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一章

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 その日の午前の授業はつつがなく終わった。

 わたくしは、ここからが始まりなのだと、そう決意と覚悟を胸に授業の道具を片付けている壁際の席の殿下へと近づいた。

「あの、殿下。少しお話よろしいでしょうか?」
「メルティ! 話なら大歓迎だ、何か用事か? して欲しいことでもあるのか?」
「申し訳ありません殿下、まずその親しくしていただくのは有り難いのですが。名前呼びを、その、わたくしわきまえたいんですの」

 殿下の顔がすんとなる。

「しっ、示しがつかないと言いますか、でっ、殿下の想う方がどうも盛大に勘違いなさっているようで……わたくしお相手の方を傷つけたくは」

 少し早口で捲し立てるようにーー勿論想う方の所は殿下にだけ聞こえるように小声でーー話している途中、殿下の両腕がこちらになぜか伸びてくる……と思ったら、

 ドン!

 と鈍い音が両耳に届き、殿下と壁の間に閉じ込められたことに、気づいた。

「で……んか?」

 殿下は俯いていて表情がよく見えない。
 わたくしにやっと聞こえるくらいの話し声には、苦渋の色が浮かんでいるようだった。

「君がっ、……俺のせいで怪我や病気をして気が狂いそうだったんだ! 誤解をしてるんだろうとは思っていた…………だが公務だから言えなくて……っ、っどうか、俺を信じてくれーー。」

 そう言ってわたくしへと目を向けた殿下は、さらに掠れるような声色で、

 俺を叩け

 ごめん

 愛してる

 と告げられて。



 わたくしは、教室のど真ん中で、



 殿下に激しく口付けられたーーーー。
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