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一章
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しおりを挟む「お、おおおお、オレとととともだちなれ!!」
ーーーーこれは、夢だわ。
この台詞を知っている、実際に昔言われたことがある。
黒髪に、まるで夜の帳が下りる前の夕空のような濃い青い目。
言った言葉が気恥ずかしかったのか真っ赤になったそばかすだらけな彼のその顔は、やんちゃに日焼けしていた。
避暑地でピクニックをしていた時に出会った、わたくしを今のわたくしにした、とても大切なーー宝物のような記憶。
その頃弟はまだ四つでわたくしは九つになったばかり。
姉として面倒を見なければならないと、頭では分かっていても、お兄様が2人いる末っ子状態で育ったからか現実を受け止めきれず、よく駄々をこねていた。
「あっ! それ私のよ!! 返してっ!!」
どん!
「……び、びえぇぇぇぇぇぇ!!!」
大事なぬいぐるみを手に持たれ腹を立てた私は、弟のアルベルトを突き飛ばして取り返した。
尻餅をついて泣き出した弟にお母様が慌てて駆け寄る。
「駄目じゃないメルティ、弟をいじめては。ほら、きちんと御免なさいなさい!」
「……っごっ……。な、なんで私が謝らないといけないの! 私悪くない!! 嫌っ!!」
ぺちん。
「……今お母様はあなたがした事と同じ事をメルティにしました。どう思いましたか?……話もせずにいきなり手を出すということは、こういう事よ」
お母様の硬い声が耳に入って頭では理解したけれど、軽くでも叩かれたことに驚きと悲しみが溢れてしまって、到底認められなかった。
叩かれた頬に手を当てたまま、キッとお母様を睨み返すと踵を返して駆け出す。
目には涙が溜まっている。
遠くでお母様が私を呼ぶ声が響いていたーー。
涙でぐちゃぐちゃになりながら走ったから、どこに来たのかわからなかったけれど、振り返ればピクニックをしていた小高い花咲く丘が遠くに見えて。
そこは丘から見えたこじんまりした森だという事がわかった。
離れすぎていないことにほっとしつつ、辺りを見回す。
きちんと手入れされた森だ。
切り株を見つけると、座るのも取り敢えずぐちぐち言い始める。
「だってだって、今日だって朝からアルベルトのイタズラで今日着るはずだったお気に入りのワンピース、着られなくなったのよ?! ぬいぐるみまで取られたら、溜まったもんじゃないわ!!」
「……それに、私だってごくごくたまには、お膝にだって、座り……っ」
本当はわかっていた。
私はおっきくなったんだって。
けど何かが捨てられていくような気持ちがしてもやもやして。
弟だって、可愛くないわけではないのだ。
けど、とてもやんちゃだし、どう遊べばいいのかわからなかった。
「……お人形遊び、すぐかくとうごっこになるんだもん……」
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