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37 媚香※
しおりを挟むその日の夕方。
桔梗は自室でその時間が来るのを待っていた。
コンコンと扉を叩かれ、ビクリと身体を震わせる。
「僕です。蘇芳です」
「蘇芳?」
意外な訪問客に、驚いて桔梗は扉を開けた。
そこには蘇芳が神妙な面持ちで立っていた。
「中に入っても?」
「あ、……ああ。どうぞ」
桔梗が横に退くと、蘇芳はその間に身体を滑り込ませる。
彼は部屋を軽く見渡した後、振り向いた。
「……父に考え直すよう説得してみたんだけど……。あの人頑固だから」
すいませんと目を伏せる蘇芳に歩み寄ると、桔梗はその顔を見上げた。
やはり、母親似だなと思った。
伏せていた金色の瞳が桔梗を見る。
「あの夜。母が死んで……父が牢から出してくれた夜。“お前はどうしたい? ”って訊かれたんだ。母が死んだのは、この家の者のせいだと思っていた僕は“みんな殺してやりたい”って答えた」
五年前のあの夜の事を話し始めた蘇芳を、桔梗は黙って見ていた。
「父が小刀を貸してくれた。“お前ならこれで充分だろう”と言って。……本当に簡単だったよ、人間ってあんなに簡単に殺せるんだって、そんなのに怯えていた今までの自分が可笑しくなった」
蘇芳は少しだけ口の端を上げ、悲しそうに笑った。
「なぜ、あの時私だけ生かしたんだ?」
「姉さんだけは、僕に優しくしてくれたから」
言うと蘇芳は、首から下げている物を衣服から引き上げた。
それは、がたがたの縫い目の小さな巾着袋。
桔梗には見覚えがあった。
「まだ、持っていてくれたのか?」
「……母さんの形見だし、姉さんが頑張って作ってくれたって分かるから」
「ああ、未だに裁縫は苦手だ」
ふたりは小さく笑い合った後、蘇芳はまた悲しげな表情に戻った。
「あの時はそこまで考えられなかった。後で気づいたんだ“ああ、姉さんを独りにしてしまった”って」
「……気にするな。あの人達のやった事は自業自得だ。あのまま私もあの家に居たら、いいように使われるだけだっただろうしな」
暫しの沈黙の後、桔梗が口を開く。
「蘇芳……」
「はい」
「その……抱き締めても……いいか?」
上目使いで恐る恐る言う姉に、蘇芳はふふっと笑うと、両腕を広げた。
桔梗はゆっくり歩み寄り、その背中に腕をまわす。
「ここの居心地はどうだ? 鬼の中じゃ白鬼は生きづらいんじゃないか?」
「父上が居るから平気です。まあ、たまに嫌味を言われたりはありますが」
「……そうか」
「……姉さん」
「ん?」
「僕を探してくれて、ありがとう」
ハッと桔梗は顔を上げる。
それを見下ろす蘇芳の目には、涙が溜まっていた。
「なんだ、男が泣くな」
「うん、ごめん」
蘇芳はそう言って涙を拭うと、「もう行くよ」と扉に向かう。そして、扉に手をかけると思い出したように振り返った。
「姉さんの寿命を延ばす方法だけど、多分本当に知っているんだと思うよ。あの人、そういう嘘は言わない人だから」
そう言い残して出ていった。
※
「お連れしました」
一際豪華な扉の前で、桔梗を連れてきた子鬼が声をかける。
扉越しから、微かな香の匂いがした。
蘇芳が出ていった後、間もなく何人かの子鬼が桔梗の部屋を訪ねてきた。
そして、湯浴みを済まし何やら良い香りのする粉を首もとにはたかれ、薄手の衣装に着替えさせられた。
「入れ」
低いが、よく響く声が中から聞こえ、桔梗の身体がビクリと揺れる。
中に入ると、思ったほど広くはない。が、高価そうな彫刻の施された椅子や卓が置かれ、その奥には大きな寝台。豪華な刺繍の施された寝具の上に、鷹呀は足を組み座っていた。
