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第二章
身代わり濃姫(33)
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ようやく雪春への文を書き終える頃には、もう外もすっかり暗くなってしまっていた。
筆を置きながら、とりあえずこの文を読んでもらうことで、今の自分の気持ちを雪春に伝えることはできるはずだと美夜は思う。
そして、今の美夜の状況が、雪春が心配するようなものでは決してないことも。
(それでもきっと、兄様は心配するわよね……私だって、兄様が大丈夫って言っても心配になるもの……)
信長と話をしたことで、兄が置かれた状況が、自分が考えていたよりも深刻なのではないかという思いが美夜の中で強くなっていた。
自分より年下の少女に手を出していたことや、その少女が身ごもったことに対しても、光秀に聞いたばかりの時は兄を責める気持ちも多分にあったが、それも薄れて、今の美夜は兄を理解したいという気持ちのほうが強くなっている。
各務野に文を託し、部屋でゆっくりと過ごしていると、甘音が入ってきた。
甘音は今朝から里に用があって戻っていたのだが、思ったより帰りが早かったようだ。
「久しぶりに戻ったんだから、泊まってきても良かったのに」
美夜がそう言うと、甘音は肩をすくめて苦笑する。
「さすがにそういうわけにもいかねーだろ。この城の中だって安全ってわけじゃねーんだし」
「まあ、そうなんだけどね」
「だいたい兄者がそんなの許さねーよ。さっさと戻れって追い出されるに決まってる」
確かに、甘音が里に泊まりたいと言っても、あの蔵ノ介はそれを決して許さないだろうと美夜は思い、苦笑した。
甘音が傍にいることで、美夜も、そして侍女たちも、以前よりは心丈夫になったのは確かだ。
甘音が言うように、城の中といえども、完全に安全とは言い切れない。
だから美夜の周囲には常に甘音や誰かがいるし、城の中でも美夜が行動できる範囲は限られている。
それでも、那古野城にいた頃よりは、城内の安全性は多少改善されたらしい。
信長や光秀が信頼できる者を選び、それ以外の者は城の奥までは近づけないような体制を取っているということもあるだろう。
だから、一時のように頻繁に怪しげな事件が起こったりする……ということは少なくなった。
ただ、那古野城にいた頃は、美夜もたまに外へ出ることができていたが、今はそれも許されない状況だ。
清洲に来た当初、信長と一緒に城下の町を巡ったが、あのようなことはもう当分はできそうになかった。
そして、城から出られないのは信長も同じで、那古野城にいた頃は一人でふらふらと出かけては傅役の政秀をはらはらさせていたが、今はそれもしなくなった。
(たぶん、信長様も出かけたいんだろうな……)
我慢しているのは自分だけではないと、美夜は自分に言い聞かせている。
(それに……兄様は半年もずっとこんな状態に耐えているんだから……)
今思い返してみると、元の世界での美夜たちは、本当に多くの自由を与えられていたと思う。
どこへ行くにも誰の断りも必要なかったし、外へ出たければ勝手に出れば良かった。
そんな自由も、失ってみて初めてありがたみが分かるというのは、皮肉だなと美夜は思う。
「蔵ノ介さんは元気だった?」
「ああ、元気元気。いつも通り口やかましかったから、心配ないぜ」
「あはは……」
甘音の言葉に、美夜は渇いた笑いがこみ上げてきてしまう。
確かに、蔵ノ介の毒舌がなくなってしまえば、かえってまわりは心配になってしまうだろう。
甘音は時折、その乱暴な言葉使いを、政秀などに注意されたりはしているようだが、いっこうに態度を改める気はなさそうだ。
相変わらず、美夜のことは帰蝶と呼び捨てし、信長のことは吉法師と幼名で呼び捨てている。
信長はそのことに苦笑しつつも、命じてまで改めさせるつもりはないようだった。
美夜も、甘音は今のままのほうが甘音らしくて良いと思っている。
(いろいろ言う人はいるけど、本人が気にしなければ問題ないものね)
「城に来て何がびっくりしたかっていえば、やっぱり吉法師が意外とちゃんと城主やってることだよなー」
甘音の率直な言葉に、美夜はちょっと笑ってしまう。
「確かに、意外とちゃんとやってるわよね」
「もっと頼りねーんじゃねーのとか思ってたけど、やっぱり人って成長するもんなんだなーって」
「そうかもね」
信長は美夜と結婚してから半年の間にも、随分と変わったと思う。
甘音が言うように、成長したのだと思う。
最初の頃は美夜に接するにもどうして良いか分からないという顔を何度もしていたのが、今は顔を見ただけで、美夜が何を考えているのかまで当ててしまうほどだ。
それはきっと、信長なりの努力の成果なのだと思う。
(私は……どうなんだろう。この半年で成長できたのかな……)
自分の考え方や行動は、随分と変わったと思う。
信長の妻としての自覚も、少しは出てきたと思う。
ちょっとしたことぐらいでは、泣かなくなったと思う。
(たぶん、少しは成長してる……よね……)
自分で自分のことはよく分からない。
でも、日々信長の傍にいれば、昨日と同じじゃ駄目だと思える。
きっと、それを繰り返すことで、自分は成長していけるのかな、と美夜は思った。
夜になって寝室に行くと、珍しく信長が先に到着していた。
美夜が入ってきたのが分かると、信長は読んでいた書物を閉じる。
信長が読んでいる書物はたいていが古い兵法の書らしい。
美夜にはよく分からないものばかりだが、最近の信長は、忙しい合間にもそうした書物を読みふけっているようだった。
「兄上への文は書けたか?」
信長が美夜の身体を抱き寄せながら、聞いてくる。
「はい。書けました。たぶん……私の想いはちゃんと伝わると思います」
美夜がそう伝えると、信長は頷いた。
「なら良い。本当ならそなたをすぐにでも兄上に会わせてやりたいのだが……すまぬな。まだ先日の襲撃者の正体も分からぬ上に、内通者の特定にも手間取っている……」
信長はごく一部の者たちだけを使い、慎重に内通者を探しているようだが、まだその成果は出ていないらしい。
道三のほうも同様のようで、まだ内通者を特定することまではできていないようだ。
それが判明し、それなりの安全が確保できるまでの間は、信長が美夜を不用意に動かすことはできないという事情は、美夜自身もよく分かっている。
「いえ。気にしないでください。信長様がいつも私のことを考えてくださっていることは、分かっています。だから……」
美夜は自分から信長の唇に接吻した。
すぐにその接吻を解くと、信長の顔が間近にある。
昼間の約束を、美夜は思い出した。
「あの……私、信長様と結婚して良かったと思っています。兄への文にもそう書きました。私は信長様にとても大切にしていただいて、幸せだと。そう伝えることで、せめて兄様に、私ために心を遣う負担だけでも、減らしてもらえたらと思って……」
「そうか……」
「たぶん、私が大丈夫って言ったって、幸せだって言ったって、兄様は心配はすると思います。でも、それが少しでも減ってくれたら、その分だけでも、兄様が自分の幸せのことも考えることができたらいいなって……」
「そうだな……そうなってくれると良いな」
「はい……」
今度は信長のほうから唇を重ねてきたので、美夜は信長の背中に手を回した。
すぐに身体が押し倒され、さらに強く唇を押しつけられる。
信長の身体の重みに息苦しさを感じつつも、美夜の身体はすぐに熱くなってきた。
「ん、ふぅ……信長様……っ……」
荒々しく頬や首筋に接吻され、その部分に火がともったように熱くなるのを感じた。
信長の熱く硬いその場所が、美夜の身体に押しつけられる。
美夜はそれが入ってくる瞬間を想像しただけで、その場所が湿り気を帯びてくるのを感じた。
(早く……入ってきて欲しい……)
口に出してそんなことはとても言えないけれど、美夜の身体はそう望んでいるようだった。
ふいに信長が真上から美夜の顔をのぞき込んでくる。
美夜は上気した顔で信長を見つめ返した。
「信長様……?」
「俺も……もちろんそなたと結婚して良かったと思うておるぞ」
美夜だけに言わせておいてはいけないと、信長は考えてくれたのだろう。
美夜は微笑んで答える。
「嬉しいです……」
どちらから求めるともなく二人の唇が重なり合い、身体を絡め合っていく。
「ん、ふ……ぅっ、んっ、く……ふ……んぅ……っ……」
舌を絡め合う深い口づけを繰り返しながら、互いの身体をまさぐりあう。
身体が蕩けそうなほどに熱くなり、あの場所がさらに濡れてくるのを感じて、美夜は息を弾ませた。
