22 / 109
第一章
身代わり濃姫(21)
しおりを挟む
翌日、信長が完全に回復したことで、美夜はようやく那古野城主の任を解いてもらうことができた。
たとえ仮だとか名目だけのものとはいえ、この時代の城主の権限というのは、美夜が考えていた以上のものがあった。
そのおかげで、山のような苦情を言いつつも、信行もその家臣たちも、城主の命令に従い一晩おとなしく城に閉じこもっていてくれたのだ。
ただ、それもあと一日と言われればきっと無理だっただろうが、たとえ仮であっても、美夜が女子であっても、城主という存在にはその程度の効果がある、ということは理解できた。
おそらく、美夜が城主に任じられていたからこそ、信行も美夜に対してあの程度のことしかできなかったのかもしれないとも思う。
だから、信長が美夜に城の宰領を任せていったのは、美夜自身を守るためという意味もあったのかもしれない。
(それにしても……やっぱり信行のことは言えないわね……)
美夜はあの夜のことを思い出し、ため息をつく。
各務野にさえ、まだあの夜の出来事は言っていない。
もしもこのまま二度と信行と接触することがなければ、そして、接触したとしても二人きりになったりするようなことがなければ、気に病む必要のないことだ。
各務野にも信長にも、自分のことで余計な気を遣わせたり、煩わしい想いをさせたくはなかった。
(ただでさえ、信長様は忙しいのに……)
昨夜は城中を大騒ぎさせた信長だが、今日は早朝から精力的に動き回っている。
というのも、信長が事前に宣言していたとおり、那古野城から清洲城へと引っ越すことがさっそく決まったからだ。
信長は今朝からその采配で忙しく、そして各務野たち侍女も引っ越しの準備に忙しく、今日の美夜は少し手持ちぶさた気味だった。
引っ越しの準備を手伝えば良いのだろうが、城のどこへ行ってみても、声をかけるのすらためらわれる状況で『何か手伝えることは?』と聞けるような空気でもなかった。
結局、美夜が手伝うとかえって邪魔になりそうな様子だったので、こうして一人、部屋でおとなしくしているのだが。
「もしかして兄様って……毎日こんな感じなのかな。剣の稽古はしてるって聞いたけど……兄様……大丈夫かしら……」
「義龍がどうかしたのか?」
「ひっ!?」
背後から信長の声が聞こえて、美夜は思わず変な声を出してしまった。
「あ、そ、そう……よ、義龍兄様のことを……その……ちょっと思い出して……」
本物の帰蝶には腹違いの兄がいる。斉藤義龍という男だが、美夜は義龍を見たこともないし、もちろん話をしたこともない。
各務野から情報として義龍と帰蝶の交流についても教えられているが、同じ城で育ったわけでもなく、親族一同が集まる席で数回顔を合わせる程度だったらしい。
だから、本物の帰蝶にとって、おそらく義龍はほぼ他人という感じだったのかもしれない。
(ゆ、油断できない……本当に神出鬼没というか……気を抜いては駄目ね……盗聴器でも仕掛けてあるのかしら……)
とりあえず、早急に話を変える必要を美夜は感じた。
「そ、そういえば信長様、引っ越しの準備で忙しいんじゃ……?」
美夜がそう聞くと、信長は苦笑して肩をすくめる。
「もう俺のすることはなくなった。邪魔になりそうだったから、抜けてきた」
どうやら信長も美夜と同じような状態らしい。
指示を出し終えてしまうと、残りの実務は慣れている人間に任せておくのが一番なのかもしれなかった。
「奇遇ですね。私も邪魔になりそうだから、ここで時間を潰していました」
「引っ越しの準備では、俺たちは何の役にも立たないようだな」
「そうみたいですね」
話が義龍の話からそれてくれてほっとしていると、ふいに信長が美夜の身体を抱きしめてくる。
「の、信長……様……?」
「昨日は戻ったらすぐにそなたを抱くつもりだったのに、それができなかった」
「お風呂で溺れましたからね……」
「だから、今から抱こうと思う」
「え? えっと、まだ外も明るいですし、その……」
「夜まで我慢できそうにない」
「で、でも……こ、こんな昼間からそういうことは……っ……み、みんなばたばたしてますし、そ、それに……もしもだ、誰か来たら……っ……」
