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一章

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 それからまたひと月が過ぎた。

 初めの頃は噂がひどかった。
 あった出来事に尾鰭背鰭おびれせびれおまけに胸鰭むなびれまでついていた。

 けれど、救いのある噂もあった。
 どうやらメメットがマリアと結託して布教してくれたらしく、わたくしと学院で握手するとご縁があると、それとなく触れて回ったらしい。

 ーーどこでどうやって仲良くなったのかしら、あの二人。

 何はともあれ。
 最初は責任の取れなさ具合に困る気持ちがあったけれど、ひどい噂の渦中にあっては、そのほのぼの具合に癒されていた。
 なので友人たちのその優しさに、今は甘えている。
 効果の責任は取れないけれどそのかわり、来た人来た人に、ご利益があるかは分かりませんよと必ず告げる事にし。
 そのついでに、「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れていますの。惚気でも愚痴でもどうぞ気軽に報告にいらしてね。」とも声かけをした。

 ひどい噂については私に直接言ってくる人はあまりいない。
 けれどゼロではなくて。
 そんな時には、わたくしにはよくわかりませんわと、まるで部外者のような口振りでのらりくらりとかわしていた。

 ひと月が過ぎると、マルガレーテ様が殿下の隣に侍っているのが日常になった。

 わたくしといえばーー周りには石像よろしく人だかりができている。
 どうにも、握手をした何人かがお相手と思いが通じ合ったらしい。
 相談に乗る、という文言も効いたみたいで、途切れもせず相談や惚気がくるのが当たり前の光景になりつつあった。



「メルティ! 聞いて欲しいのよ~」

 そしてなぜか、リリッサもそんな中の一人になっている。

「彼ね、この前、その髪型似合ってるよ……俺の隣に立つにふさわしい、だなんて言ってわたくしの髪に口付けしてくださったの~」

 ふわふわと砂糖菓子みたいに微笑みながら彼女が言う。

 正直少し、かわらず居丈高らしい彼の近況は聞きたくはなかったけれど、彼女の大切には変わりないのだと考え直しながら、今日も今日とて惚気を聞くことにして。
 彼も今はもうこの子に首ったけなのねと、感慨深くも思った。

 あれから、お父様経由でお話が行き、マルガレーテ様が軽傷で痕も残らない事になって。
 お詫びとしては治療費と家としての謝罪文で手打ちとしていただいた。

 マルガレーテ様はもうこちらに用はないようで、お二人でいる時ににっこり微笑まれる以外には近付いてくることがなくなった。

 入学してすぐの騒動が嘘のように、平凡な日々が続き出していたーーーー。
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