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小咄

身代わり濃姫(小咄)~信長様に聞いてみよう・弐~

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 ひとしきりの行為を終え、汗ばんだ身体を布団に預けると、信長が名残を惜しむように接吻をしてくる。
 唇だけではなく、頬や首や髪……ありとあらゆるところに口づけてから、やっと満足したかのように、美夜みやの身体から離れた。
 信長の体温が離れて、美夜は少し寂しい気持ちになる
(一年前にはまさか自分が兄様以外の誰かと結婚するなんて、考えたこともなかったけど……)
 ファーストキスさえ、まだ何年も先の話だと思っていたのに、それはどさくさに紛れて兄と済ませてしまった。
 でも、今は少しだけ後悔している。
(信長様に……とっておけば良かったかな……)
 兄は美夜にとってとても大切な存在であることは間違いないが、今考えると、ファーストキスを捧げる相手とはちょっと違っていた気がする。
(でも、今はキスよりももっとすごいことをしている……)
 先ほどまでの行為を思い出して、美夜は身体の奥がまた少し熱くなってくるのを感じた。
(そういえば……私の初恋って、兄様なのよね……ずっと傍にいた兄様があまりにも完璧すぎて、他の男の子たちって、とても男として意識できなかったから……)
 信長が手を伸ばしてきて、美夜の手に触れてくる。
 美夜はその手を握りしめながら、信長には初恋の相手はいるのだろうかと思った。
(そういう話……あまりしたことなかったけど……どうなのかな……聞いてみようかな……せっかくだし……)
「どうした?」
 じっと見ていたからだろか、不審に思われたようで、信長が顔を近づけて聞いてくる。
「あ、えっと……信長様って、初恋はいつだったんですか?」
「初恋?」
「はい。初めて恋したのを初恋って私のいた世界ではいうんですけど」
「初めての恋、か……だったら、そなたであろうな」
 信長の返答は美夜にとっては少し意外だった。
「え? そうなんですか?」
 問い返すと、信長は眉間に皺を寄せて難しい顔をしながら付け加えた。
「正確にいえば……帰蝶きちょうのほうかもしれぬが……」
「本物の帰蝶さん?」
「ああ……ひと目見たときに、こんなに美しい女子おなごがおるものかと思うた……」
「そうなんですね……」
「だが、俺はあの帰蝶の中身までは知らぬ」
 本物の帰蝶は、信長と会話を交わすことすらなく死んでしまった。
 だから、信長が帰蝶の中身を知らないのは当然のことだ。
 そして、信長は目の前に現れたうり二つの自分を帰蝶だと信じた。
「俺はあの帰蝶を確かに美しいとは思うたが、愛しいと思うたのはそなただ。そういう気持ちを初めて感じたのは、そなたと結婚してからのことだからな。ということはつまり、やはり俺の初恋はそなたということになるのか?」
「ど、どうなんでしょう……判断が難しいところですよね……」
 本物の帰蝶を見た信長は、いわゆる一目惚れをしたのかもしれないと美夜は思った。
 だから、正確には信長の初恋はおそらく本物の帰蝶のほうなのだろう。
 しかし、信長が今愛してくれているのは美夜だということは、わざわざ言葉にして言ってもらわなくても分かる。
「俺はそなた以外の女子に特別な感情を感じたこともないし、抱きたいとも思わない。これからもそうだと思う」
「信長様……」
「だいたいそなたのせいで、そなた以外の女子が女子とは思えぬようになってしまったようだからな……」
「え? 私のせい……ですか?」
「そうだ」
 信長は断言すると、美夜の上に覆い被さるようにして、顔をのぞき込んでくる。
「ところで、そなたの初恋の相手とやらは誰なのだ? もちろん、俺であろうな」
「え……あ、えっと……」
 美夜は思わず目をそらしてしまった。
(ま、まさか兄が初恋の相手なんて言えない雰囲気……)
「どうなのだ? そなたの初恋の相手は俺の他におるとでもいうつもりなのか?」
「え、いえ、そんな……ことは……」
「なぜ目をそらす?」
「い、いえ、別に深い意味は……」
(ど、どうしよう……完全に疑われてる……)
「さあ、聞かせてもらおうか。そなたの初恋の相手とはどこの誰なのだ?」
(もう変に疑われたままよりは正直に話してしまおう……)
「あ、あの……兄です……」
「兄?」
「はい……ずっと初恋は兄と、自分ではそう思っていたんですが、でも、よく考えると、恋とかそういうのとはちょっと違っていたので、やっぱり私の初恋も信長様だったのかな……と思います……」
「そうか、それなら良い」
 信長はようやく満足したように笑った。
(よ、良かった……疑いは晴れたみたい……?)
「しかし、すぐに初恋が俺だと言わなかったのは気に食わぬ。やはりまだ愛し足りぬか?」
 信長はそう言うと、再び美夜の身体をまさぐり始める。
「え? ちょ、ちょっと待ってください。明日も朝早いですし、今日はもう……」
「今はそなたとの愛を育むことのほうが大切だ」
「の、信長様……っ……だ、駄目ですって……っ……」
 美夜はそう言ったものの……すぐに信長の愛撫に身体が蕩けてしまい、結局明け方近くまで愛を育み合ったのだった……。
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