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番外編 王子side
〜婚約者になれない王子はあの子に会うため変装する〜
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「…ふふふふふ。ついに、オレはやったぞ!!」
九つの頃、オレは自分の部屋で悦に入っていた。
なぜか?
それはついに!
師匠監修のもと、完璧な変装技術を手に入れたからに他ならない!!
「ふははははは! やった、これで彼女に逢いに行けるっ」
両手を握り拳にし、オレは頭上高くに突き出した。
数日後、早速ピクニック先にストーキングしたオレは、あの子――メルティと話してうはうはになった。
笑顔にできたんだからそれはもう、有頂天だ。
ベッドでゴロンゴロンしながら、あの子の笑顔を反芻した。
何度も。
何度も。
何度も。
浮かれ過ぎてお茶を持ってきたトレーで何回かジャンに頭を叩かれた。
どうやら、肝心の話を何も聞いていなかったらしい。
けどちっとも痛くない。
「はぁーっ……」
専属執事のため息なぞ、今のオレにはちっとも響かん!
オレは最高にいい気分だった。
彼女が避暑地から帰る前に、その幸運と苦難の機会はやってきた。
その日はその地域のお祭りで、出店が色々と出るらしかった。
俺はピクニックの日とは違う出で立ちで彼女を尾行し、見守っていた。
と、彼女は一緒に来ていた家族とはぐれてしまう。
気丈にも泣かずにいた彼女は、人混みの中で大人とぶつかってこけてしまい、尻餅をつく。
「あっ!」
オレは見守るだけと思っていたのを忘れて、すぐに手を出すために駆け寄ってしまっていた。
「大丈夫か?」
手を出した先の彼女は、今にも泣きそうで。
けどオレが声をかけると心配させまいと、ぐっと涙をこらえたらしかった。
「ありがとう」
鈴のような声がして、差し出した手が握られる。
それはとても柔らかくて、オレのそれより少し小さく感じた。
あったかい。
そう思ったらもうダメで。
オレの頬がめちゃくちゃ熱を持った。
夕方で良かった、きっと昼なら真っ赤になっただろうオレの頬が丸見えで、きっと怪しまれてしまうから。
「迷子か?」
なるべく動揺を悟られないように、平坦にきく。
彼女は家族と来たこと、はぐれてしまったこと、迷子になった時の待ち合わせ場所があることを話した。
「そこならオレ知ってるから、案内してやるよ」
「ほんと? ありがとう!」
オレ達は人混みをかき分けながら、少し話をしつつ、目的地へと向かった。
ごみごみした中を歩くのに慣れてないのか、彼女は少し遅れながらついてきていて、オレは離れ過ぎないようにチラチラと振り返りながら前へ進む。
手を繋げられたらよかったのかもしれないが、オレにそんな上等テクニックは無理だった。
嬉し恥ずか死ぬからな!
と、不意に彼女が誰かとぶつかって手に持っていた品物を落としてしまった。
誰かが拾って走り去る。
「あっ、待って! それ私のよ!!」
オレが走っていって捕まえてもよかったけれど、またはぐれて、今度は彼女が拐かされてもいけない。
そう考えてしまって、動くことができないうちにその相手の背中は見えなくなった。
「……大事な、ものだったのか?」
尋ねる声に、彼女はただ震えて、こくんと頷いた。
何だか気まずくて、それ以上は聞けずに二人で待ち合わせ場所まで歩いた。
目的地までもう少し、といったところでオレは勇気を出して鞄の中に入れていた、今日つい購入していた物を取り出すと彼女に押し付けた。
「これ、やる」
「……え?」
「そっ、その、他意はない! ただ、まぁ、貰っとけ」
「でも……」
「もっ、目的地についたぞ、あれ、お前のかーちゃんじゃね? じゃあな!!」
俺は居た堪れなくて、逃げた。
それはもう全速力で、逃げた。
その日の夜、オレは相変わらず自分のベッドで悔し泣きしていた。
「ぼっちゃま、夕食の準備が整いましてございます」
「……ぼうずごじぢだら、いぐ」
ジャンはいつでも容赦が無い。
「冷たい手拭きをご用意しておきますので、目元を冷やしてからお向かいなさいませ」
前言撤回。
時に良い奴だ。
「……あの子、泣いてないかな?」
「フォローはしたのでしょう? でしたら、少し泣いて、元気になりますよ。女の子はキラキラしたもので気分が上がるそうでございますし」
「だと、いいな……」
オレは目を手拭きで冷やしながら、あの子を思う。
渡したものは、彼女のイメージだったから手に取った、ピンクと白のイブリスの花を形取った意匠のついた、髪飾りだった。
付けたらきっと似合う。
見ることが叶うかわからないけれど、あの子――メルティが付けているところを妄想して、オレはいつもの通りゴロンゴロンしたのだった。
九つの頃、オレは自分の部屋で悦に入っていた。
なぜか?
