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一章
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次の日の朝。
約束通り相手になってくれた弟のアルベルトと組手をした。
段々と感を取り戻していくのを感じ、楽しくなってくる。
アルベルトをかわして、その手を取り捻り上げて地面に組み伏せながらこの子も大きくなったものだと実感する。
昔はぬいぐるみのようにふくふくで丸っこい手だったのが、今では節が出て男の子のそれだ。
「そろそろ身繕いをして朝食にしましょうか」
アルベルトの手を持ち上げ立たせてやる。
「ちぇっ。まだ姉上には敵わないや」
ほっぺたを膨らませた様は、まだどこかあどけなさが残っている。
「わたくしはもう十五なのよ、アルベルト。大人の入口にいる者がてんで負けていたら、示しがつかないでしょう? これでも今必死だったのだからね、わたくし。」
あと二年もしたらわたくしなんてちょちょいのちょいよ、と伝えれば、僕もっと練習して来年には勝つからね!と返ってきた。
成長の楽しみな、可愛い弟である。
今日の朝食のメニューは何かと二人で予想し合いながら、庭から館の中へと入っていった。
因みに今日の御飯はカリカリのベーコンと半熟目玉焼き、サラダは果物をドレッシングにした物がかかっていた。
間違い無い程美味しくて元気が出た。
うん、お姉様は気合を入れて頑張ってくるわね。
身支度を済ませると、そんな面持ちで行ってきますの挨拶をして館を出
ーーたところで、何やら不穏なオーラを発する馬車が門の前の微妙に影になる場所に止まっているのが見えた。
今日は今にも雨が降りそうな曇天のため、不穏さに輪がかかっている。
……わたくしは、なにも、きづいて、いませんわーー。
そう思い込みつつも、どこか抜け道はとあわあわキョロキョロしてみるけれど、ここは公爵家である。
四方を高い豪奢で堅牢そうなフェンスに囲まれた館に、そんなものは有りもしないのだった。
しかも、よく見ると朝日に反射したキラキラが見える。
段々と近づいてもくる。
気持ちが追いついてこなくて、わたくしは固まってしまった。
「おはよう、メルティ。とても気持ちの良い朝だね」
慈しむようなキラキラの表情をした王子殿下が、今日も今日とて愛しい人にするように手を恭しく持ち、チュッというリップ音と共にその甲に口づけをした。
誰のに?
勿論。
わたくしのに、だ。
はっとしてサッと手を引っこ抜く。
令嬢としては失格だとしても、自分の心の安寧の方が大事だと思う。
わたくしは触れた熱が移ったかのように熱く感じる左手を、胸の前に持っていくと右手で包んでぎゅっとした。
ひどい動悸がする。
わたくしにはほんとの本当に、免疫がない。
今までの婚約は名だけの、他のご縁を熱望している方ばかりだったから、私はお飾りで。
する事といえば外でのデートという体のウィンドウショッピングと、婚約者との逢瀬という体の情報共有や相談のお茶会しかしたことがないのもあって。
こういうことをされると、本当にどうしたらいいのかわからなくなる。
だって、本当は憧れていたのだ。
お母様が言うように、小さい頃はまるで宝物のように大切に胸にしまっていた夢だった。
いつか誰かを大切に思って、大切に思われて、まるで王子と姫の様に二人力を合わせて生きる。
わたくしだけの王子様が、僕の姫、と言ってさらってゆく夢物語。
もしかしてを期待する心を叱咤して、わたくしはぎこちなくも微笑んだ。
約束通り相手になってくれた弟のアルベルトと組手をした。
段々と感を取り戻していくのを感じ、楽しくなってくる。
アルベルトをかわして、その手を取り捻り上げて地面に組み伏せながらこの子も大きくなったものだと実感する。
昔はぬいぐるみのようにふくふくで丸っこい手だったのが、今では節が出て男の子のそれだ。
「そろそろ身繕いをして朝食にしましょうか」
アルベルトの手を持ち上げ立たせてやる。
「ちぇっ。まだ姉上には敵わないや」
ほっぺたを膨らませた様は、まだどこかあどけなさが残っている。
「わたくしはもう十五なのよ、アルベルト。大人の入口にいる者がてんで負けていたら、示しがつかないでしょう? これでも今必死だったのだからね、わたくし。」
あと二年もしたらわたくしなんてちょちょいのちょいよ、と伝えれば、僕もっと練習して来年には勝つからね!と返ってきた。
成長の楽しみな、可愛い弟である。
今日の朝食のメニューは何かと二人で予想し合いながら、庭から館の中へと入っていった。
因みに今日の御飯はカリカリのベーコンと半熟目玉焼き、サラダは果物をドレッシングにした物がかかっていた。
間違い無い程美味しくて元気が出た。
うん、お姉様は気合を入れて頑張ってくるわね。
身支度を済ませると、そんな面持ちで行ってきますの挨拶をして館を出
ーーたところで、何やら不穏なオーラを発する馬車が門の前の微妙に影になる場所に止まっているのが見えた。
今日は今にも雨が降りそうな曇天のため、不穏さに輪がかかっている。
……わたくしは、なにも、きづいて、いませんわーー。
そう思い込みつつも、どこか抜け道はとあわあわキョロキョロしてみるけれど、ここは公爵家である。
四方を高い豪奢で堅牢そうなフェンスに囲まれた館に、そんなものは有りもしないのだった。
しかも、よく見ると朝日に反射したキラキラが見える。
段々と近づいてもくる。
気持ちが追いついてこなくて、わたくしは固まってしまった。
「おはよう、メルティ。とても気持ちの良い朝だね」
慈しむようなキラキラの表情をした王子殿下が、今日も今日とて愛しい人にするように手を恭しく持ち、チュッというリップ音と共にその甲に口づけをした。
誰のに?
勿論。
わたくしのに、だ。
はっとしてサッと手を引っこ抜く。
令嬢としては失格だとしても、自分の心の安寧の方が大事だと思う。
わたくしは触れた熱が移ったかのように熱く感じる左手を、胸の前に持っていくと右手で包んでぎゅっとした。
ひどい動悸がする。
わたくしにはほんとの本当に、免疫がない。
今までの婚約は名だけの、他のご縁を熱望している方ばかりだったから、私はお飾りで。
する事といえば外でのデートという体のウィンドウショッピングと、婚約者との逢瀬という体の情報共有や相談のお茶会しかしたことがないのもあって。
こういうことをされると、本当にどうしたらいいのかわからなくなる。
だって、本当は憧れていたのだ。
お母様が言うように、小さい頃はまるで宝物のように大切に胸にしまっていた夢だった。
いつか誰かを大切に思って、大切に思われて、まるで王子と姫の様に二人力を合わせて生きる。
わたくしだけの王子様が、僕の姫、と言ってさらってゆく夢物語。
もしかしてを期待する心を叱咤して、わたくしはぎこちなくも微笑んだ。
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