夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸

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百四話 憲法を変えることなど

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グリーン侯爵はまず皇帝に挨拶をし、ラウル様と皇女様に型どおりの挨拶をした後、私の元へやって来た。

「久しぶりだな、シャーレット」
「はい、ご無沙汰しております」

私は平然として答えた。
父親とはいっても他人のようなものなので、特に何の感情も動かなかった。

「首都に戻ってきたのなら、うちにも寄れば良かったのに」
「申し訳ありません。慌ただしく過ごしていましたので」
「今回のことは私も寝耳に水だったから、各方面からの問い合わせにも対応できていない。一言言ってくれれば良かったのに」
「お言葉ですが、グリーン侯爵。今回の件は皇帝陛下の勅命で極秘裏に進められたことですので、たとえあなたが父親であっても、シャーレットは言わなかったと思いますよ」

答えにくかったグリーン侯爵の言葉には、皇女様が間に入ってフォローしてくれた。
皇女様の言葉に渋い顔をしたグリーン侯爵は、少し遠慮がちに言ってくる。

「少し二人で話をしたいのだが…」

そう言いながら、会話の行方をチェックしている皇女様をチラリと見る。

「どうぞ、お話ください」

私が言うと、グリーン侯爵はため息をつく。

「そういうことじゃない。離れていた間のこととか、いろいろと気になるから、他の人のいない場所でゆっくり話をしてみたいだけだ」

嫁いでから一度も連絡すらよこさなかった人が、いったい何の話をしたいというのだろう。
それにこの人は、原作では出戻ったシャーレットをすぐに30歳も年上の悪名高い子爵と再婚させた人だ。
そのために、原作のシャーレットは非業の死を遂げている。

(信用するつもりはさらさらないけど…ただ、どんな話をしようとしているのかは気になる)

「では、少しだけ…」
「シャーレット!」

引き留めるように、皇女様が声をあげた。

「大丈夫です、皇女様。すぐに戻ります」

私はそう告げて席を立ち、グリーン侯爵の後を追った。


ひとけの無い廊下でグリーン侯爵は立ち止まり、私の背後に視線を向ける。

「人払いを頼む」

背後には、たぶんラウル様が配慮してくれた護衛の騎士が2名、皇宮警察の警官が1名いた。

「彼らも役目で私に付いてきてくれていますので、ご理解ください。お話はここで聞きます」

これ以上譲るつもりはなかったので、私はそう告げた。
護衛の人たちは私が離れて欲しいと言えば離れてくれるだろうけど…。
心配してくれるラウル様や皇女様のことを考えると、それはしないほうが良いと思った。
グリーン侯爵は護衛の者たちを気にしながらも、話し始めた。

「公爵が養子をとったという話ではないか」
「はい。それが何か?」

どうやらグリーン侯爵が話したかったのは、カイルに関することだった。
ラウル様がカイルを養子として迎えたということは、1週間前には告知されている。

「それが何か、ではない。公爵との子はどうなっている?」
「そういうものは、私たちの好きなようにできることではありませんから」

グリーン侯爵は、私とラウル様の間に子が生まれる前にカイルが養子となったことを不満に思っているらしい。

「とても賢くて良い子です。私にもなついてくれています。私は彼が、長男としてファーレンハイト公爵家を継ぐのが良いと考えています」
「バカなことを言うな!何のために嫁がせたと思ってる!」

(やっぱり…この人って、こういう人よね…女を子どもを産む道具としてしか考えていない…)

貴族令嬢としての教育を受けさせてもらったことについては感謝したいと考えていたけれど…それも、都合の良い良い道具として家門の繁栄のために利用しようとしていただけのこと。

「お話がそれだけなら、失礼します。私は皇女様の侍女でもありますので、あまり長く離れるわけにはいきませんから」
「待て…アグネスアがベーレンドルフ公爵家に嫁ぐのは知っているだろう?」
「あ、そうでしたっけ?」

知ってはいたが、私はすっとぼけた。

「憲法を変えることなど、絶対に阻止しなければならん」

皇宮警察の警官が側にいるせいか、グリーン侯爵は慎重に言葉を選びながら言った。
すでに皇女様への侮辱罪で逮捕された者が出た、ということも伝わっているのだろう。

「それは、お父様も憲法審議会の委員なのですから、正々堂々と主張なさってはいかがですか?」

グリーン侯爵が憲法審議会の委員に選ばれたということは、皇女様から聞いていた。

「では、失礼します」

私が背を向けようとすると、グリーン侯爵が腕をつかんだ。

「待ちなさい。話はまだ終わっていない」
「い…っ…」

捕まれた腕が痛いと思ったけど、すぐに解放された。
警官の青年が、グリーン侯爵の腕をつかんでいた。

「これ以上はお控えください。この方は皇女殿下の侍女ですので、不敬罪に問うこともできますよ」

グリーン侯爵は警官から腕を振りほどく。

「平民のくせに生意気な」

吐き捨てるように言うと、グリーン侯爵は忌々しげに舌打ちしながら立ち去っていった。

「ありがとうございます」
「いえ、うかつに手出しができなかったので、介入が遅れて申し訳ありませんでした。腕は大丈夫ですか?」
「はい。何ともありません。すぐに離してもらえたので」

私がそう言うと、警官の青年は微笑んだ。
少し童顔の、感じの良い人だった。
皇宮警察の警官は怖い人だというイメージが強かったけれど。
こうして守ってもらう立場となると、騎士たちとはまた違った安心感があった。
(前世でも、警察官は怖いイメージと頼りがいのあるイメージの両方があったけど、こちらの世界でも同じなのかもしれない。この人たちがいるおかげで、法と秩序が守られている…)

「それよりすみません…父が失礼なことを…」
「気にしないでください。こういうことは慣れています」

貴族が平民を差別する。
それに慣れていると微笑んで答える姿に胸が痛んだ。

(皇宮警察は、隔たりのある平民と貴族を繋ぐ存在でもあるのかもしれない…)

そう考えると、ラウル様に課せられたものの大きさが、身に染みて感じられる。

(確かにこの役割は…皇女様では難しいところがあるのかも…)
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