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自由の始まり

模擬戦と勝利

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 ベイルのこの言葉で修練場にいる人達が一気に黙り、
 異様な緊張感があった。

「フィオナ合図を出してくれ。」

「はい。分かりました。」

(フィオナさん居たんだ…
 しかも知らない間にタマモを抱いてるし。)

「それでは…始め!」

 その言葉を聞いて余計な思考は一切なくなったアオヤはベイルの方へ視線を向けながら刀に手をかけて腰を落とした()居合の構えで待ち受ける。

 対するベイルは自然な体勢で大剣を構え、こちらの出方を伺っている。

 膠着状態が五分程続き先に動き出したのはアオヤだ。

(模擬戦だし、胸を借りるつもりでこちらから行こう)

 居合の構えのまま体勢を少し前傾気味に倒し、縮地を使い一気にベイルの懐まで入り抜刀する

(ッッ!速い!)

 ベイルは縮地と居合の速さに驚愕し、すぐに大剣を防御に回してこの攻撃を凌いだ。

「縮地と抜刀か、そのコンボは見た事あるが今まででダントツの速さだぞ。それに威力もある。並のやつなら頭と胴体がお別れしてたな。」

(まあ当然防がれるよな)

「次はこっちから行くぞ」

 そう言いながらこちらの方にかなりのスピードで走ってきた。それをアオヤは正面から受け止めるつもりで構えた。

 ベイルはそれを見て口角を吊り上げながら縮地を使い大剣を振り下ろした。

 その直後辺りに響いた轟音。

 その衝撃で砂埃が舞い2人の姿を隠した。

 周りにいた人達はその音を聞いて、
 勝敗は決したと判断した。

 だが、砂埃が晴れたそこには大剣を地面に叩きつけ、首元に刀を突きつけたアオヤの姿があった。

 その姿を見て周りの人達は驚愕し、
 ガヤガヤと各々言葉を発し始めた。

「おっおい、ギルマス負けちまったぞ」

「あぁ流石にビックリしたぜ」

「なぁあの一瞬で何があったんだ?」

 今の攻防が分かったのはここにいるやつの中には
 数人しかいなかった。

 そう今の攻防は縮地を使い、一瞬で間合いを詰めたベイルが大剣を振り下ろす瞬間にアオヤ受け止めるのではなく受け流す事を選択した。

 そして受け流した直後、体勢を崩したベイルの首に即座に刀を突きつけたのだ。

「まさかあそこですぐ様受け流しに変えてくるとは思わなかったぜ」

「あのまま受けても折れはしなかっただろうけど、
 手が痺れて刀を落として終わりだったからな」

「はっはっやるじゃねーか。
 まぁ準備運動はこれくらいにして本番にするか」

「あぁいいぞ」

 その言葉に周りの人達に何度目かわからないほどの驚きを与えた。



「次はこっちから行かせてもらう」

 そういい、ベイルは再び大剣を構えてスキルを発動した。

「身体強化、剛力」

 その言葉の後にベイルの動きが更に上がりパワーが段違いになった。

 そしてそこからベイル猛烈な攻撃が始まる。

 振り下ろしからの切り上げ、袈裟切りからの回転切り、
 その攻撃を身体強化なしのアオヤは何とか受け流しと回避でやり過ごす。

 ベイルの攻撃の後には風を切る物凄い音が鳴っていた。
 その音で分かるように一撃でも貰えば致命傷になりかねない程の威力を秘めていた。

(これは当たったらヤバイな。
 受け流しもパワーの上がったせいで
 衝撃を上手く流せてないから手が若干痺れてきた)

 このままでは埒があかないと悟ったアオヤは魔法の使用を解禁する。

「ライトニング」

 その魔法名を唱えた直後、ベイルに向かって紫電が走った。

 それを見たベイルは嫌な予感がして咄嗟に左に避けた。

 それでも完璧には避けきれず右の肩には軽い火傷が燃えて黒くなった肩口から見えた。

「無詠唱でいきなり魔法かよ」

「詠唱なんてやってたらいい的だろ」

 アオヤからしたら詠唱なんて無駄でしかないのだ。

 それをこの世界の人々は当たり前のように使ってる。

 これが魔法が発達し、科学が発達しなかった根源だとアオヤは思った。

 魔法とは、自論だが現象を明確にイメージして
 それを魔力に添えて放出するそれだけなのだ。

 そうなれば話は簡単だ。

 異世界人であるアオヤは科学知識を持ってるので、
 明確なイメージをして魔法を使ってるので
 詠唱要らずなのだ。

「さてと、俺もそろそろ本気を出すよ。雷纒ライテン

「ッッ!!何だその姿は」

「ん?あぁ、魔法を纏ったんだよ」

 その言葉に更に驚愕した表情をしたベイル。

 武器に属性を纏わせる者はいた。
 だが、全身に纏った者は未だかつていない。

 何故なら今まで確かに、魔法が得意なやつが魔力操作を使って何度か試した事はあるだろう。

 火属性で、試したものは全身に火傷を負い、
 風属性なら肌を切り刻まれ、
 土魔法なら石に潰された。
 このことから今では試す者はいなくなり、
 その研究すらしなくなった。

 その事実を知る元A rank冒険者はとてつもない程驚愕した。

 そう、気力操作が無ければ身体を保護できないのだ。
 魔力が作用するのは放出する時、
 つまり身体の外に出た時だ。

 この時、気力を纏って無ければ自分の魔法に身体を包まれる事になる。

 その後どうなるかは想像できるだろう。

 気力操作が有れば身体に膜を張れるので、安全なのだ。

「まぁ理由は後で教えてあげるよ。
 それより準備はいいか?
 さっき完成したばかりだから
 制御が甘いから気をつけてくれ。」

「おっおい!」

「それじゃあ行くぞっ!」

 そう言った瞬間ベイルの目の前からアオヤは消えた。

 その直後左から物凄い衝撃が襲ってきた。

「かはっ!」

 その衝撃で血を吐きながら
 修練場の壁に吹っ飛んでいった。

 そして、轟音で我に返ったアオヤは一言。

「やば。やり過ぎた」

 その一言でフィオナと冒険者達。

「ッッ!!すぐに担架を持ってきてください。
 あと、回復魔法使える人は来てください」

 迅速な指示を出して、行動をしていくが
 次の瞬間にはその動きは止まった。



 ベイルが飛んで行った壁の瓦礫から音がして、
 視線をそちらに向けるとボロボロになり
 血を流しながらも立ち上がって
 こちらに歩いて向かってくる
 ベイルの姿があった。

「いってーな。俺じゃなかったら死んでるぞ」

「悪い。制御が甘いから加減できなかった。
 だが、ベイルなら耐えられると思ったよ」

「だろうな。何の根拠があってだよ。まったく。
 それにしても全く見えなかったぜ、あの攻撃は。
 新人で盗賊退治もそうだか、模擬戦で俺に勝ったんだ、
 とんだ新人だよ。お前はよ。
 兎も角、この模擬戦はお前の勝ちだアオヤ」



 その宣言とともに修練場は
 大きな拍手と歓声が上がった。












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