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番外編 王子side
〜彼女の以下略な王子は自分の良さを布教したい〜
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「……作家に頼むべきだろうか……」
十四の夏、俺は真剣に悩んでいた。
トントン
「入るぞ~!」
了承を返す暇もなく兄弟は入ってくる。
「え、ちょ、マリオン兄上何やってるんだ?! 俺まだ返事してないんだから入ってこないでくれよ」
「何言ってんの、オレとお前の仲だろ? 気にするな!」
「いやそれ、俺こそが言える台詞だぞ、兄上」
盛大にため息をつきながら呆れかえる。
「で。今度は何をしたんだ兄上」
「いや……ちょっと可愛い子が入ってきてたのを見つけてサ。挨拶程度に声をかけていたら勘違いをされちゃったみたいで。相手を正気に戻すまで顔見せんな! って言われたから、クリスんとこに避難してきたってワケ」
うん、要は可愛い子がいたからつまみ食いしたら、一夜じゃなくて真剣交際志望系女子で、結婚迫られたから慌てて逃げてきた、んだな兄上は……。
兄上付きの執事も御苦労なことだ、今頃青筋立てながら件の令嬢を説得してるんだろう。
俺より三つ上のこの兄上は、第二王子にして将来臣籍降下後に外交官になるべく現在勉強中だ。
人誑しの才が元々あったらしく、また本人もそれを非常に楽しいと思っているようだった。
けれどこの“楽しい”ってやつが少々厄介で……そう、極度の女好きなのである。
なまじ顔が良いのと技術があるのですぐ釣れる、入れ食い状態だ。
今までは幼かったからか自重…………してなかったな、確か兄上が十三の頃に未亡人の淑女と自分の部屋へと消えていったのを、見た……。
思えばあれも、それも……いや、考えるのはよそう。
兄上は今までは自重……していたが、十六になって婚約すると豹変した。
意に沿わぬ婚約だったのか、最後の遊び期間と思ったのか、途端遊び人になった……そして今に至る。
「しょうがない。いても良いけど邪魔しないでくれよ?」
「ん~? なになに? 『メルティの好きなところ、一、可愛い。二、愛らしい。三、天使。』――――なぁ、コレ何?」
「メルティの父上に前々から婚約の打診をしてるんだが、色良い返事がもらえなくて……俺が彼女をどれだけ好きか、どれだけ大切にできるかを書面にして見てもらおうかと思って」
「え、ちょっと待て、お前まだ婚約できてなかったのか?!」
なんで……と呟く兄上に、それは俺が聞きたい、と思う。
思えば齢八歳の俺はとても猪突猛進だった。
結婚したくてでも既に婚約済みだった彼女を、どうしても、どうしても手に入れたくて。
まずは父上にお願いした。
婚約するなら彼女がいいと駄々をこねた。
それから次いで宰相である彼女の父上に、仕事で登城している時に直談判した。
「俺よりメルティを大事にできる奴なんていない!!」
と、豪語して。
けど即座に論破された。
子供相手でも父上は容赦なかった。
けど今は、何となくだけれどわかっている。
俺が王子だから、俺は退けられた。
そしてそれはずっと説得できないまま、今に至っている。
俺なりに努力はしている。
隠密の技量は手に入れたし、何のかんのと王家の衣装の調整や手配、調度品の選定などは俺に大分任せてもらえるようになって来ている。
これは、特技を気づかせてくれた彼女のおかげだ。
だけどまだ足りないらしい。
「……お前も大変だな」
不意に頭を撫でられる。
自然とこういうことができるところが、兄上の人から好かれる理由なんだろう。
「けどまぁ、これは提出するのはやめておけ?」
「えっ?! 何故だ兄上!」
