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番外編 王子side
〜婚約者でいたい王子と洗わない手〜
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「ふ、ふふふふふふふ」
十五の俺は今いそいそと、手袋についてどれが良いか悩んでいる。
沢山出して見比べていると、ノックも無しにバン! と部屋のドアが開いた。
「お兄様入りましてよ!」
「……おいベル。お前もそろそろ立派な淑女の仲間入りなのだからあれ程ノックをと――」
「あいにくと、メルティ様馬鹿で妹しゅき! とか言っちゃうお兄様を、うやまって淑女らしくする必要性を見出せませんの」
「……愛が、痛い」
初っ端から俺への酷評を口に出して憚らないのは、俺の妹であるこの国の第二王女、ベル=ウルリアン十二歳だ。
六つ位まではおにいさまおにいさま、とちょこまか後ろをついて歩いていたのが、この頃なんだかやけに辛辣である。
「あら? お兄様なぜ今手袋なんて選んでいますの?」
「よくぞきいてくれたベルよ! 俺は先程メルティの見舞いに行ってな。あ、勿論こっそりとだぞ、表立って行く資格が、ないからな。そしたらなんと! 俺の手を握って彼女が好きだと言ってくれたんだ!! だから手袋を選んでいる」
俺はなるべく真剣さが伝わるよう、妹にキリッとした表情で伝えた。
「さっぱりわかりませんわこの変態」
妹は俺と同じ髪色と瞳の色をしているが柔和な顔立ちだというのに、俺のつり目がちな瞳以上にキレのある一言で俺の心を突き刺した。
「へ、へへへ、へんたい……。お、おにいちゃん、ベルがそんな言葉使うだなんて、かなしいなぁ」
「変態」という言葉を十二歳が使う、しかも王族という心象の大事な家柄の生まれである彼女が、というのを兄として少し諫めた方がいい気もして、俺はあえて情に訴えながらの矯正を試みた。
「もちろん、対外的には使いませんわよ? 家族だから使える言葉もある、というのをわたくしお勉強しましたの」
「そうか、ベルは偉いな。けど、目上である兄にそのような言葉は使っては駄目だぞ?」
「年上でも……尊敬できない部分や、いさめなくてはいけない部分はあるのではなくて? お兄様」
「ぐっ……」
「今お兄様もそう思って、わたくしに言ったのでしょう?」
「かはっ」
ベルはど正論で俺の兄である矜持を打ち砕いた。
「もしかして、その事をメルティ様に打ち明けて、あわよくば両思いに、なんて思っていませんこと?」
「な、なぜそれを……」
「妹だからお見通しですの。メルティ様のお気持ちを知ったのなら、なおさら。女の子は好きな人の前では可愛くありたいものですわ。寝込みをおそうかのようにして知った事なら、紳士らしくないしょにするのが想う人の努めではないかしら?」
ベルは、可愛らしく人差し指を唇に押し当てながら俺に一生懸命伝える。
お兄ちゃんは負けた。
妹可愛い、しゅき。
「……どうしても、内緒じゃないと、駄目か?」
「はい。駄目、です」
「どうしても、どうしてもか?」
「はい。駄目、です」
「……せめて手を洗わずにいるのは」
「きもい、ですわお兄様」
「!!」
「どうせなら、次はもっと長く手を繋いでいられるように、とか。人前で堂々と、とか。もっと恋人になる為に動くきょうじを、わたくしなら見せてほしいですわ。そんなへんたいこーいではなくて」
ベルは、妹のかわいい意見、お兄様ならきいてくれるでしょう? と小首を傾げながら得意満面に笑う。
ベル、しゅき。
俺は妹の可愛さに負けた。
そして手袋は選ばないままになって。
男泣きを心の中でしながら、ベルと一緒に手を洗いに行った。
それでも諦めきれなくて、何か俺の中での痕跡が残したくて。
未練たらしく、彼女に昔を思い出させるかもしれない意匠のノートとイブリスの花を差し入れしたのは、ベルには内緒だ。
十五の俺は今いそいそと、手袋についてどれが良いか悩んでいる。
沢山出して見比べていると、ノックも無しにバン! と部屋のドアが開いた。
「お兄様入りましてよ!」
「……おいベル。お前もそろそろ立派な淑女の仲間入りなのだからあれ程ノックをと――」
「あいにくと、メルティ様馬鹿で妹しゅき! とか言っちゃうお兄様を、うやまって淑女らしくする必要性を見出せませんの」
「……愛が、痛い」
初っ端から俺への酷評を口に出して憚らないのは、俺の妹であるこの国の第二王女、ベル=ウルリアン十二歳だ。
六つ位まではおにいさまおにいさま、とちょこまか後ろをついて歩いていたのが、この頃なんだかやけに辛辣である。
「あら? お兄様なぜ今手袋なんて選んでいますの?」
「よくぞきいてくれたベルよ! 俺は先程メルティの見舞いに行ってな。あ、勿論こっそりとだぞ、表立って行く資格が、ないからな。そしたらなんと! 俺の手を握って彼女が好きだと言ってくれたんだ!! だから手袋を選んでいる」
俺はなるべく真剣さが伝わるよう、妹にキリッとした表情で伝えた。
「さっぱりわかりませんわこの変態」
妹は俺と同じ髪色と瞳の色をしているが柔和な顔立ちだというのに、俺のつり目がちな瞳以上にキレのある一言で俺の心を突き刺した。
「へ、へへへ、へんたい……。お、おにいちゃん、ベルがそんな言葉使うだなんて、かなしいなぁ」
「変態」という言葉を十二歳が使う、しかも王族という心象の大事な家柄の生まれである彼女が、というのを兄として少し諫めた方がいい気もして、俺はあえて情に訴えながらの矯正を試みた。
「もちろん、対外的には使いませんわよ? 家族だから使える言葉もある、というのをわたくしお勉強しましたの」
「そうか、ベルは偉いな。けど、目上である兄にそのような言葉は使っては駄目だぞ?」
「年上でも……尊敬できない部分や、いさめなくてはいけない部分はあるのではなくて? お兄様」
「ぐっ……」
「今お兄様もそう思って、わたくしに言ったのでしょう?」
「かはっ」
ベルはど正論で俺の兄である矜持を打ち砕いた。
「もしかして、その事をメルティ様に打ち明けて、あわよくば両思いに、なんて思っていませんこと?」
「な、なぜそれを……」
「妹だからお見通しですの。メルティ様のお気持ちを知ったのなら、なおさら。女の子は好きな人の前では可愛くありたいものですわ。寝込みをおそうかのようにして知った事なら、紳士らしくないしょにするのが想う人の努めではないかしら?」
ベルは、可愛らしく人差し指を唇に押し当てながら俺に一生懸命伝える。
お兄ちゃんは負けた。
妹可愛い、しゅき。
「……どうしても、内緒じゃないと、駄目か?」
「はい。駄目、です」
「どうしても、どうしてもか?」
「はい。駄目、です」
「……せめて手を洗わずにいるのは」
「きもい、ですわお兄様」
「!!」
「どうせなら、次はもっと長く手を繋いでいられるように、とか。人前で堂々と、とか。もっと恋人になる為に動くきょうじを、わたくしなら見せてほしいですわ。そんなへんたいこーいではなくて」
ベルは、妹のかわいい意見、お兄様ならきいてくれるでしょう? と小首を傾げながら得意満面に笑う。
ベル、しゅき。
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そして手袋は選ばないままになって。
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それでも諦めきれなくて、何か俺の中での痕跡が残したくて。
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