気がつけば、互いの着物はすっかり乱れ、肌はその多くが露出している。
信長の手が、美夜の胸の辺りをくすぐり始めると、美夜の息はさらに乱れた。
「あ、んっ……ん、ぁ……信長様……っ……」
美夜も信長の熱くなったモノに触れていく。
それは美夜の手の中で、さらに大きくなったような気がした。
きゅっと握りしめた手に力をこめると、信長が息を詰める気配がした。
「す、すみません、痛かった……ですか?」
「いや、その逆だ……」
信長は少し照れくさそうに笑うと、美夜の唇に接吻をしてくる。
(そうか……今のは気持ち良かったんだ……)
美夜はまたひとつ信長のことを知った気がして、嬉しくなる。
たぶん敏感なところだから、あまり力を入れすぎると痛みを感じてしまうのかもしれない。
美夜はそう考えながら、力を入れすぎないように気をつけ、信長のモノを握りしめ、上下に動かしていく。
その熱さが手を通して伝わってくるたび、美夜は自分の身体もじわりと疼くのを感じてしまう。
信長も、美夜の身体のもっとも熱いところに触れている。
そこがもう濡れそぼってしまっているのが、信長が触れるたびに響く音で美夜にも分かった。
「んっく……んぅっ、あっ、はぁ……っ……」
身体の敏感なところを信長に触れられるたび、美夜は声が漏れてしまうのを止められなかった。
それに、身体がびくびくと自分の意思とは無関係に震えてしまう。
やがて、二人はほとんど同時に限界を迎えた。
大きく肩を上下させるような呼吸を繰り返しながら唇を重ね合ううちに、信長のモノは硬さを取り戻していた。
すぐに信長の熱い塊が、美夜の身体を深く貫いてくる。
「あぁぁっ……!」
待ちわびていたものを身体の奥まで入れられて、美夜は全身が喜びに震えるのを感じた。
信長が動き始めると、美夜の身体はさらに明確な快楽によって支配されていく。
「あっ、ぁぁっ……あ、んっ……はぁ……あぁっ……」
「今日はそなたの中がいつもよりも熱い……」
信長にそんなことを囁かれ、確かにそうかもしれないと美夜も思った。
信長が動くたび、美夜のその場所からは濡れた音が響いていく。
信長は美夜の肌のあちらこちらに接吻を落としながら、その濡れた場所を強く深く貫いていった。
(信長様が……私の身体のこんな奥にまで入って……)
美夜は信長を身体のもっとも深い部分に感じながら、息を熱く喘がせていく。
信長の呼吸も乱れ、その身体には汗が浮かんでいた。
美夜は信長の背に手を回して抱きつきながら、その激しい抽送を受け止める。
「あ、んぁん……あっ、ぁっ……」
信長から快楽を注ぎ込まれるたび、美夜の身体に熱の波が駆け抜けていく。
信長の熱い塊が、美夜の中で震えているのが伝わってきて、彼も限界が近いのかもしれない……美夜はそう思った。
美夜自身も、またあの瞬間がやって来る予感を感じていた。
頭も身体もしびれたようになり、美夜は信長から注ぎ込まれる快楽の波に身を任せる。
「あっ、ぁあっ……!」
やがて美夜は身体を大きく波打たせた。
信長もそれと同時に呻いて、美夜は身体の中に、彼の放った熱いものが流れ込んでくるのを感じた。
信長は大切なものにでも触れるように、美夜の顔や髪に何度も接吻する。
そしてその唇が、美夜の唇にそっと重なってきた。
優しく気持ちを伝えあうような、そんな長い接吻の後、信長は身体を布団に沈めた。
「不思議だ……」
信長がそんなことを呟いたので、美夜はぼんやりとした目を向ける。
「そなたの中にいると、俺はここに来るために生まれてきたのではないかと思うことがある……」
それは信長の独特の言い回しだったが、美夜にもその気持ちは理解できるような気がした。
信長が身体の中に入っているときに感じる、何ともいえない一体感……それは、美夜がこれまで生きてきた中で感じたことのないもので、そして今の美夜にとってはなくてはならないものになっている。
「私も……同じように感じるときがあります……」
美夜がそう言うと、信長は美夜の手を握りしめて笑った。
「では、本当にそうなのかもしれぬな」
「はい……」
本来なら、こうして彼の傍に寄り添っているのは、別の帰蝶だったはずだ。
それなのに、四百年もの時を超えて自分がこの場所にいるというのは、信長が言うように、とても不思議なことのような気がした。
