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一章
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そのまま急ぎ御飯を調達し、いつもの木陰へと進路変更をした。
「ごめんなさいね、メメット。わたくしが絡まれてしまったから、今日の特別メニュー食べ逃してしまって」
「ひーのひーの、ほへもおいひい」
メメットが食べながら返事をする。
「ふふふ、メメットったらうまく言えてませんわよ?」
しっかり咀嚼し食べ切ると改めて彼女が口を開く。
「これも食べたかったからいーのよ。ところで……何があったの」
真剣な面持ちだったので、どう答えたら良いかわからなくて、ルミナリクとのいざこざだけ掻い摘んで話すことにした。
「ほー私の癒しのメルティに、彼奴そんな事しやがったの……確か、メルティのこと散々に貶した人、よねぇ?」
どうしてくれよう、と言いながらメメットの形相が恐ろしいことになっている。
わたくしにはどうすることもできなくて、そのまま話を続けた。
「リリッサの話では……彼女、大事にされているようだったのだけれど……」
「……メルティが言われたことから推測するに、親の言う通りは嫌だけど良い顔はしときたい……のかしら。何にしても迷惑だし、通さなきゃいけない筋だってあるのに」
「そうね……」
今はここにいない彼女のことを思うと、少し憂鬱になった。
翌々日もルミナリクは朝早くからやって来た。
警戒してケンウィットが今日はついてくれているから、幾らか心強い。
「やあ、おはよう。昔から君は寝起きがよかったけど、今日も早いんだね」
「おはようございます、ルミナリク様。昔は起きるのが苦手でしたが、学院に来てからは学ぶのが楽しすぎて目が覚めるんですの。朝の空気は気持ちがいいものですわね」
「……っ、それが、君の答えかい?」
「おっしゃっている意味がよくわかりませんが、そろそろ級友も多く登院してきますわ。ルミナリク様もクラスに戻った方がよろしいんではなくて?」
言外にリリッサがくるぞと警告すると、彼はまだ彼女に自分が婚約解消に向けて動いていることを知られたくないらしく、少し怯んだ。
失礼するよ、と硬い声がして彼は教室を出て行った。
ーー去り際、爪を噛んでいらしたーー
あれは確かーー何かの癖だった気がするけれど。
婚約者だった頃の事は忘れ去りたい記憶だった為、思い出すことは出来なかった。
「……口を、挟んだほうがよかったか。」
ずっと黙ったまま傍にいたケンウィットが、少ししょんぼりしながら聞いてきた。
「あなた、口がまわる方ではないでしょう? 気持ちだけ受け取っとくわ。居るだけで助かっているのだし」
「メルティ様~! おはようございます!」
とそこに、マリアが登院して来て、その場の雰囲気がぱっと華やぐ。
いつもの空間に戻った気がして、彼女に挨拶を返しながら艶やかな髪をした頭頂部を、ぽんぽんと撫でた。
ーーその頃彼は、教室に戻りながら憤っていた。
「ーー君がそれを選ぶなら、僕も選ぼう」
親指の爪を噛みながら呟かれたその言葉は、誰に届くでもなく廊下の影に吸い込まれていったーー。
「ごめんなさいね、メメット。わたくしが絡まれてしまったから、今日の特別メニュー食べ逃してしまって」
「ひーのひーの、ほへもおいひい」
メメットが食べながら返事をする。
「ふふふ、メメットったらうまく言えてませんわよ?」
しっかり咀嚼し食べ切ると改めて彼女が口を開く。
「これも食べたかったからいーのよ。ところで……何があったの」
真剣な面持ちだったので、どう答えたら良いかわからなくて、ルミナリクとのいざこざだけ掻い摘んで話すことにした。
「ほー私の癒しのメルティに、彼奴そんな事しやがったの……確か、メルティのこと散々に貶した人、よねぇ?」
どうしてくれよう、と言いながらメメットの形相が恐ろしいことになっている。
わたくしにはどうすることもできなくて、そのまま話を続けた。
「リリッサの話では……彼女、大事にされているようだったのだけれど……」
「……メルティが言われたことから推測するに、親の言う通りは嫌だけど良い顔はしときたい……のかしら。何にしても迷惑だし、通さなきゃいけない筋だってあるのに」
「そうね……」
今はここにいない彼女のことを思うと、少し憂鬱になった。
翌々日もルミナリクは朝早くからやって来た。
警戒してケンウィットが今日はついてくれているから、幾らか心強い。
「やあ、おはよう。昔から君は寝起きがよかったけど、今日も早いんだね」
「おはようございます、ルミナリク様。昔は起きるのが苦手でしたが、学院に来てからは学ぶのが楽しすぎて目が覚めるんですの。朝の空気は気持ちがいいものですわね」
「……っ、それが、君の答えかい?」
「おっしゃっている意味がよくわかりませんが、そろそろ級友も多く登院してきますわ。ルミナリク様もクラスに戻った方がよろしいんではなくて?」
言外にリリッサがくるぞと警告すると、彼はまだ彼女に自分が婚約解消に向けて動いていることを知られたくないらしく、少し怯んだ。
失礼するよ、と硬い声がして彼は教室を出て行った。
ーー去り際、爪を噛んでいらしたーー
あれは確かーー何かの癖だった気がするけれど。
婚約者だった頃の事は忘れ去りたい記憶だった為、思い出すことは出来なかった。
「……口を、挟んだほうがよかったか。」
ずっと黙ったまま傍にいたケンウィットが、少ししょんぼりしながら聞いてきた。
「あなた、口がまわる方ではないでしょう? 気持ちだけ受け取っとくわ。居るだけで助かっているのだし」
「メルティ様~! おはようございます!」
とそこに、マリアが登院して来て、その場の雰囲気がぱっと華やぐ。
いつもの空間に戻った気がして、彼女に挨拶を返しながら艶やかな髪をした頭頂部を、ぽんぽんと撫でた。
ーーその頃彼は、教室に戻りながら憤っていた。
「ーー君がそれを選ぶなら、僕も選ぼう」
親指の爪を噛みながら呟かれたその言葉は、誰に届くでもなく廊下の影に吸い込まれていったーー。
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