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30. 貪られるんです

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 後始末の算段がついたことにほっとし、ぐっすりと眠ることが出来た次の日。
 学校ではあえて、人気のないところへ行ってみたりして、釣りを楽しみます。
 入れ食い、とまではいきませんが釣果として二名ほど生け捕りにし、私についてくれている影へと引き渡しました。
 何かわかれば良いんですが。

 本日の昼食はローゼリア様も一緒です。

「そうなんですの? それは是非間近で拝見してみたいですわ」
「珍しいね、令嬢が模擬試合に興味があるのは。よければ今度、案内するよ」
「嬉しい! ありがとうございます殿下。楽しみにしてますわ」

 いつの間にか、仲良くなっています?
 まぁ私が期待していたことなので、成果が出た、と喜ぶことにします……。
 するったらするんです。

 そうしてもやもやしているうちに、昼食の時間が終わったようで、上の空で食事をしてしまい自分で自分にびっくりしました。
 あんなに美味しいご飯なのに味わって食べられなかったです。

「ルル、どうかしたかい?」
「ルルーシア様、どうかなさいましたか?」
「え、いえ、どうもしていませんよ! ご飯美味しかったです、ご馳走様でした」

 そういうと御二方ともまたおしゃべりに興じ始め、その場はお開きとなりました。
 同じ学年なので共に連れ立って校舎へと戻って行きます。
 なんとなくその場を離れがたくて、その背中が見えなくなるまで見送りました。

 その日の放課後。
 レイドリークス様が話があると昼食時におっしゃっていたので、私は今図書室にいます。
 彼が何かしたのか、そもそも放課後の図書室自体あまり利用者がいないのか、人気ひとけがありません。

 初めて入る図書室に少しドキドキしながら、書架の間をゆっくりと散策します。
 あ、この小説面白そうなタイトルだな。
 わぁ、このシリーズ全巻そろってる!
 そんな楽しみ方をしながら背表紙を目で追い続けます。
 それをどれほど続けていたでしょうか、カツコツと靴底が床を鳴らす音が響き、戸が開いたと思うと待ち人がキョロキョロしながら入ってきました。

「ルル?」

 うっかり一つ本を手にして読みかけていたので、慌てて返事をして本を棚へと戻します。

「はい、ここにいます」
「ああ、よかった居てくれて。帰られてしまうことも考えていたから」

 その手があったか。
 思いましたが言葉には出しません、引き伸ばしても得られる結果は変わらないのです。

「お話というのは……?」
「話というのは、他でもない俺と君のことだよ。俺としては本当に君と結婚したいと思っているんだ。きちんと君の気持ちが知りたい。それをつけている意味も」

 レイドリークス様が私の左耳についたイヤーカフを触りながら話し始めます。

「そのお話でしたら私、無理なんです。イヤーカフは他のご令嬢への虫除け対策で仕方なくつけていますし。皇子殿下とは本当に結婚できません」
「……ルルならそう言うと思った。……十五の誕生日に、俺が公爵家の跡取りとして養子に出ることが決定したと…‥告げられたよ。決定事項だそうだ」

 断ったことで、彼は一瞬傷ついた表情をしました。
 ああ、養子の話はやっぱり本当だったんです、彼の口からちゃんと聞けてよかった。
 そう思うべき、わかっていてもその言葉に悲しんでいる自分がいます。
 なんて自分勝手なんでしょうか。
 受け入れるつもりも、元からない癖に……。

「元々入婿も難色を示されていて……けどっ……! 本当に、好きだったんだ!!」

 はい、わたしも好きです、お慕いしています。
 そう言える立場にいたかったです。
 けどそれは許されることではないので、なるべく無表情で対応します。
 やっと……この茶番のようなものが終わる、そう思った時。
 レイドリークス様が私の方に顔を近づけてきて、避けよう、と思ったその時切なく歪んだ瞳に囚われてしまいました。

「愛してる……」

 ささやかれながら激しく角度を変え、むさぼるようにキスをされます。
 息をするのも忘れてしまい、苦しくなった頃合いで、その唇は離れていき……

「迷惑かけてごめん。さよなら、だ」

 そう言い捨てると、レイドリークス様は足早に去っていきました。
 私はあまりの衝撃に立っていられず、その場にへたり込んで動けません。



 ――なので気づけませんでした。
 彼の後ろ姿のそのお尻に、悪魔の尻尾が生えていた――ということに。
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