「美夜……」
信長の身体が再び覆い被さって来たので、美夜は腕を伸ばしてそれを受け入れた。
筆を置きながら、とりあえずこの文を読んでもらうことで、今の自分の気持ちを雪春に伝えることはできるはずだと美夜は思う。
そして、今の美夜の状況が、雪春が心配するようなものでは決してないことも。
(それでもきっと、兄様は心配するわよね……私だって、兄様が大丈夫って言っても心配になるもの……)
信長と話をしたことで、兄が置かれた状況が、自分が考えていたよりも深刻なのではないかという思いが美夜の中で強くなっていた。
自分より年下の少女に手を出していたことや、その少女が身ごもったことに対しても、光秀に聞いたばかりの時は兄を責める気持ちも多分にあったが、それも薄れて、今の美夜は兄を理解したいという気持ちのほうが強くなっている。
各務野に文を託し、部屋でゆっくりと過ごしていると、甘音が入ってきた。
甘音は今朝から里に用があって戻っていたのだが、思ったより帰りが早かったようだ。
「久しぶりに戻ったんだから、泊まってきても良かったのに」
美夜がそう言うと、甘音は肩をすくめて苦笑する。
「さすがにそういうわけにもいかねーだろ。この城の中だって安全ってわけじゃねーんだし」
「まあ、そうなんだけどね」
「だいたい兄者がそんなの許さねーよ。さっさと戻れって追い出されるに決まってる」
確かに、甘音が里に泊まりたいと言っても、あの蔵ノ介はそれを決して許さないだろうと美夜は思い、苦笑した。
甘音が傍にいることで、美夜も、そして侍女たちも、以前よりは心丈夫になったのは確かだ。
甘音が言うように、城の中といえども、完全に安全とは言い切れない。
だから美夜の周囲には常に甘音や誰かがいるし、城の中でも美夜が行動できる範囲は限られている。
それでも、那古野城にいた頃よりは、城内の安全性は多少改善されたらしい。
信長や光秀が信頼できる者を選び、それ以外の者は城の奥までは近づけないような体制を取っているということもあるだろう。
だから、一時のように頻繁に怪しげな事件が起こったりする……ということは少なくなった。
ただ、那古野城にいた頃は、美夜もたまに外へ出ることができていたが、今はそれも許されない状況だ。
清洲に来た当初、信長と一緒に城下の町を巡ったが、あのようなことはもう当分はできそうになかった。
そして、城から出られないのは信長も同じで、那古野城にいた頃は一人でふらふらと出かけては傅役の政秀をはらはらさせていたが、今はそれもしなくなった。
(たぶん、信長様も出かけたいんだろうな……)
我慢しているのは自分だけではないと、美夜は自分に言い聞かせている。
(それに……兄様は半年もずっとこんな状態に耐えているんだから……)
今思い返してみると、元の世界での美夜たちは、本当に多くの自由を与えられていたと思う。
どこへ行くにも誰の断りも必要なかったし、外へ出たければ勝手に出れば良かった。
そんな自由も、失ってみて初めてありがたみが分かるというのは、皮肉だなと美夜は思う。
「蔵ノ介さんは元気だった?」
「ああ、元気元気。いつも通り口やかましかったから、心配ないぜ」
「あはは……」
甘音の言葉に、美夜は渇いた笑いがこみ上げてきてしまう。
確かに、蔵ノ介の毒舌がなくなってしまえば、かえってまわりは心配になってしまうだろう。
甘音は時折、その乱暴な言葉使いを、政秀などに注意されたりはしているようだが、いっこうに態度を改める気はなさそうだ。
相変わらず、美夜のことは帰蝶と呼び捨てし、信長のことは吉法師と幼名で呼び捨てている。
信長はそのことに苦笑しつつも、命じてまで改めさせるつもりはないようだった。
美夜も、甘音は今のままのほうが甘音らしくて良いと思っている。
(いろいろ言う人はいるけど、本人が気にしなければ問題ないものね)
「城に来て何がびっくりしたかっていえば、やっぱり吉法師が意外とちゃんと城主やってることだよなー」
甘音の率直な言葉に、美夜はちょっと笑ってしまう。
「確かに、意外とちゃんとやってるわよね」
「もっと頼りねーんじゃねーのとか思ってたけど、やっぱり人って成長するもんなんだなーって」
「そうかもね」
信長は美夜と結婚してから半年の間にも、随分と変わったと思う。
甘音が言うように、成長したのだと思う。
