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一章

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 流石にわたくし一人では対処できない。

 そう感じて手の事は隠してお父様に報告……しようとして、思いの外強く引っ張られてしまったらしく、捻っていたので掴まれたことだけ報告した。
 お父様は般若になった。
 わたくしの左腕はまた包帯でぐるぐるになった。

 また包帯生活に逆戻りですわ……。



 そうして、次の日から大分注意深く過ごす事になってしまったわたくしは、学院では必ずマリアかケンウィットとともに行動するようになった。
 腕については友人たちから心配されたけれど、治りかけを無理して鍛錬しようとした、と言ったら「メルティったら!」と怒られた。

 暫くはまた、平穏な日々が戻ってくる。

 今は授業と授業の合間の休憩だ。

「マリアはどなたと一緒に演習に出るの?」
「はい! 私はこの前思いの通じた、アルレイド=キルシュ様と約束いたしまして!」

 わたくしの質問に返事をしてくれた彼女は、かっこ可愛いんですよ彼! と言いながら頬を染めている。

「じゃあもうドレスを決めてる頃合いね?マリアのドレス姿、楽しみだわ」

 きっと可愛らしいだろうその姿を思い浮かべる。
 婚約者者の方もお可愛らしい? のなら、可愛いと可愛いで正義だわ。
 頭の中で不思議計算式から最適解を導き出したわたくしは、自分の支度を思い出し、思わず溜息をついた。

「メルティアーラ様? 何かお悩みですか?」
「ああ、いえ……悩みといえば悩み? なのかしら?」
「?」
「いえ、わたくしほら、色々と噂になってしまったでしょう? そのせいかパートナーがまだ見つかってなくて。けれどドレスは何故かもうあるのよ。だから輪をかけて、声をかけづらくなってしまって……」

 そう。
 ドレスを先日渡されて。
 てっきりお父様がお相手と同時に手配してくださったのだと思ったら、ドレスだけだと言われてしまったのだ。
 普通は、ある程度お互いでバランスを取るから、衣装はお相手が決まったその次という順番なのだけれど。
 思わず頭を抱えていると、ケンウィットがこちらにやってきた。

「……その件なら、俺が随行するよう、言われた。」
「それをいうなら同行ではなくて? 歳は同じだし幼馴染じゃない」
「……パートナーではなく、従僕として側にいろ。」
「……お父様ね、しょうがない人。いつまでもちっちゃい子だと思っているのだから。ケンウィットも鵜呑みにしては駄目よ?」
「……依頼者に、怒られる。」
「んもう! 堅物なのだから」
「……こちらにも、旨味はある。気にするな。それにで「良かったですね! これでメルティアーラ様の憂いが晴れます!!」

 マリアが両手を合わせて嬉しそうに言った。

 確かに、悩んでいたことがこれで問題なくなったわ。
 帰ったらお父様に感謝をお伝えしよう、と思う。
 ケンウィットが何か言っていたがわたくし達はドレスの話に花が咲き始め、その声は掻き消えてしまったのだった。
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