか?」
「それが、物凄い大発見だったよ!ド=ルーが実在した王だったなんて、夢にも思わなかった!ボルフォーヌが歴史のある町であることを強く感じたよ!」父上は興奮した様子で言った。

「私たちベルタン家は、ド=ルーの子孫だと言われているんだ。ド=ルーの長男、エドゥアール王子は今のルロワ家の初代。ルロワ家は我が国の貴族の指導的存在だね。そして次男のアラン王子がベルタン家の初代家長と言われているんだよ。我が家の歴史は王族の血統に由来する誇り高いものだ。」
父上が語るベルタン家の歴史に、僕は熱心に耳を傾けた。

「ベルタン家は二千数百年にわたり最も高貴な家柄の一つだったんだ。歴代家長は武人として誉高く活躍したから、地位も最上級の侯爵だった。しかし400年程前に所謂『十八国体制』が成立し、国際社会が安定に向かうと、ベルタン家は次第に地位を落としていったんだ…」父上は少し表情を曇らせて言った。

「そこで、僕はベルタン家を再び偉大な家にしたいと思っているんです!僕も家の伝統を守り、誇り高く生きたいと思います。この地で得た教えと技術を持って、将来は家の名を更に高めることができるように頑張ります!」
帝都で僕が決意したことを打ち明けると、父上は優しい微笑を浮かべて頷いた。「その決意を大切にしてくれ。君には家の未来を担う使命がある。それを果たすために、今後も努力を惜しまないで欲しい。」

僕は心に決めた。必ずベルタン家を再興すると。親友のピエール・デュポンもまた、デュポン家の再興を誓っていた。両家が手を取り合えば、強力な友好関係が誕生するはずだ。

昼食を終えて庭に出ると、ルネが駆け寄ってきた。「お兄様ー!遊ぼー!」
僕はルネを抱き上げていった。「ルネ今までごめんね、帝都にいた時は忙しくて帰って来れなかった。でも暫くここにいるから、沢山遊ぼうね!」
「本当?約束だよ!」
「ああ勿論さ!約束するよ!」

「じゃあ何をしようか?」
ルネはぴょんぴょん跳ねながら考え込んだ。「じゃあ、かくれんぼしよう!」

「いいアイデアだね!じゃあルネが最初にかくれる番だよ。」

ルネは大喜びで隠れ場所を探し始め、僕は彼女のカウントを待った。数え終わると、庭中を探し回りながらルネを探す楽しさを味わった。ルネが木の後ろに隠れていたり、花壇の中に潜んでいたりと、彼の天真爛漫な笑顔が僕の心を和ませた。

「見つけたよー!」僕がルネを見つけると、彼女は大笑いしながら次は僕がかくれる番だと言った。

次は僕が隠れる番になり、ルネに探してもらった。ルネは目を輝かせながら庭のあちこちを探し回り、僕が隠れている場所を見つけると歓声を上げた。交互にかくれんぼを楽しんだ後、ルネはボールを持ち出して庭で遊び始めた。

その間、父上は笑顔で私たちを眺めながら庭を歩いていた。家族と共に過ごすひととき、特にルネとの遊びは私にとって貴重なものだった。彼女の無邪気な笑顔と、庭での活気溢れる時間が、帝都での厳しい日々を忘れさせてくれる。

「お兄様、また遊ぼうね!」ルネがボールを投げながら言う。
「もちろんだよ、ルネ。いつでも一緒に遊ぼう。」

その言葉にルネは満足そうに笑顔を見せて、また庭を駆け回っていった。

その夜、夕食を終えた僕はジャンとフローランと共に、町のバーへ飲みに出かけた。
「やあどうも、席空いてる?」
「あいお兄ちゃん良いよそこ座りな!と思ったらシャルル様じゃないですか!どうぞこちらへ!」バーの店主が驚いて言った。

「レオン、今日はまた良い酒を持ってきてくれたのか?」ジャンが尋ねると、店主のレオンは得意気に返答した。
「もちろんだよ、ジャン!新しいワインを仕入れてきたんだ。これがなかなかのもので、皆に飲んでもらいたいと思っるんだ。シャルル様も是非ご試飲ください。」

レオンは丁寧にワインを注ぎながら、僕たちの座る席を整えた。バーの中は賑やかで、他の客たちも笑顔で飲み交わしていた。

「レオン、何か美味しいつまみも出してくれるかい?」フローランがレオンに頼むと、店主は頷いた。
「もちろんですよ、お待ちくださいね。すぐにお出ししますから。」

店主の気配りに感謝しつつ、僕たちは乾杯した。ジャンは酒の肴についてレオンと話を始め、フローランは周囲の空気を楽しんでいた。僕は、帝都とはまた違った町の雰囲気に心が躍った。

「シャルル様、こちらがワインとつまみです。どうぞお楽しみください。」レオンが料理とワインを運んできて、私たちの前に丁寧に並べた。

「ありがとう、レオン。美味しそうだね、みんなで楽しもう!」僕が皆に声をかけると、一同笑顔で乾杯した。その後、他の客とも雑談を交わし、町の人と交流しながら楽しく飲んだ。バーの中で過ごすこのひとときも大切な時間だった。

そして8月末、ついに僕が帝都の家へ帰る日がやってきた。帰る日、僕は感謝の気持ちを込めて町の人々に別れを告げ、母上や父上、ルネ、そしてレオンにも心からの感謝を伝えた。僕の心には、ボルフォーヌで過ごした日々が深く刻まれていた。

帰路の馬車の中では、僕はこれまでの成長と経験を振り返りながら、家族や友人たちとの絆の大切さを感じていた。帝都に戻ることで、新たな挑戦や責務が待っていることも理解していた。

続く
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