「いや、ほらここ、具体性がないだろう? こういうのは、相手にとってどれだけ有益か、がわかんなきゃな!」
具体的な数値があるともっと良いんだぞ、と続けながら助言をくれる。
行く先が少し明るくなった気がして、俺は兄上に抱きついた。
「ありがとう兄上!! 俺もうちょっと練ってみる」
「ははは、可愛い弟のためなら、なんてことないさ」
早速兄上の助言を元に書面の作り直しに取り掛かる。
と、珍しく弱気な声が聞こえて来た。
「……なぁ、好きって、どんな感じなんだ?」
「え?」
「いや、まぁなんだ、その……弟の恋を応援したくてだな、まずは情報収集を。っていーからこたえろ!」
「? そうだな、がつん! と心に何かが響いて。一目見たくて、何でもいいから知りたくて、嬉しくて、苦しい。……かな?」
「苦しい?」
「そう、苦しい。自分が歯痒くてイライラする事もあるぞ」
「……イライラ……」
ぽぽぽぽぽ。
何故今顔真っ赤にしてるんだ兄上。
「そっか、そーだったのかオレ。はは、とんだ道化じゃないか……。うん、ま、いーや。オレが本気になったらだいじょうぶっしょ。」
一人で何事かぶつぶつ言っている。
「ありがとな、クリス。謎が解けたわ。あ、そうだ!」
いきなり肩を組んでくると、壮絶な色気を纏って囁いてきた。
「……昔俺のいろいろ、結構クリス見・て・た・よ・な? あれ、ナイショにしててくんないかなぁ」
「ちょ、兄上! 俺にまで色気振りまくなよ!!」
「えーいーじゃん実地で教えてやってんだよ。メルティちゃん落とすのに、この武器持ってて損ないと思うぞ? おにーさまは」
「え、そうなのか?」
「そうさ~。で……黙っといてくれる、よな?」
「わかった!」
俺と兄上の契約は成立した。
だがしかし、この契約はのちに不履行となってしまった……俺のせいで。
原因は、メルティの父上に提出した書面だった。
俺はうっかり自分の誠実さを兄上と比べるのに数値を使った。
つまり、そういう事だ。
俺は父上二人に根掘り葉掘り聞かれ。
兄上は政務室という名の監獄に三日三晩缶詰になった。
十四の夏、俺は真剣に悩んでいた。
トントン
「入るぞ~!」
了承を返す暇もなく兄弟は入ってくる。
「え、ちょ、マリオン兄上何やってるんだ?! 俺まだ返事してないんだから入ってこないでくれよ」
「何言ってんの、オレとお前の仲だろ? 気にするな!」
「いやそれ、俺こそが言える台詞だぞ、兄上」
盛大にため息をつきながら呆れかえる。
「で。今度は何をしたんだ兄上」
「いや……ちょっと可愛い子が入ってきてたのを見つけてサ。挨拶程度に声をかけていたら勘違いをされちゃったみたいで。相手を正気に戻すまで顔見せんな! って言われたから、クリスんとこに避難してきたってワケ」
うん、要は可愛い子がいたからつまみ食いしたら、一夜じゃなくて真剣交際志望系女子で、結婚迫られたから慌てて逃げてきた、んだな兄上は……。
兄上付きの執事も御苦労なことだ、今頃青筋立てながら件の令嬢を説得してるんだろう。
俺より三つ上のこの兄上は、第二王子にして将来臣籍降下後に外交官になるべく現在勉強中だ。
人誑しの才が元々あったらしく、また本人もそれを非常に楽しいと思っているようだった。
けれどこの“楽しい”ってやつが少々厄介で……そう、極度の女好きなのである。
なまじ顔が良いのと技術があるのですぐ釣れる、入れ食い状態だ。
今までは幼かったからか自重…………してなかったな、確か兄上が十三の頃に未亡人の淑女と自分の部屋へと消えていったのを、見た……。
思えばあれも、それも……いや、考えるのはよそう。
兄上は今までは自重……していたが、十六になって婚約すると豹変した。
意に沿わぬ婚約だったのか、最後の遊び期間と思ったのか、途端遊び人になった……そして今に至る。
「しょうがない。いても良いけど邪魔しないでくれよ?」