それはついに!
師匠監修のもと、完璧な変装技術を手に入れたからに他ならない!!
「ふははははは! やった、これで彼女に逢いに行けるっ」
両手を握り拳にし、オレは頭上高くに突き出した。
数日後、早速ピクニック先にストーキングしたオレは、あの子――メルティと話してうはうはになった。
笑顔にできたんだからそれはもう、有頂天だ。
ベッドでゴロンゴロンしながら、あの子の笑顔を反芻した。
何度も。
何度も。
何度も。
浮かれ過ぎてお茶を持ってきたトレーで何回かジャンに頭を叩かれた。
どうやら、肝心の話を何も聞いていなかったらしい。
けどちっとも痛くない。
「はぁーっ……」
専属執事のため息なぞ、今のオレにはちっとも響かん!
オレは最高にいい気分だった。
彼女が避暑地から帰る前に、その幸運と苦難の機会はやってきた。
その日はその地域のお祭りで、出店が色々と出るらしかった。
俺はピクニックの日とは違う出で立ちで彼女を尾行し、見守っていた。
と、彼女は一緒に来ていた家族とはぐれてしまう。
気丈にも泣かずにいた彼女は、人混みの中で大人とぶつかってこけてしまい、尻餅をつく。
「あっ!」
オレは見守るだけと思っていたのを忘れて、すぐに手を出すために駆け寄ってしまっていた。
「大丈夫か?」
手を出した先の彼女は、今にも泣きそうで。
けどオレが声をかけると心配させまいと、ぐっと涙をこらえたらしかった。
「ありがとう」
鈴のような声がして、差し出した手が握られる。
それはとても柔らかくて、オレのそれより少し小さく感じた。
あったかい。
そう思ったらもうダメで。
オレの頬がめちゃくちゃ熱を持った。
夕方で良かった、きっと昼なら真っ赤になっただろうオレの頬が丸見えで、きっと怪しまれてしまうから。
「迷子か?」
なるべく動揺を悟られないように、平坦にきく。
彼女は家族と来たこと、はぐれてしまったこと、迷子になった時の待ち合わせ場所があることを話した。
「そこならオレ知ってるから、案内してやるよ」
「ほんと? ありがとう!」
オレ達は人混みをかき分けながら、少し話をしつつ、目的地へと向かった。
ごみごみした中を歩くのに慣れてないのか、彼女は少し遅れながらついてきていて、オレは離れ過ぎないようにチラチラと振り返りながら前へ進む。
手を繋げられたらよかったのかもしれないが、オレにそんな上等テクニックは無理だった。
嬉し恥ずか死ぬからな!
と、不意に彼女が誰かとぶつかって手に持っていた品物を落としてしまった。
誰かが拾って走り去る。
「あっ、待って! それ私のよ!!」
オレが走っていって捕まえてもよかったけれど、またはぐれて、今度は彼女が拐かされてもいけない。
そう考えてしまって、動くことができないうちにその相手の背中は見えなくなった。
「……大事な、ものだったのか?」
尋ねる声に、彼女はただ震えて、こくんと頷いた。
何だか気まずくて、それ以上は聞けずに二人で待ち合わせ場所まで歩いた。
目的地までもう少し、といったところでオレは勇気を出して鞄の中に入れていた、今日つい購入していた物を取り出すと彼女に押し付けた。
「これ、やる」
「……え?」
「そっ、その、他意はない! ただ、まぁ、貰っとけ」
「でも……」
「もっ、目的地についたぞ、あれ、お前のかーちゃんじゃね? じゃあな!!」
俺は居た堪れなくて、逃げた。
それはもう全速力で、逃げた。
その日の夜、オレは相変わらず自分のベッドで悔し泣きしていた。
「ぼっちゃま、夕食の準備が整いましてございます」
「……ぼうずごじぢだら、いぐ」
ジャンはいつでも容赦が無い。
「冷たい手拭きをご用意しておきますので、目元を冷やしてからお向かいなさいませ」
前言撤回。
時に良い奴だ。
「……あの子、泣いてないかな?」
「フォローはしたのでしょう? でしたら、少し泣いて、元気になりますよ。女の子はキラキラしたもので気分が上がるそうでございますし」
「だと、いいな……」
オレは目を手拭きで冷やしながら、あの子を思う。
渡したものは、彼女のイメージだったから手に取った、ピンクと白のイブリスの花を形取った意匠のついた、髪飾りだった。
付けたらきっと似合う。
見ることが叶うかわからないけれど、あの子――メルティが付けているところを妄想して、オレはいつもの通りゴロンゴロンしたのだった。
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