上 下
44 / 81

44. 泣いてしまうんです

しおりを挟む
 医務室に着くと、ベッドの端に降ろされました。
 先生はまず私を毛布でくるんだ後、サイズを聞き、予備の制服取ってくるねと言って離れていきます。
 そばに人気ひとけがないだけで、先ほどの恐怖がよみがえりました。
 それと共に、レイドリークス様に助けてもらった事も思い出して、格好良かったし優しかったな、だなんて感じたりもして、怖いと格好良いを行ったり来たりの乱高下する気持ちを持て余します。

「あったあった、最後の一組だったよ~備品更新しなくっちゃ。僕机のとこいるから、着替えたらおいで、ホットチョコレート入れて待ってる」

 ハンスヴァン先生はそう言いながら私の頭を撫でると、その場を立ち去りかけたので、慌てて声をかけました。

「あ、あの、先生、濡らした布巾ふきんも、用意していただいても良いですか? 頬が、気持ち悪くって……」

 茶色い髪の隙間からのぞく黒い瞳が、一瞬険しくなったような気がしますが……気のせいだったのでしょう、今は穏やかに私を見てくれています。

「ごめんごめん、気付かなかった。ちゃんと用意しとくよ~」

 そう言うと、ひらひらと手を振って今度こそ机のほうへと歩いていきました。
 私は用意してもらえる事にほっとして、貸し出してもらった制服へと着替える事にします。
 着ていた物を脱ぎ捨てると、新品のそれに腕を通します。
 脱いだ物を再び着る気にはちょっとなれそうにもなく……レイドリークス様に借りた上着だけ、きちんと畳んでおくことにしました。

「先生、制服こちらのごみ箱に捨てて帰ることってできるでしょうか?」
「あ、いいよいいよ、こっちで処分しとくから任せて~」

 軽い感じで了承をもらい、ありがたくそのままにしておきます。
 着替え終わったので、先生のいる机のそばまでいくと、湯気の立つホットチョコレートの良い匂いが鼻をくすぐりました。
 少し落ち着いてきたからか、おなかがきゅると鳴きます。

「はい、布巾。少しあったかめにしといたから、気をつけて使ってね」
「ありがとうございます」

 手渡された布巾を受け取り、頬を拭います。
 先生の気遣いに、その部分が綺麗になっていくような不思議な感覚になりました。
 気にかけてもらうって、すごくあったかいものなのだな、と再認識です。
 拭った布巾を先生に返すと、今度はホットチョコレート入りのカップを手渡されました。

「そこの椅子、座ってね」

 椅子を勧められたので、素直にすとんと座ります。
 座ったことで気が抜けたのか、ぽろぽろと目から涙が溢れてきました。
 危ないので、カップは机に戻します。

「……君は頑張った、皇族相手によく守った」
「……ふっ、う~~~~っ」

 先生が背中をさすってくださいます。
 その温もりに、また泣けてしまって……私は気がすむまで泣き続けました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...