「しばらく誰も来るなと言っておいたからそういう心配はするな」
(……ってことは、中で何をしているのかみんな知ってるってこと? それはそれで恥ずかしいというか……)
美夜は顔が熱くなるのを感じた。しかし、信長はもう止まらないようだった。
欲情した目で美夜を見つめ、そのまま顔を近づけてくる。
「信長様……っ……あの……っ……んんんっ!!」
言いかけた美夜の言葉を、信長の唇が塞いだ。
昨日美夜が彼にしたものとはまったく別物の、激しい接吻を信長は繰り返してくる。
「んんっ、ぅっ、の、のぶな……んぅっ、んっく……」
抵抗してももう無駄だと、美夜は諦めた。
それよりも、信長の身体とこうして触れあっているだけで、自分の身体も熱くなり、美夜自身も信長を求めていることに気づく。
(私も……本当はこうしたかった……)
しばらく接吻を続けているうちに、信長の手は美夜の身体をまさぐってくる。
いつもより少し乱暴に触れられているのに、美夜の身体はどんどん熱くなっていくばかりだった。
「ん、ぁっ……んんぅっ、く……んんっ……」
信長は接吻を説くと、美夜の片方の手を、自身の昂ぶりに導いた。
「触って……」
甘えるようにそう囁かれ、美夜は信長のものを手で握りしめる。
熱く硬いそれに触れているだけで、美夜は身体が疼くのを感じた。
先日教えてもらったように手を動かしていくと、信長も美夜の首筋や胸に接吻しながら、愛撫を繰り返してくる。
「ん、ぁ……信長様……っ……んっ、ぁっ、んんっ……」
信長に触れられるだけで身体の力が抜けてしまい、手が止まってしまいそうになる。
(でも……彼にも気持ち良くなってもらいたい……)
美夜はそう思い、信長の愛撫が与えてくる刺激に邪魔をされながらも、懸命に手を動かし続けた。
信長はあらわになった美夜の胸の突起を口に含み、舌でなで上げるようにしてくる。
「んぁっ、や、あっ、んんっ……!」
思わず出てしまう声を止めることができない。
信長のものも、美夜の手の中で脈打っているのを感じる。
(もっと速くすれば……信長様も気持ちいいかな……)
美夜はぎゅっと強く信長のものを握りなおすと、さらに速く手を動かしていった。
信長の息がさらに荒くなるのを感じ、美夜は少し嬉しくなる。
(やっぱり……気持ちいいんだ……)
しかし、美夜が頑張れば頑張るほどに、信長もおとなしくはしていない、
信長の舌や指が肌をくすぐるたび、美夜の身体はびくびくと反応してしまう。
それでも美夜は、信長のものを握りしめた手を動かすのをやめなかった。
「あっ、んっ、あっ、は……ぁっ……んっ、ぅ……」
信長の手が太ももからさらに上へ、そして内側へと進んで行くにつれ、美夜は身体の熱がさらに上昇するのを感じた。
そして、たっぷりと蜜を滴らせるその場所に信長の指が触れた瞬間、身体を跳ね上がらせるように反応してしまう。
「あぁぁっ……!」
それでも美夜は、信長のものを握りしめる手を離さなかった。
信長ももう限界が近いような気がしていた。
手を動かす速度をさらに加速させていく。
「――――っ!!」
信長が息を詰める気配がした。
美夜の手や身体のあちこちに、温かいものが飛び散った。
どうやら信長が先に果てたようだった。
(良かった……)
信長を無事に導くことができて安堵する間もなく、美夜の身体が仰向けに押し倒される。
「……ぁっ……」
信長のものはもう硬さを取り戻しており、美夜の濡れた入り口にあてがわれていた。
信長の唇が再び美夜の唇を塞ぐ。
最初の接吻よりも、信長の息も美夜の息も荒くなっている。
すぐに信長の硬くて熱いものが、身体の奥まで入ってくるのを感じた。
「ああぁっ……あっ、ぁっ……あぁっ!」
身体の奥まで熱いもので満たされていく。
その感覚に堪らず美夜は声をあげていた。
信長は美夜の手を握りしめながら、何度も接吻を繰り返す。
求められているという実感が、美夜の身体をさらに昂ぶらせていく。
すぐに信長は動き始める。
(彼が……本当に私の中にいる……)