最初の頃は美夜に接するにもどうして良いか分からないという顔を何度もしていたのが、今は顔を見ただけで、美夜が何を考えているのかまで当ててしまうほどだ。
それはきっと、信長なりの努力の成果なのだと思う。
(私は……どうなんだろう。この半年で成長できたのかな……)
自分の考え方や行動は、随分と変わったと思う。
信長の妻としての自覚も、少しは出てきたと思う。
ちょっとしたことぐらいでは、泣かなくなったと思う。
(たぶん、少しは成長してる……よね……)
自分で自分のことはよく分からない。
でも、日々信長の傍にいれば、昨日と同じじゃ駄目だと思える。
きっと、それを繰り返すことで、自分は成長していけるのかな、と美夜は思った。
夜になって寝室に行くと、珍しく信長が先に到着していた。
美夜が入ってきたのが分かると、信長は読んでいた書物を閉じる。
信長が読んでいる書物はたいていが古い兵法の書らしい。
美夜にはよく分からないものばかりだが、最近の信長は、忙しい合間にもそうした書物を読みふけっているようだった。
「兄上への文は書けたか?」
信長が美夜の身体を抱き寄せながら、聞いてくる。
「はい。書けました。たぶん……私の想いはちゃんと伝わると思います」
美夜がそう伝えると、信長は頷いた。
「なら良い。本当ならそなたをすぐにでも兄上に会わせてやりたいのだが……すまぬな。まだ先日の襲撃者の正体も分からぬ上に、内通者の特定にも手間取っている……」
信長はごく一部の者たちだけを使い、慎重に内通者を探しているようだが、まだその成果は出ていないらしい。
道三のほうも同様のようで、まだ内通者を特定することまではできていないようだ。
それが判明し、それなりの安全が確保できるまでの間は、信長が美夜を不用意に動かすことはできないという事情は、美夜自身もよく分かっている。
「いえ。気にしないでください。信長様がいつも私のことを考えてくださっていることは、分かっています。だから……」
美夜は自分から信長の唇に接吻した。
すぐにその接吻を解くと、信長の顔が間近にある。
昼間の約束を、美夜は思い出した。
「あの……私、信長様と結婚して良かったと思っています。兄への文にもそう書きました。私は信長様にとても大切にしていただいて、幸せだと。そう伝えることで、せめて兄様に、私ために心を遣う負担だけでも、減らしてもらえたらと思って……」
「そうか……」
「たぶん、私が大丈夫って言ったって、幸せだって言ったって、兄様は心配はすると思います。でも、それが少しでも減ってくれたら、その分だけでも、兄様が自分の幸せのことも考えることができたらいいなって……」
「そうだな……そうなってくれると良いな」
「はい……」
今度は信長のほうから唇を重ねてきたので、美夜は信長の背中に手を回した。
すぐに身体が押し倒され、さらに強く唇を押しつけられる。
信長の身体の重みに息苦しさを感じつつも、美夜の身体はすぐに熱くなってきた。
「ん、ふぅ……信長様……っ……」
荒々しく頬や首筋に接吻され、その部分に火がともったように熱くなるのを感じた。
信長の熱く硬いその場所が、美夜の身体に押しつけられる。
美夜はそれが入ってくる瞬間を想像しただけで、その場所が湿り気を帯びてくるのを感じた。
(早く……入ってきて欲しい……)
口に出してそんなことはとても言えないけれど、美夜の身体はそう望んでいるようだった。
ふいに信長が真上から美夜の顔をのぞき込んでくる。
美夜は上気した顔で信長を見つめ返した。
「信長様……?」
「俺も……もちろんそなたと結婚して良かったと思うておるぞ」
美夜だけに言わせておいてはいけないと、信長は考えてくれたのだろう。
美夜は微笑んで答える。
「嬉しいです……」
どちらから求めるともなく二人の唇が重なり合い、身体を絡め合っていく。
「ん、ふ……ぅっ、んっ、く……ふ……んぅ……っ……」
舌を絡め合う深い口づけを繰り返しながら、互いの身体をまさぐりあう。
身体が蕩けそうなほどに熱くなり、あの場所がさらに濡れてくるのを感じて、美夜は息を弾ませた。
気がつけば、互いの着物はすっかり乱れ、肌はその多くが露出している。
信長の手が、美夜の胸の辺りをくすぐり始めると、美夜の息はさらに乱れた。
「あ、んっ……ん、ぁ……信長様……っ……」
