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一章

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 その日の事はお父様に帰宅後すぐ報告した。

 手の甲へのキス……の辺りでお父様は、奮発し購入していた万年筆を一本折った。

「…………そうか、そういうつもりだったか。メルティ、報告をありがとう。お父さん頑張ってくるから気にせず気張らず、何なら殿下なんて大っ嫌いとでも言っておいていいからな」
「お父様、流石にそれは不敬すぎて、わたくしにはとても……」
「うう、天使なのが仇になった……。兎に角、メルティは心配するんじゃないよ?」

 そう言うや否や、お父様は風のように執務室を後にした。

 何しに、お出かけしたのかしら?

 何はともあれ。
 衆人の中で了承の返事をしたのだ。
 この婚約は人の知れるところとなり、取り敢えずはまとまるだろう。
 解消とセットだけれど。
 この大仕事が済めば……。

「そろそろ、政略結婚で良いからお相手をお父様にお願いしなくては、ね……」

 領地とこの家の歴史を見守ってきた執務室で一人、わたくしは少しばかり夢見た未来とは違う将来を思い、ため息をつくのだった。
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