身体の中を行き来する信長の存在を感じながら、美夜は信長という人間が、すでに自分になくてはならない存在になっているのだと感じる。
もしも信長を失ったなら……それを考えることすら怖い。
信長の熱の塊が、美夜の身体の奥深くまで貫いていく。
「あ、ぁっ……信長様……っ……ぁぁっ!」
信長が動くたびに熱く濡れた声を漏らしながらも、美夜はどこか冷静な自分を完全に排除しきれない。
(私は……たぶん、彼のことを本気で好きになってしまった……)
美夜は身体の中の信長の存在を強く感じながら、自分の気持ちを理解した。
(そして、彼も『帰蝶』のことを愛し、大切に思ってくれている……)
美夜は信長の背中に手を伸ばして、その身体ぎゅっとを強く抱きしめる。
信長の動きが、さらに強く激しくなり、呼吸もさらに乱れていくのが分かった。
(でも、私は……)
元の世界に戻る方法が見つかったら……偽りの帰蝶であることが知られたら……。
もうこの温もりを感じる資格はなくなってしまう。
(そもそも……今だって私にそんな資格はないのかも……)
美夜は信長の身体にしがみつくようにして揺さぶりに耐えながら、頭の中に浮かんでくる罪悪感を払いのける。
(今はもう何も考えては駄目……考えたって、それしか私の選択肢はないのだから……それよりも、彼に気づかれないようにしないと……)
次第に激しくなってくる信長の動きのおかげで、美夜は何も考えられなくなっていく。
「あっ、ぁっ……あ、ぁっ、信長様……っ……!」
美夜は信長の名を呼びながら、送り込まれる快楽に身を委ねていく。
(全部忘れなきゃ……この人といる時は……全部……)
信長の荒い呼吸にその限界が近づいていることを感じながら、美夜もまた快楽の波に攫われるようにして息を弾ませていった。
「あっぁあ……! あぁぁぁ……!!」
今度は美夜が先に達した。
その後を追うように信長の呻くような声が耳元に聞こえ、身体の中に温かなものが流れ込んでくるのを感じた。
脱力した信長が、美夜の身体に覆い被さってくる。
二人はしばらく重なり合ったまま、乱れた息を弾ませ続けた。
少し呼吸が落ち着いてくると、その名残を惜しむかのように、信長は美夜に何度も接吻をしてくる。
そして、接吻を解いた信長は、美夜の顔をのぞき込みながら笑った。
「安心せい。俺はそなたをおいて逝ったりはせぬ」
「信長様……」
まるで美夜の心の中を見透かしたかのような言葉だった。
「清洲にいるとき、ずっとそなたの顔が浮かんでおった。俺が戻らねば、そなたはどうなってしまうのかと……」
「信長様が戻らないことなんて……考えたくありませんでした……だから、考えないようにしていました……」
「これからも考えずとも良い。俺はどんなことがあっても、必ずそなたの元へ戻る」
「はい……」
信長のその言葉に、美夜は心から安堵するのを感じた。
美夜が嫁いできてから、信長は何度も「俺に何かあれば鈴音に乗って逃げろ」と言い続けていた。
信長はずっと自分が長くは生きられない可能性を意識し続けていた。
もしかすると彼は、生の可能性よりも死の可能性のほうを強く意識し続けてきたのかもしれない。
でも、信長は今、必ず生きるということを宣言してくれている。
「帰蝶も約束をして欲しい。俺を置いてどこにも行かぬと」
「…………」
信長のその言葉に、美夜の思考は一瞬停止してしまう。
そしてその一瞬の間にさまざまなことを考えた。
信長を置いてどこへも行かない……そう言い切ることのできない自分……。
帰蝶であればすぐに『はい』と答えるべきなのに、言葉が出てこない。
嘘でも『はい』と言わなければいけないのに、言葉が出てこなかった。
美夜はこの問いかけに『はい』と答えることができない。
「帰蝶……?」
信長が訝しむように美夜の顔を見ている。
「私……私は……」
(何もかも話してしまいたい……でも、それだけはできない……)
「帰蝶……なぜ泣く?」
信長に言われて、美夜は自分が泣いていることに気づいた。
「ごめんなさい……」
「なぜ謝るのだ?」
信長が美夜の顔をのぞき込む。
「ごめんなさい……」
謝り続ける美夜を、信長が包み込むように抱きしめる。