美夜も信長の熱くなったモノに触れていく。
それは美夜の手の中で、さらに大きくなったような気がした。
きゅっと握りしめた手に力をこめると、信長が息を詰める気配がした。
「す、すみません、痛かった……ですか?」
「いや、その逆だ……」
信長は少し照れくさそうに笑うと、美夜の唇に接吻をしてくる。
(そうか……今のは気持ち良かったんだ……)
美夜はまたひとつ信長のことを知った気がして、嬉しくなる。
たぶん敏感なところだから、あまり力を入れすぎると痛みを感じてしまうのかもしれない。
美夜はそう考えながら、力を入れすぎないように気をつけ、信長のモノを握りしめ、上下に動かしていく。
その熱さが手を通して伝わってくるたび、美夜は自分の身体もじわりと疼くのを感じてしまう。
信長も、美夜の身体のもっとも熱いところに触れている。
そこがもう濡れそぼってしまっているのが、信長が触れるたびに響く音で美夜にも分かった。
「んっく……んぅっ、あっ、はぁ……っ……」
身体の敏感なところを信長に触れられるたび、美夜は声が漏れてしまうのを止められなかった。
それに、身体がびくびくと自分の意思とは無関係に震えてしまう。
やがて、二人はほとんど同時に限界を迎えた。
大きく肩を上下させるような呼吸を繰り返しながら唇を重ね合ううちに、信長のモノは硬さを取り戻していた。
すぐに信長の熱い塊が、美夜の身体を深く貫いてくる。
「あぁぁっ……!」
待ちわびていたものを身体の奥まで入れられて、美夜は全身が喜びに震えるのを感じた。
信長が動き始めると、美夜の身体はさらに明確な快楽によって支配されていく。
「あっ、ぁぁっ……あ、んっ……はぁ……あぁっ……」
「今日はそなたの中がいつもよりも熱い……」
信長にそんなことを囁かれ、確かにそうかもしれないと美夜も思った。
信長が動くたび、美夜のその場所からは濡れた音が響いていく。
信長は美夜の肌のあちらこちらに接吻を落としながら、その濡れた場所を強く深く貫いていった。
(信長様が……私の身体のこんな奥にまで入って……)
美夜は信長を身体のもっとも深い部分に感じながら、息を熱く喘がせていく。
信長の呼吸も乱れ、その身体には汗が浮かんでいた。
美夜は信長の背に手を回して抱きつきながら、その激しい抽送を受け止める。
「あ、んぁん……あっ、ぁっ……」
信長から快楽を注ぎ込まれるたび、美夜の身体に熱の波が駆け抜けていく。
信長の熱い塊が、美夜の中で震えているのが伝わってきて、彼も限界が近いのかもしれない……美夜はそう思った。
美夜自身も、またあの瞬間がやって来る予感を感じていた。
頭も身体もしびれたようになり、美夜は信長から注ぎ込まれる快楽の波に身を任せる。
「あっ、ぁあっ……!」
やがて美夜は身体を大きく波打たせた。
信長もそれと同時に呻いて、美夜は身体の中に、彼の放った熱いものが流れ込んでくるのを感じた。
信長は大切なものにでも触れるように、美夜の顔や髪に何度も接吻する。
そしてその唇が、美夜の唇にそっと重なってきた。
優しく気持ちを伝えあうような、そんな長い接吻の後、信長は身体を布団に沈めた。
「不思議だ……」
信長がそんなことを呟いたので、美夜はぼんやりとした目を向ける。
「そなたの中にいると、俺はここに来るために生まれてきたのではないかと思うことがある……」
それは信長の独特の言い回しだったが、美夜にもその気持ちは理解できるような気がした。
信長が身体の中に入っているときに感じる、何ともいえない一体感……それは、美夜がこれまで生きてきた中で感じたことのないもので、そして今の美夜にとってはなくてはならないものになっている。
「私も……同じように感じるときがあります……」
美夜がそう言うと、信長は美夜の手を握りしめて笑った。
「では、本当にそうなのかもしれぬな」
「はい……」
本来なら、こうして彼の傍に寄り添っているのは、別の帰蝶だったはずだ。
それなのに、四百年もの時を超えて自分がこの場所にいるというのは、信長が言うように、とても不思議なことのような気がした。
「美夜……」
信長の身体が再び覆い被さって来たので、美夜は腕を伸ばしてそれを受け入れた。
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