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一章

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 ついさっきなのに、もうメメットの姿は人混みの中にかき消えていた。

「相変わらず忙しそうだわ」

 そう呟くと、今度は背後から「きゃっ!」という聞き知った声が聞こえて来た。
 振り向くとリリッサがうずくまっている。

「リリッサ! どうしたの?!」
「メルティ~~、……緊張してるとこに、あなたを見つけたから、嬉しくて。挨拶しようと、ちょっと急いでしまったの」

 はしたなかったわね、わたくし……、と言いながら彼女は顔を赤くしつつも立ち上がる。

「大丈夫? 立てる?」
「うん、何とか大丈夫ですわ、ありがとう」
「何か飲み物を頼みましょう、一口飲めば緊張も和らぐわ」

 わたくしはリリッサにそう言うと給仕から果実水を二つもらった。
 隣の美丈夫に数が足りなかったため、一旦それを近くのテーブルに置いて他の給仕に声をかける。
 もう一つも貰って、リリッサに遠慮させないためにもと、三人で乾杯してその果実水に各々口をつけた。
 その途中でいきなりリリッサの体がぐらついた。

「リリッサ?!!」

 グラスを持っていたのでわたくしは一拍遅れてしまった。
 けれどすんでのところで、ケンウィットが受け止めてくれたのでほっとする。

「……ごめ、なさ……。昨日なかなか、寝付けなくて……気持ちが悪」

 うっ、とえづく声がする。
 これは急を要すると判断して彼に声をかけた。

「ケンウィット、彼女を休憩室へ連れて行ってあげてちょうだい」
「……今日、オレは護衛だ。」
「メメットを探して合流するわ。このままだとリリッサが嘔吐して恥ずかしい思いをしてしまうのよ」
「……だが」
「淑女の名誉を守るのは、クルケット様も惚れ直す行動だと思うわよ?」
「……すぐ、戻る。」

 言うなり彼はリリッサを担ぎ上げ給仕に何事か話しかけ舞踏場から出て行った。
 多分給仕に人の手配を頼んだのだろう。
 麻袋のごとく肩に担いで行ってしまったのはあれだけれど、リリッサが介抱して貰えることに安堵した。
 その途端。
 何故だか自分の視界がおかしくなり出した。

 ーー何、故ーー?

 体が風邪をひいたように熱くなって、立っていられない。
 その場に立っていられなくてしゃがみかけると、背後からグッと腰を抱かれ愉快そうな声がした。

「君が、悪いんだよ?」
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