その温もりや優しさが、今の美夜にとってはかえって辛かった。
「もう泣くな。俺はそなたに泣かれるのが、一番弱いのだ」
信長はただ美夜を抱きしめるだけで、それ以上何も聞いては来なかった。
信長は美夜が何かを隠しているということに気づいているのかもしれない。
いっそすべて話してしまおうかとも思う。
すべてを話してしまうことができれば、どんなに気持ちが楽になるだろう。
だけど、それを話すことによって失う可能性のあるものを考えると、できなかった。
信長がこんなに美夜に優しいのは、美夜が帰蝶だと信じて疑わないからだ。
もしも美夜が本物の帰蝶でないと知ったら……信長はいったいどう考え、どう動くだろう。
馬鹿にされたと、道三に対して怒りを向ける可能性もある。それは当然のことかもしれない。
父親である織田信秀だって、黙ってはいないだろう。
当然、美夜は生きてはいられない。そして、兄の雪春も。
雪春の命を守るために信長のもとへ来たのに、その命を美夜が危険にさらすことはできない。
そして、雪春も、美夜の命を守るために、鷺山城に軟禁されることに甘んじているのだ。
(ごめんなさい……やっぱり言えない……)
美夜は信長の胸に顔を埋めながら、心の中で何度も謝罪した。
信長はそっと部屋を出る。
部屋の中では帰蝶が眠っている。
昨日も帰蝶はほとんど眠らず、風呂で倒れた信長の看病をしていたのだから、無理もない話だ。
城の中は相変わらず引っ越しの準備で慌ただしい空気が漂っている。
信長は周囲を確認し、人の姿のないことを確認してから口を開いた。
「……藤ノ助」
部屋を出た信長が名を呼ぶと、いつの間にか一人の男が傍に控えていた。
「そなたに隠密の仕事を与える。美濃に入り、この一年の斉藤家の動向について調べよ。特に、帰蝶に関することだ」
「……御意」
「時間はかかっても構わぬ。くれぐれも気取られるな」
「……承知しました」
「よし、行け」
すぐに藤ノ助の気配は消えた。
(こんなことは……したくはなかったのだがな)
信長は自嘲気味に笑ったが、すぐにその笑みも消えた。
たとえ仮だとか名目だけのものとはいえ、この時代の城主の権限というのは、美夜が考えていた以上のものがあった。
そのおかげで、山のような苦情を言いつつも、信行もその家臣たちも、城主の命令に従い一晩おとなしく城に閉じこもっていてくれたのだ。
ただ、それもあと一日と言われればきっと無理だっただろうが、たとえ仮であっても、美夜が女子であっても、城主という存在にはその程度の効果がある、ということは理解できた。
おそらく、美夜が城主に任じられていたからこそ、信行も美夜に対してあの程度のことしかできなかったのかもしれないとも思う。
だから、信長が美夜に城の宰領を任せていったのは、美夜自身を守るためという意味もあったのかもしれない。
(それにしても……やっぱり信行のことは言えないわね……)
美夜はあの夜のことを思い出し、ため息をつく。
各務野にさえ、まだあの夜の出来事は言っていない。
もしもこのまま二度と信行と接触することがなければ、そして、接触したとしても二人きりになったりするようなことがなければ、気に病む必要のないことだ。
各務野にも信長にも、自分のことで余計な気を遣わせたり、煩わしい想いをさせたくはなかった。
(ただでさえ、信長様は忙しいのに……)
昨夜は城中を大騒ぎさせた信長だが、今日は早朝から精力的に動き回っている。
というのも、信長が事前に宣言していたとおり、那古野城から清洲城へと引っ越すことがさっそく決まったからだ。
信長は今朝からその采配で忙しく、そして各務野たち侍女も引っ越しの準備に忙しく、今日の美夜は少し手持ちぶさた気味だった。
引っ越しの準備を手伝えば良いのだろうが、城のどこへ行ってみても、声をかけるのすらためらわれる状況で『何か手伝えることは?』と聞けるような空気でもなかった。
結局、美夜が手伝うとかえって邪魔になりそうな様子だったので、こうして一人、部屋でおとなしくしているのだが。
「もしかして兄様って……毎日こんな感じなのかな。剣の稽古はしてるって聞いたけど……兄様……大丈夫かしら……」
