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第三章
離ればなれの嘆き
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私は心に決めていた。──白瀬さんがいても、今日こそはナナと話す。意を決してナナたちの元へ歩きだす。白瀬さんに愚痴を言われるのは、私だけなんだから。
「…ナナ!」
ナナはこっちを振り向いた。朝比奈さんは穏やかな顔をしているが、白瀬さんは殺意あふれた顔をしている。――怖い。でも今行かなきゃ、もうナナと話せなくなるかもしれない。そんなの、絶対に嫌だ…!
「の、のぞ…?えっと、廊下出よ?」
…あれ?覚悟して臨んだのに、白瀬さんは何も言ってこないんだ…?良かった。
「のぞ、教室で話しかけてくれてありがとう。勇気出したでしょ?」
廊下に出た最初のナナの第一声は、そんな温かい言葉だった。涙があふれそうになる私に、ナナは言ってくれた。
「私は友達を失うことが怖くて、のぞに話しかけられなかった。でも思ったの。友達を失うことも怖いけど、のぞを失うことも同じくらい怖いって。」
「ナナ…。」
私は自惚れていたのかもしれない。ナナの言葉を真に受けて、勝手に幸せな気分になっていた私がいけなかったのだろうか。次にナナの口から出たのは、逆接だった。
「でもね、それはこの前までの考え。」
「…え?」
それ、どういう意味…?
「のぞは私の存在が原因で、新しい友達を作ろうとしないじゃん…?だから今私がのぞから離れることが、最善なんじゃないかって。」
ナナは今にも泣きそうな声で言った。びっくりした、白瀬さんに呪われたのかと思った。白瀬さんと同じような考えになってしまうと、話が通じなくなるから怖かった。ナナは良心のうえで言っているのだ。
「ナナ、私はナナ以外考えられないの…!ナナは優しくて可愛くて、私にはないものをたくさんもってる!どうか、私を捨てないで……。」
泣きそうな私の嘆きは、ナナにちゃんと届いただろうか。
「のぞっ!私もっ──」
「いい加減やめてあげてー?」
え……?声を辿ると、そこには白瀬さんがいた。嘘…やめて、邪魔しないで──
「菜々美は控えめだからはっきり言えないよね。私が言ってあげるっ。」
やめて──。せっかくいい感じだったのに…!ナナ、何か言ってよ…。──白瀬さんが近づいてくる。
「希ー?ウ・ザ・い。分かる?」
鳥肌が立つ。これ以上ナナに何かしたら、本格的にいじめられるかもしれない…。どうしても恐怖心が勝ってしまって、何も…言い返せない…。
「ちょっと香瑠──」
「菜々美、大丈夫だよ?私が全部、言ってあげるからねー。」
白瀬さんは、真顔でナナの腕を掴んで足早に教室へ向かっていく。どうしよう…。どうしよう──
「香瑠…痛いよぉ。」
「…っ!」
私は見てしまった。今、ナナが笑ってた…。人と話しているところを邪魔した本人に、笑いかけていた…。嘘。ナナ、嘘…だよね…?私はなぜか、敗北感に囚われていた──。
あらから数日。何故かナナと、少しずつ話せるようになった。白瀬さんがいてもナナは話しかけてくれるし、白瀬さんも何も言わなかった。前のように毎日は話せないことが残念だけど、話せるだけでまだ良かった。
今日もナナと話せる。その事実は、ただただ嬉しかった。そんなワクワクした気持ちで教室に入る──。あれ?ナナは…?教室のどこを見渡してもナナはいない。
「菜々美オモシロー!」
ナナ?振り返ると白瀬さんとナナが、ちょうど教室に入ってきたところだった。…焦った。
「ナナっ──」
「菜々美ー。今日一緒に帰らなーい?みんな部活でさー。」
…白瀬さんの声にかき消されてしまった。もう一度…。
「ねぇ、ナ──」
「てか菜々美さー、もしかして帰宅部?」
「うん!私帰宅部部長!」
「あははっ!なにそれー。」
…あれ?いつもなら白瀬さん、邪魔してこないのに。それにナナも、なんでこっちすら向いてくれないの…?なんだか今日は、おかしい…。
「そうだ菜々美!今度いろと菜々美と私の3人で、どっかお出掛けしよー!」
「あ、いいよ。いろちゃん誘いに行こ…?」
「おーけー!」
ナナ…。あの時と同じだ…。どんどん離れていく…。昨日まで一緒にいたのに、どうして…?
**
あぁ可哀想!菜々美と希を一週間ほど話させた後に、私が急に引き離す。そうすると希は、悲しい顔をするの。その顔がたまらない!もっと悲しんで?もっと苦しんで?私が苦しめられたように。
私はこの如月希が許せない。いつもいつも、私の大好きな菜々美と一緒にいて…。「幼なじみ」というだけの関係なのに、ずっとずっと…。希がいなければ、私は菜々美とずっと一緒にいられるのに。あぁあ、希、早くいなくならないかなぁ…。
***
あれからずっと、白瀬さんは邪魔してくる。どうして急に引き離すの…?やっとナナと話せると思ったのに。分からない…。白瀬さん、どうしてこんな酷いことをできるのか。ナナがいないと、苦しいのに。もう、嫌だ……。
「…ナナ!」
ナナはこっちを振り向いた。朝比奈さんは穏やかな顔をしているが、白瀬さんは殺意あふれた顔をしている。――怖い。でも今行かなきゃ、もうナナと話せなくなるかもしれない。そんなの、絶対に嫌だ…!
「の、のぞ…?えっと、廊下出よ?」
…あれ?覚悟して臨んだのに、白瀬さんは何も言ってこないんだ…?良かった。
「のぞ、教室で話しかけてくれてありがとう。勇気出したでしょ?」
廊下に出た最初のナナの第一声は、そんな温かい言葉だった。涙があふれそうになる私に、ナナは言ってくれた。
「私は友達を失うことが怖くて、のぞに話しかけられなかった。でも思ったの。友達を失うことも怖いけど、のぞを失うことも同じくらい怖いって。」
「ナナ…。」
私は自惚れていたのかもしれない。ナナの言葉を真に受けて、勝手に幸せな気分になっていた私がいけなかったのだろうか。次にナナの口から出たのは、逆接だった。
「でもね、それはこの前までの考え。」
「…え?」
それ、どういう意味…?
「のぞは私の存在が原因で、新しい友達を作ろうとしないじゃん…?だから今私がのぞから離れることが、最善なんじゃないかって。」
ナナは今にも泣きそうな声で言った。びっくりした、白瀬さんに呪われたのかと思った。白瀬さんと同じような考えになってしまうと、話が通じなくなるから怖かった。ナナは良心のうえで言っているのだ。
「ナナ、私はナナ以外考えられないの…!ナナは優しくて可愛くて、私にはないものをたくさんもってる!どうか、私を捨てないで……。」
泣きそうな私の嘆きは、ナナにちゃんと届いただろうか。
「のぞっ!私もっ──」
「いい加減やめてあげてー?」
え……?声を辿ると、そこには白瀬さんがいた。嘘…やめて、邪魔しないで──
「菜々美は控えめだからはっきり言えないよね。私が言ってあげるっ。」
やめて──。せっかくいい感じだったのに…!ナナ、何か言ってよ…。──白瀬さんが近づいてくる。
「希ー?ウ・ザ・い。分かる?」
鳥肌が立つ。これ以上ナナに何かしたら、本格的にいじめられるかもしれない…。どうしても恐怖心が勝ってしまって、何も…言い返せない…。
「ちょっと香瑠──」
「菜々美、大丈夫だよ?私が全部、言ってあげるからねー。」
白瀬さんは、真顔でナナの腕を掴んで足早に教室へ向かっていく。どうしよう…。どうしよう──
「香瑠…痛いよぉ。」
「…っ!」
私は見てしまった。今、ナナが笑ってた…。人と話しているところを邪魔した本人に、笑いかけていた…。嘘。ナナ、嘘…だよね…?私はなぜか、敗北感に囚われていた──。
あらから数日。何故かナナと、少しずつ話せるようになった。白瀬さんがいてもナナは話しかけてくれるし、白瀬さんも何も言わなかった。前のように毎日は話せないことが残念だけど、話せるだけでまだ良かった。
今日もナナと話せる。その事実は、ただただ嬉しかった。そんなワクワクした気持ちで教室に入る──。あれ?ナナは…?教室のどこを見渡してもナナはいない。
「菜々美オモシロー!」
ナナ?振り返ると白瀬さんとナナが、ちょうど教室に入ってきたところだった。…焦った。
「ナナっ──」
「菜々美ー。今日一緒に帰らなーい?みんな部活でさー。」
…白瀬さんの声にかき消されてしまった。もう一度…。
「ねぇ、ナ──」
「てか菜々美さー、もしかして帰宅部?」
「うん!私帰宅部部長!」
「あははっ!なにそれー。」
…あれ?いつもなら白瀬さん、邪魔してこないのに。それにナナも、なんでこっちすら向いてくれないの…?なんだか今日は、おかしい…。
「そうだ菜々美!今度いろと菜々美と私の3人で、どっかお出掛けしよー!」
「あ、いいよ。いろちゃん誘いに行こ…?」
「おーけー!」
ナナ…。あの時と同じだ…。どんどん離れていく…。昨日まで一緒にいたのに、どうして…?
**
あぁ可哀想!菜々美と希を一週間ほど話させた後に、私が急に引き離す。そうすると希は、悲しい顔をするの。その顔がたまらない!もっと悲しんで?もっと苦しんで?私が苦しめられたように。
私はこの如月希が許せない。いつもいつも、私の大好きな菜々美と一緒にいて…。「幼なじみ」というだけの関係なのに、ずっとずっと…。希がいなければ、私は菜々美とずっと一緒にいられるのに。あぁあ、希、早くいなくならないかなぁ…。
***
あれからずっと、白瀬さんは邪魔してくる。どうして急に引き離すの…?やっとナナと話せると思ったのに。分からない…。白瀬さん、どうしてこんな酷いことをできるのか。ナナがいないと、苦しいのに。もう、嫌だ……。
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