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第二話 嫁ぎ先は帝国最北端の地

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前世で夫の浮気・浮気相手の妊娠・離婚・困窮生活などの幸薄い人生を歩んできた私は、ある日交通事故に遭ってあっさり死亡した。

死んだらきっと、神様が少しは同情してくれて、次は幸せな家庭に生まれ変われるだろうと思っていた。
しかし私が目を覚ますと、まるで中世ヨーロッパのような世界の少女に転生していた。

彼女の名前は、シャーレット・グリーン。

侯爵家の令嬢といえば聞こえは良いが、妾の子どもで、しかも母親の妾はこの世から去っており、父親・継母・腹違いの兄姉たちから存在を疎まれるという環境にいた。
実は私が転生したのは、「聖皇女リリア」という私が前世に愛読していた物語の脇役の一人なのだ。
脇役といっても、ほとんど出番はなく、僅かな出番でも幸せな描写が1つもないキャラだった。

そんなシャーレットの物語上の不幸の始まりが、いわくつきの公爵・ファーレンハイトに嫁ぐことから始まる。
シャーレットはファーレンハイト公爵に嫁いで3ヶ月で実家に戻り、激怒した父親によって30歳年上の子爵と再婚させられ、その子爵の愛人から毒を盛られて殺されてしまう。

漫画版では名前が一度出てきただけで、小説版でも合計で4行ほど登場しただけで彼女は物語を去る。
なぜそんな脇キャラのことを私が覚えていたのかというと、私は「聖皇女リリア」を、漫画版・小説版、それぞれ10回以上も読み返していたからだ。
小説版に1行しか出てこないようなキャラでも、もちろん覚えている。
ただ、シャーレットの描写が少なかったため、どの段階でファーレンハイト公爵との結婚の話が出るのかは想像もつかなかった。
まさか、転生してほどないこんな早い段階で出てくるとはーー。

おそらく、ここで私が結婚を断るという選択肢はない。

断れば、ファーレンハイト公爵を飛ばして30歳年上の子爵の元に嫁がされるだろう。
それならば、ファーレンハイト公爵に嫁ぎ、出戻りせずに居座るのが私がこの世界で生き抜く唯一の方法だ。

「シャーレット?」

グリーン侯爵が怪訝そうに私の顔を見つめている。

「はい、お父様。喜んでファーレンハイト公爵様の元へ嫁がさせていただきます」

私が満面の笑みでそう答えると、侯爵家の人たちはうわべだけの祝福の言葉を次々に口にした。

ビョオオォォッと、前世でも映画を見たときぐらいしか聞いたことのないような音が響き渡っている。
首都を出た時には秋の始めだったはずなのに、ここ帝国の最北端にあるファーレンハイト公爵領は、一面の雪景色…どころか、気を抜けば城門が目の前なのに遭難してしまいそうな猛吹雪。

「さ、寒い…」

東京生まれの東京育ちの私にとって、この寒さは生まれて初めて感じる過酷なものだった。

「それではお嬢様。私たちはこれで失礼します」

私を送り届けた侯爵家の家臣と御者たちを乗せた馬車が、いそいそと私を置いて首都へと戻っていく。

「この吹雪で、無事に帰れるのかしら…」

馬車を見送ってから、私は固く扉が閉じた鉄の門扉を見上げる。
ファーレンハイト公爵家は、この最北端の領地を守るべく、城という形をとっている。
ここより北方は魔物が生息しており、帝国領内に魔物が侵入しないように阻止するのが、ファーレンハイト公爵に与えられた皇命だった。

ただし、ファーレンハイト公爵は、かつて魔女の呪いを受けて重症を負っており、現在は自らが戦場に赴くことはできず、公爵家の騎士団がその役割を担っているという。

公爵がどんな呪いを受けたのかということは、原作のどこにも描かれていなかった。
ファーレンハイト公爵の描写は、かつて帝国の功臣だったという過去形で描かれることが多く、事実上の引退状態である現在進行形で描写されているシーンはなかったのだ。
そのため、公爵がどんな呪いを受け、どういう状態なのかということは、これから知ることになる。

「奥様、ようこそファーレンハイト公爵家へ」

門番に到着を伝えてあったので、頑丈な鉄の門が開かれ、執事と見られる初老の男性が出迎えてくれた。

「ありがとう。お世話になります」

執事はうやうやしく挨拶をすると、私を城の中へと招き入れた。
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