「義龍がどうかしたのか?」
「ひっ!?」
背後から信長の声が聞こえて、美夜は思わず変な声を出してしまった。
「あ、そ、そう……よ、義龍兄様のことを……その……ちょっと思い出して……」
本物の帰蝶には腹違いの兄がいる。斉藤義龍という男だが、美夜は義龍を見たこともないし、もちろん話をしたこともない。
各務野から情報として義龍と帰蝶の交流についても教えられているが、同じ城で育ったわけでもなく、親族一同が集まる席で数回顔を合わせる程度だったらしい。
だから、本物の帰蝶にとって、おそらく義龍はほぼ他人という感じだったのかもしれない。
(ゆ、油断できない……本当に神出鬼没というか……気を抜いては駄目ね……盗聴器でも仕掛けてあるのかしら……)
とりあえず、早急に話を変える必要を美夜は感じた。
「そ、そういえば信長様、引っ越しの準備で忙しいんじゃ……?」
美夜がそう聞くと、信長は苦笑して肩をすくめる。
「もう俺のすることはなくなった。邪魔になりそうだったから、抜けてきた」
どうやら信長も美夜と同じような状態らしい。
指示を出し終えてしまうと、残りの実務は慣れている人間に任せておくのが一番なのかもしれなかった。
「奇遇ですね。私も邪魔になりそうだから、ここで時間を潰していました」
「引っ越しの準備では、俺たちは何の役にも立たないようだな」
「そうみたいですね」
話が義龍の話からそれてくれてほっとしていると、ふいに信長が美夜の身体を抱きしめてくる。
「の、信長……様……?」
「昨日は戻ったらすぐにそなたを抱くつもりだったのに、それができなかった」
「お風呂で溺れましたからね……」
「だから、今から抱こうと思う」
「え? えっと、まだ外も明るいですし、その……」
「夜まで我慢できそうにない」
「で、でも……こ、こんな昼間からそういうことは……っ……み、みんなばたばたしてますし、そ、それに……もしもだ、誰か来たら……っ……」
「しばらく誰も来るなと言っておいたからそういう心配はするな」
(……ってことは、中で何をしているのかみんな知ってるってこと? それはそれで恥ずかしいというか……)
美夜は顔が熱くなるのを感じた。しかし、信長はもう止まらないようだった。
欲情した目で美夜を見つめ、そのまま顔を近づけてくる。
「信長様……っ……あの……っ……んんんっ!!」
言いかけた美夜の言葉を、信長の唇が塞いだ。
昨日美夜が彼にしたものとはまったく別物の、激しい接吻を信長は繰り返してくる。
「んんっ、ぅっ、の、のぶな……んぅっ、んっく……」
抵抗してももう無駄だと、美夜は諦めた。
それよりも、信長の身体とこうして触れあっているだけで、自分の身体も熱くなり、美夜自身も信長を求めていることに気づく。
(私も……本当はこうしたかった……)
しばらく接吻を続けているうちに、信長の手は美夜の身体をまさぐってくる。
いつもより少し乱暴に触れられているのに、美夜の身体はどんどん熱くなっていくばかりだった。
「ん、ぁっ……んんぅっ、く……んんっ……」
信長は接吻を説くと、美夜の片方の手を、自身の昂ぶりに導いた。
「触って……」
甘えるようにそう囁かれ、美夜は信長のものを手で握りしめる。
熱く硬いそれに触れているだけで、美夜は身体が疼くのを感じた。
先日教えてもらったように手を動かしていくと、信長も美夜の首筋や胸に接吻しながら、愛撫を繰り返してくる。
「ん、ぁ……信長様……っ……んっ、ぁっ、んんっ……」
信長に触れられるだけで身体の力が抜けてしまい、手が止まってしまいそうになる。
(でも……彼にも気持ち良くなってもらいたい……)
美夜はそう思い、信長の愛撫が与えてくる刺激に邪魔をされながらも、懸命に手を動かし続けた。
信長はあらわになった美夜の胸の突起を口に含み、舌でなで上げるようにしてくる。
「んぁっ、や、あっ、んんっ……!」
思わず出てしまう声を止めることができない。
信長のものも、美夜の手の中で脈打っているのを感じる。
(もっと速くすれば……信長様も気持ちいいかな……)
美夜はぎゅっと強く信長のものを握りなおすと、さらに速く手を動かしていった。
