77 / 80
挿話
夏季休暇と避暑地 3
しおりを挟む
その後クリスと一緒にお茶をして歓談し、また夕食に、と言い合って彼は部屋を退出した。
夕食は和やかに別荘の料理長渾身の料理に舌鼓を打って過ごし、ゆったりとしたお風呂で湯浴みをした後、ベッドへと入って夢の中へゆく準備をする。
二泊三日ですけれど、たくさん、クリスと一緒にいられたらいいですわ、ね……。
ソファ以上にふかふかのベッドは、わたくしの瞼を優しく下へと誘って。
やがて、流石に移動で疲れたのか、夢も見ず朝までぐっすりと眠ったのだった。
翌朝。
わたくしはアンナに着替えを手伝ってもらっていた。
今日のドレスは避暑地に合うように、動きやすいシンプルさと、けれど洗練された格式に負けない物をと少し気合を入れている。
着替え終わったと同時に、コンコンとノックの音が部屋に響いた。
と同時にバァン! とドアが開けられる。
「お邪魔しますわよ!!」
……えっと、どなたかしら?
わたくしは面食らったまま小首を傾げながら、思案した。
ちらりと相手の姿を観察することも、忘れない。
ここは王族所有の別荘、そして目の前のお方はわたくしよりかは年下でいらっしゃる。
確かクリスには、
「! 着替え中でしたのね、わたくしったら、ごめんなさい」
先程の勢いは何処へやら。
可愛らしい花のモチーフがところどころについたドレス、金の髪に深海色の瞳で柔和な顔立ちのその子は、みるみるうちにしゅんとなってしまった。
わたくしは慌ててお声がけをする。
「お気になさらないでください、王女殿下。ただ、ノックの後は、相手のお返事を待ってさしあげたらいいかもしれませんわね」
気に病まないよう、微笑むのも忘れない。
この国の第二王女であるベル王女殿下は、わたくしのその言葉に顔を輝かせた。
「ありがとう。えっと、わたくしベルというの。あなたがこちらに来訪してるってお兄様から、聞いて、会ってみたくて…… あのっ! 良ければ朝食の後に近くの湖畔に一緒に遊びにいきませんことっ?!」
確か十二歳と聞いている。
言いながら照れている様は、なんともお可愛らしかった。
クリスの妹なのだから、わたくしにとっても恐れ多くはあるけれど妹になる、仲良くなりたかったし否はなかった。
「はい、喜んで」
湖畔に遊びに行く約束と共に丁寧に退室のお願いをし、その後髪を整えてもらって朝食に向かった。
食堂ではクリスとベル王女殿下が既に揃っていて、一緒に朝食を取る。
「だからあれ程、ノックしろ、ノックの後は待てって言っただろう?」
「メルティアーラ様にがっついてるお兄様には、言われたくありませんわっ!!」
兄妹仲がとても良いようで、言い合いながらもその姿はとても楽しそうだ。
今もベル様は膨れっ面をしながらも、その瞳は微笑んでいる。
食べながらの歓談で、王女にベルと呼んで欲しいとせがまれ、クリスにもお願いされたので「ベル様」とお呼びすることになった。
わたくしのことは、メルティとお呼びくださいとお願いした。
「嬉しいですわ! ミリーナ姉様は他国に嫁がれてしまわれたし……わたくし、もう一人お姉様が欲しかったの」
そう言って微笑んだベル様は、本当に嬉しそうにはにかんでいて。
自身の昔の事も思い出して、懐かしくなった。
わたくしもそういえば、姉か妹が欲しかったのにってお母様に言ったことが、そういえばありましたわ。
目の前の彼女に自分の幼い頃を重ねながら、和やかに朝食の時間は過ぎていったのだった。
夕食は和やかに別荘の料理長渾身の料理に舌鼓を打って過ごし、ゆったりとしたお風呂で湯浴みをした後、ベッドへと入って夢の中へゆく準備をする。
二泊三日ですけれど、たくさん、クリスと一緒にいられたらいいですわ、ね……。
ソファ以上にふかふかのベッドは、わたくしの瞼を優しく下へと誘って。
やがて、流石に移動で疲れたのか、夢も見ず朝までぐっすりと眠ったのだった。
翌朝。
わたくしはアンナに着替えを手伝ってもらっていた。
今日のドレスは避暑地に合うように、動きやすいシンプルさと、けれど洗練された格式に負けない物をと少し気合を入れている。
着替え終わったと同時に、コンコンとノックの音が部屋に響いた。
と同時にバァン! とドアが開けられる。
「お邪魔しますわよ!!」
……えっと、どなたかしら?
わたくしは面食らったまま小首を傾げながら、思案した。
ちらりと相手の姿を観察することも、忘れない。
ここは王族所有の別荘、そして目の前のお方はわたくしよりかは年下でいらっしゃる。
確かクリスには、
「! 着替え中でしたのね、わたくしったら、ごめんなさい」
先程の勢いは何処へやら。
可愛らしい花のモチーフがところどころについたドレス、金の髪に深海色の瞳で柔和な顔立ちのその子は、みるみるうちにしゅんとなってしまった。
わたくしは慌ててお声がけをする。
「お気になさらないでください、王女殿下。ただ、ノックの後は、相手のお返事を待ってさしあげたらいいかもしれませんわね」
気に病まないよう、微笑むのも忘れない。
この国の第二王女であるベル王女殿下は、わたくしのその言葉に顔を輝かせた。
「ありがとう。えっと、わたくしベルというの。あなたがこちらに来訪してるってお兄様から、聞いて、会ってみたくて…… あのっ! 良ければ朝食の後に近くの湖畔に一緒に遊びにいきませんことっ?!」
確か十二歳と聞いている。
言いながら照れている様は、なんともお可愛らしかった。
クリスの妹なのだから、わたくしにとっても恐れ多くはあるけれど妹になる、仲良くなりたかったし否はなかった。
「はい、喜んで」
湖畔に遊びに行く約束と共に丁寧に退室のお願いをし、その後髪を整えてもらって朝食に向かった。
食堂ではクリスとベル王女殿下が既に揃っていて、一緒に朝食を取る。
「だからあれ程、ノックしろ、ノックの後は待てって言っただろう?」
「メルティアーラ様にがっついてるお兄様には、言われたくありませんわっ!!」
兄妹仲がとても良いようで、言い合いながらもその姿はとても楽しそうだ。
今もベル様は膨れっ面をしながらも、その瞳は微笑んでいる。
食べながらの歓談で、王女にベルと呼んで欲しいとせがまれ、クリスにもお願いされたので「ベル様」とお呼びすることになった。
わたくしのことは、メルティとお呼びくださいとお願いした。
「嬉しいですわ! ミリーナ姉様は他国に嫁がれてしまわれたし……わたくし、もう一人お姉様が欲しかったの」
そう言って微笑んだベル様は、本当に嬉しそうにはにかんでいて。
自身の昔の事も思い出して、懐かしくなった。
わたくしもそういえば、姉か妹が欲しかったのにってお母様に言ったことが、そういえばありましたわ。
目の前の彼女に自分の幼い頃を重ねながら、和やかに朝食の時間は過ぎていったのだった。
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?
蓮
恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ!
ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。
エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。
ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。
しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。
「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」
するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】
幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。
そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。
クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる