上 下
10 / 81

10. 可愛い弟なんです

しおりを挟む
 怒涛の一日が終わり家へと帰宅しました。
 昨日の祝賀会からこっち、なんだか心労がすごい気がして体も重いです。
 こんな時は癒されたい!
 まずは癒しその一のお部屋へ、いざ参る! です。

 コンコン

「マークス、今ちょっといいですか?」
「いいよ~」

 返事をもらえたのでドアを開けて部屋へと入ります。
 そう、私には可愛い可愛い弟がいるのです! しかも三人。
 そのうち一番末の弟がこのマークス、今年の誕生日を迎えると十一になります。
 とても優秀だった為イメージングステイ期間をかなり短縮して、今は家に帰ってきていました。
 まだ姉からすると可愛い盛りなので、こうして疲れた時には時々、抱擁しに来たりおしゃべりしに来たりして楽しい時間を過ごさせてもらっています。

「ん~、今日も可愛いっ!」
「姉様、また何かあったの?」

 抱きついた弟に聞かれて、私は少し悩みます……なんて言えば良いかしら?
 良い案はなかったのでそのまま伝えてみることにしました。

「皇子様に、好き好き結婚して! って言い寄られて困ってるんですよお姉様」
「え?!」
「そうですよね、平凡なお姉様にはありえない話だって、マークスも思いますよねぇ」

 ほんと困ってて……という私の言葉に隠れて、マークスが、……僕の……にとか………きんして、とか良くわからないことを言っています。

「姉様は、その皇子様の事が好きなの?」

 お嫁に行っちゃうの? と、どこか心細げに瞳を潤ませ聞いてくる可愛い弟に、私の頬が緩みました。

「お姉様は何処にも行かないですよ、私はこの家を継ぐ予定ですし」

 そう返事をするとほっとしたのか胸に顔をうずめてぎゅ~っと抱きついてきました、ふふ、可愛い。
 十分に癒されて退室し自室に戻ると、今度は癒しその二を選びに家の図書室へ。
 そこで二冊本を選ぶと自室に戻ります。

 私が本――とりわけ大衆恋愛小説――を好きになったのは、十歳の頃でした。
 イメージングステイが始まる前に、我が家のしきたりに従い私が次期当主となることを告げられたのです。
 上に立つための勉強と本格的に影になるための修行を始める、とも。
 私は正直言ってやさぐれました。
 当時は少女らしく、いつかお父様とお母様のような大恋愛をして旦那様を見つけたい! と思っていたからです。
 十歳の子供でもわかりました、告げられた未来――次期当主にとって、それはとても贅沢な事になるのだ、と。
 お父様とお母様はたまたまです、話を聞いて知っています。
 やはり跡継ぎだった一人娘のお母様には長年決められた婚約者がいて。
 けれどお父様が一目惚れ横恋慕の末、私のお祖父様にもお母様にもお相手の婚約者の方にも猛アタックしたり説得したりして、その深い愛情が届いた結果――お母様もお父様を愛し、結婚に漕ぎつけたのだとか。
 最後には元婚約者様も、君には敵わない、と苦笑してらしたそうです。

 ……お父様、良く考えるとちょっとだけはた迷惑では?

 ともあれ。
 荒れて領地の悪餓鬼とつるむようになった私に、せめてもの慰めとしてお母様が手渡してきたのが、恋愛小説でした。
 本の中でなら自由に夢を見る事ができました。

 しがらみから離れ、何にでもなれたのです……勿論、大恋愛をする女の子にだって。

 今でも、現実で困難にあたるといっとき夢をみます。
 登場人物たちの勇気、を……借りられるように。

 ――どこか、祈りながら――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...