信長の息がさらに荒くなるのを感じ、美夜は少し嬉しくなる。
(やっぱり……気持ちいいんだ……)
しかし、美夜が頑張れば頑張るほどに、信長もおとなしくはしていない、
信長の舌や指が肌をくすぐるたび、美夜の身体はびくびくと反応してしまう。
それでも美夜は、信長のものを握りしめた手を動かすのをやめなかった。
「あっ、んっ、あっ、は……ぁっ……んっ、ぅ……」
信長の手が太ももからさらに上へ、そして内側へと進んで行くにつれ、美夜は身体の熱がさらに上昇するのを感じた。
そして、たっぷりと蜜を滴らせるその場所に信長の指が触れた瞬間、身体を跳ね上がらせるように反応してしまう。
「あぁぁっ……!」
それでも美夜は、信長のものを握りしめる手を離さなかった。
信長ももう限界が近いような気がしていた。
手を動かす速度をさらに加速させていく。
「――――っ!!」
信長が息を詰める気配がした。
美夜の手や身体のあちこちに、温かいものが飛び散った。
どうやら信長が先に果てたようだった。
(良かった……)
信長を無事に導くことができて安堵する間もなく、美夜の身体が仰向けに押し倒される。
「……ぁっ……」
信長のものはもう硬さを取り戻しており、美夜の濡れた入り口にあてがわれていた。
信長の唇が再び美夜の唇を塞ぐ。
最初の接吻よりも、信長の息も美夜の息も荒くなっている。
すぐに信長の硬くて熱いものが、身体の奥まで入ってくるのを感じた。
「ああぁっ……あっ、ぁっ……あぁっ!」
身体の奥まで熱いもので満たされていく。
その感覚に堪らず美夜は声をあげていた。
信長は美夜の手を握りしめながら、何度も接吻を繰り返す。
求められているという実感が、美夜の身体をさらに昂ぶらせていく。
すぐに信長は動き始める。
(彼が……本当に私の中にいる……)
身体の中を行き来する信長の存在を感じながら、美夜は信長という人間が、すでに自分になくてはならない存在になっているのだと感じる。
もしも信長を失ったなら……それを考えることすら怖い。
信長の熱の塊が、美夜の身体の奥深くまで貫いていく。
「あ、ぁっ……信長様……っ……ぁぁっ!」
信長が動くたびに熱く濡れた声を漏らしながらも、美夜はどこか冷静な自分を完全に排除しきれない。
(私は……たぶん、彼のことを本気で好きになってしまった……)
美夜は身体の中の信長の存在を強く感じながら、自分の気持ちを理解した。
(そして、彼も『帰蝶』のことを愛し、大切に思ってくれている……)
美夜は信長の背中に手を伸ばして、その身体ぎゅっとを強く抱きしめる。
信長の動きが、さらに強く激しくなり、呼吸もさらに乱れていくのが分かった。
(でも、私は……)
元の世界に戻る方法が見つかったら……偽りの帰蝶であることが知られたら……。
もうこの温もりを感じる資格はなくなってしまう。
(そもそも……今だって私にそんな資格はないのかも……)
美夜は信長の身体にしがみつくようにして揺さぶりに耐えながら、頭の中に浮かんでくる罪悪感を払いのける。
(今はもう何も考えては駄目……考えたって、それしか私の選択肢はないのだから……それよりも、彼に気づかれないようにしないと……)
次第に激しくなってくる信長の動きのおかげで、美夜は何も考えられなくなっていく。
「あっ、ぁっ……あ、ぁっ、信長様……っ……!」
美夜は信長の名を呼びながら、送り込まれる快楽に身を委ねていく。
(全部忘れなきゃ……この人といる時は……全部……)
信長の荒い呼吸にその限界が近づいていることを感じながら、美夜もまた快楽の波に攫われるようにして息を弾ませていった。
「あっぁあ……! あぁぁぁ……!!」
今度は美夜が先に達した。
その後を追うように信長の呻くような声が耳元に聞こえ、身体の中に温かなものが流れ込んでくるのを感じた。
脱力した信長が、美夜の身体に覆い被さってくる。
二人はしばらく重なり合ったまま、乱れた息を弾ませ続けた。
少し呼吸が落ち着いてくると、その名残を惜しむかのように、信長は美夜に何度も接吻をしてくる。
そして、接吻を解いた信長は、美夜の顔をのぞき込みながら笑った。