「ん~? なになに? 『メルティの好きなところ、一、可愛い。二、愛らしい。三、天使。』――――なぁ、コレ何?」
「メルティの父上に前々から婚約の打診をしてるんだが、色良い返事がもらえなくて……俺が彼女をどれだけ好きか、どれだけ大切にできるかを書面にして見てもらおうかと思って」
「え、ちょっと待て、お前まだ婚約できてなかったのか?!」
なんで……と呟く兄上に、それは俺が聞きたい、と思う。
思えば齢八歳の俺はとても猪突猛進だった。
結婚したくてでも既に婚約済みだった彼女を、どうしても、どうしても手に入れたくて。
まずは父上にお願いした。
婚約するなら彼女がいいと駄々をこねた。
それから次いで宰相である彼女の父上に、仕事で登城している時に直談判した。
「俺よりメルティを大事にできる奴なんていない!!」
と、豪語して。
けど即座に論破された。
子供相手でも父上は容赦なかった。
けど今は、何となくだけれどわかっている。
俺が王子だから、俺は退けられた。
そしてそれはずっと説得できないまま、今に至っている。
俺なりに努力はしている。
隠密の技量は手に入れたし、何のかんのと王家の衣装の調整や手配、調度品の選定などは俺に大分任せてもらえるようになって来ている。
これは、特技を気づかせてくれた彼女のおかげだ。
だけどまだ足りないらしい。
「……お前も大変だな」
不意に頭を撫でられる。
自然とこういうことができるところが、兄上の人から好かれる理由なんだろう。
「けどまぁ、これは提出するのはやめておけ?」
「えっ?! 何故だ兄上!」
「いや、ほらここ、具体性がないだろう? こういうのは、相手にとってどれだけ有益か、がわかんなきゃな!」
具体的な数値があるともっと良いんだぞ、と続けながら助言をくれる。
行く先が少し明るくなった気がして、俺は兄上に抱きついた。
「ありがとう兄上!! 俺もうちょっと練ってみる」
「ははは、可愛い弟のためなら、なんてことないさ」
早速兄上の助言を元に書面の作り直しに取り掛かる。
と、珍しく弱気な声が聞こえて来た。
「……なぁ、好きって、どんな感じなんだ?」
「え?」
「いや、まぁなんだ、その……弟の恋を応援したくてだな、まずは情報収集を。っていーからこたえろ!」
「? そうだな、がつん! と心に何かが響いて。一目見たくて、何でもいいから知りたくて、嬉しくて、苦しい。……かな?」
「苦しい?」
「そう、苦しい。自分が歯痒くてイライラする事もあるぞ」
「……イライラ……」
ぽぽぽぽぽ。
何故今顔真っ赤にしてるんだ兄上。
「そっか、そーだったのかオレ。はは、とんだ道化じゃないか……。うん、ま、いーや。オレが本気になったらだいじょうぶっしょ。」
一人で何事かぶつぶつ言っている。
「ありがとな、クリス。謎が解けたわ。あ、そうだ!」
いきなり肩を組んでくると、壮絶な色気を纏って囁いてきた。
「……昔俺のいろいろ、結構クリス見・て・た・よ・な? あれ、ナイショにしててくんないかなぁ」
「ちょ、兄上! 俺にまで色気振りまくなよ!!」
「えーいーじゃん実地で教えてやってんだよ。メルティちゃん落とすのに、この武器持ってて損ないと思うぞ? おにーさまは」
「え、そうなのか?」
「そうさ~。で……黙っといてくれる、よな?」
「わかった!」
俺と兄上の契約は成立した。
だがしかし、この契約はのちに不履行となってしまった……俺のせいで。
原因は、メルティの父上に提出した書面だった。
俺はうっかり自分の誠実さを兄上と比べるのに数値を使った。
つまり、そういう事だ。
俺は父上二人に根掘り葉掘り聞かれ。
兄上は政務室という名の監獄に三日三晩缶詰になった。
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