香の匂いが一層強くなる。
「待ちかねたぞ、ここに来い」
片手を差し出し、此方に来るように促す動作をすると、ここまで案内してくれた子鬼は頭を下げ立ち去る。
桔梗は暫く動けずにいたが、意を決したように鷹呀を真っ直ぐ見ると彼の目の前まで歩み寄った。
「昨夜は楽しめたか?」
「っ!?」
いきなり訊かれ、桔梗の顔がカッと赤く染まる。
「……この場で脱げばいいのか?」
質問には答えず、自分の腰紐に手をかけた桔梗だったが。
不意にその腕をつかまれ引っ張られた。
「阿呆め。衣服は脱がせるのが楽しみなんだ」
鷹呀はそう言いながら、自分の膝の上で固まる桔梗を見下ろす。
緊張のため強ばるその頬に、鷹呀は指を滑らせた。そのまま首筋へと這わすと桔梗の身体が微かに震える。
その手を鎖骨から胸元へと潜り込ませた。
桔梗の身体が更に強ばるが、鷹呀はそんな反応も愉しんでいるようだ。
胸をやんわりと下から揉み上げると、眉根を寄せて目を瞑る。
「ん……ふっ……」
自分の口から声が漏れたので、それに驚いて桔梗は片手で口を覆う。
先程から何か変だ。
頭の芯がぼーっとしてくる。
そうだ、この香を嗅いでからだと気が付いた。
胸を揉まれているうちに、襟元がはだけ片方の乳房が露になると鷹呀の指が先端を刺激し始めた。
「はうっ……ん。……この、匂いは……なんだ?」
「ああ、気が付いたか? 鬼用の媚香を薄めたものだ。人間には少し効きすぎるんでな」
「び……こう?」
息づかいが乱れ始めた桔梗の耳元へ顔を近づけ、耳たぶを甘噛みするとその身体がビクンと揺れる。
「理性が飛ぶほど乱れても、香のせいにできるだろう?」
「んっ……」
鷹呀はそう囁いた後、首筋にかぶりつく。
その肌に舌を這わせると、桔梗は堪えるように身体を捩らせた。
「あっあっあっ、──んんっ!!はっ……」
「ほら、指を増やすぞ」
膝の上で、ほとんど衣服がはだけた状態の桔梗は、涙を浮かべて鷹呀の服にしがみつく。
既に中指を飲み込んだ秘部へ、更に人差し指を挿し入れる。
「ひっ……あぁっ」
人とは太さが違う鷹呀の指は、二本だけでもかなりきつい。
二本の指で窒壁を刺激すると、ある箇所で桔梗の身体がびくんと揺れた。
「ここがいいのか? 凄いな、もうこんなにトロトロだ」
桔梗が反応した場所を刺激する。
「あっ、やぁぅ……なに、そこ。んんっあっあっ、おかしく……なる、いぁぁっ!!」
「しっかり解さんと、俺のモノは挿入らんぞ? 我慢しろ」
指先の動きを激しくしながら、鷹呀は桔梗の顔を見下ろす。
その動きに連動するように身体を反応させながら、その口からは切ない声を漏らしている。いつも涼やかな切れ長の眼から、一筋涙が落ちた。
鷹呀は、自分の唇でその口を塞ぐ。無理矢理舌を割りいれると、桔梗の窒内がきゅっと締まった。
「あっふ……んっ」
口を塞がれ、苦しくなった桔梗は酸素を取り込もうと口を開くが、そこへ鷹呀が更に舌を深く挿し入れるので、息苦しさに眉根を寄せた。彼の服を掴んでいた手に力がこもる。
鷹呀が唇を離すと、やっと解放された口で絶え絶えに息をした。
窒内から指を抜き、桔梗の身体を寝台の上に寝かせる。
ぐったりと横になる桔梗の胸が、呼吸の度に上下した。
寝台の横に立ち、鷹呀は自身の衣服を脱ぐ。
その衣擦れの音に桔梗が見上げると、一糸纏わぬ姿の鷹呀が口元に笑みを浮かべながらこちらを見下ろしていた。
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