「安心せい。俺はそなたをおいて逝ったりはせぬ」
「信長様……」
まるで美夜の心の中を見透かしたかのような言葉だった。
「清洲にいるとき、ずっとそなたの顔が浮かんでおった。俺が戻らねば、そなたはどうなってしまうのかと……」
「信長様が戻らないことなんて……考えたくありませんでした……だから、考えないようにしていました……」
「これからも考えずとも良い。俺はどんなことがあっても、必ずそなたの元へ戻る」
「はい……」
信長のその言葉に、美夜は心から安堵するのを感じた。
美夜が嫁いできてから、信長は何度も「俺に何かあれば鈴音に乗って逃げろ」と言い続けていた。
信長はずっと自分が長くは生きられない可能性を意識し続けていた。
もしかすると彼は、生の可能性よりも死の可能性のほうを強く意識し続けてきたのかもしれない。
でも、信長は今、必ず生きるということを宣言してくれている。
「帰蝶も約束をして欲しい。俺を置いてどこにも行かぬと」
「…………」
信長のその言葉に、美夜の思考は一瞬停止してしまう。
そしてその一瞬の間にさまざまなことを考えた。
信長を置いてどこへも行かない……そう言い切ることのできない自分……。
帰蝶であればすぐに『はい』と答えるべきなのに、言葉が出てこない。
嘘でも『はい』と言わなければいけないのに、言葉が出てこなかった。
美夜はこの問いかけに『はい』と答えることができない。
「帰蝶……?」
信長が訝しむように美夜の顔を見ている。
「私……私は……」
(何もかも話してしまいたい……でも、それだけはできない……)
「帰蝶……なぜ泣く?」
信長に言われて、美夜は自分が泣いていることに気づいた。
「ごめんなさい……」
「なぜ謝るのだ?」
信長が美夜の顔をのぞき込む。
「ごめんなさい……」
謝り続ける美夜を、信長が包み込むように抱きしめる。
その温もりや優しさが、今の美夜にとってはかえって辛かった。
「もう泣くな。俺はそなたに泣かれるのが、一番弱いのだ」
信長はただ美夜を抱きしめるだけで、それ以上何も聞いては来なかった。
信長は美夜が何かを隠しているということに気づいているのかもしれない。
いっそすべて話してしまおうかとも思う。
すべてを話してしまうことができれば、どんなに気持ちが楽になるだろう。
だけど、それを話すことによって失う可能性のあるものを考えると、できなかった。
信長がこんなに美夜に優しいのは、美夜が帰蝶だと信じて疑わないからだ。
もしも美夜が本物の帰蝶でないと知ったら……信長はいったいどう考え、どう動くだろう。
馬鹿にされたと、道三に対して怒りを向ける可能性もある。それは当然のことかもしれない。
父親である織田信秀だって、黙ってはいないだろう。
当然、美夜は生きてはいられない。そして、兄の雪春も。
雪春の命を守るために信長のもとへ来たのに、その命を美夜が危険にさらすことはできない。
そして、雪春も、美夜の命を守るために、鷺山城に軟禁されることに甘んじているのだ。
(ごめんなさい……やっぱり言えない……)
美夜は信長の胸に顔を埋めながら、心の中で何度も謝罪した。
信長はそっと部屋を出る。
部屋の中では帰蝶が眠っている。
昨日も帰蝶はほとんど眠らず、風呂で倒れた信長の看病をしていたのだから、無理もない話だ。
城の中は相変わらず引っ越しの準備で慌ただしい空気が漂っている。
信長は周囲を確認し、人の姿のないことを確認してから口を開いた。
「……藤ノ助」
部屋を出た信長が名を呼ぶと、いつの間にか一人の男が傍に控えていた。
「そなたに隠密の仕事を与える。美濃に入り、この一年の斉藤家の動向について調べよ。特に、帰蝶に関することだ」
「……御意」
「時間はかかっても構わぬ。くれぐれも気取られるな」
「……承知しました」
「よし、行け」
すぐに藤ノ助の気配は消えた。
(こんなことは……したくはなかったのだがな)
信長は自嘲気味に笑ったが、すぐにその笑みも消えた。
10
お気に入りに追加
393
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる